FC2ブログ

Stories of fate


花籠 3

花籠 3 (会合) 19

「一つおうかがいしても?」

 庄司は、どうしてもこの場の空気にそぐわない奈緒をじっと見つめながら言った。

「なんなりと。」

 さすがに、相手に申し訳ない気分になったローズは、それまでの厳しい表情を崩して彼を見つめた。
 庄司の言い分だと、今回、彼らは『花籠』の名代としてこの場で交渉事を成立させるための要員だった筈、らしい。それなのに何故その情報が届いていないのだ?‘竹’が知らなかったとなると、龍一が初めから伝えるつもりがなかったとも受け取れる。それなら、この場をいったいどうしたら良いのだ。

 明らかに相手は、組織の代表として、トップからの伝言を預かってここに臨んでいるのだ。
 自分達の立場のマヌケさにもほどがある。

「チェリーは…その、彼女はどのような仕事を?」

 名前を呼ばれて、さすがに彼女は顔をあげた。その瞳に出会い、庄司はふっと笑みがこぼれそうになるのを慌てて制する。施設の子ども達のような純粋な目だ。

 ああ、とローズが彼女に視線を移して、その瞳に温かい光が宿ったことを庄司は気付いた。

「この子は、まだ登録になってない。今のところはまだ何も。実を言えば、今回のこの席が彼女の初仕事のようなものかも知れない。」
「では、普段は…」
「『花籠』が店を持っていることはご存知か?」
「ええ。」
「そこで一般客を相手に働いている。」
「…こんな少女が?」
「この子は訳あって、俺が預かっているんだ。」

 庄司は、少し考え込んだ。
 こんな風に、この子は光を失わずに生きている。それは組織の在り方なのか、傍にいる男の存在なのか。
 いずれにしろ、それを許されているのだ。
 何を聞いて良いのか分からずに、躊躇いながらも庄司は再度口を開く。

「あなた方の仕事を…お話しいただいでも? 例えば…ローズ、貴方の仕事はどんなものか。」

 ローズは相手の瞳の光が、同じように幾分和らいだことを感じて話し出した。

「俺は、物に宿る残留思念を辿れる。それで、死者の声を聞いて、依頼主の知りたい情報を拾う。まぁ、年間そんなに多くはないが、それがメインだ。」
「それは…」

 庄司は驚いた。

「本当に特殊技能ですね。」
「…まぁ、その類に入るんだろう。それ以外にも探偵の真似事をしたり、今日、本当は一緒にここに来る筈だった相棒の手伝いをしたりはするがね。」
「相棒さんは、今日は?」
「訳があって車で待機している。」
「その方は…」

 一瞬、ちらりと奈緒に視線を向けてローズは言葉を濁す。

「あいつは、体力勝負の男で、力仕事は何でもやるし、俺と共に動く場合は…所謂、最後までを請け負うこともある。」

 庄司は、一瞬、訝しげな表情を浮かべ、同じように奈緒に視線を走らせて、…そして頷いた。頷きながら、庄司はローズの飲み込んだ言葉を理解して妙な感慨を得ていた。こんな風に、仲間への気遣いがあり、温かいものを抱いている世界であることに。

「では、いずれ、チェリーも…その、相応の訓練を受けさせて登録というお考えが?」
「…いや、この子は…。」

 ローズは奈緒の視線を感じながらも彼女の方は見なかった。

「まだ、決めてはいない。…それから、『花籠』に特に訓練機関はないよ。能力は個別のものであって、一様に訓練したからといって身に付く訳でも伸ばせる訳でもないだろうし。ただ、ある一定の技能を磨くための特殊訓練は受けることが出来るそうだ。相棒もそこの訓練を経て、今は教官も兼ねているらしいが…。」
「…それは希望すれば受けられるものなのか?」
「誰でも。」

 ローズは微かに笑った。

「『花籠』は何もかもが個人主義だ。技術を磨き、能力を発揮出来なければ仕事をまわしてもらえない。つまりは収入がないということだ。欲しければやるし、それほど仕事をしたくないなら構わない。そんないい加減な人間の集まりだよ。」

 思わぬ話に、庄司は唸った。
 『スムリティ』とはあまりに違う組織構成、仕事の進め方。組織としての規律も体系も整っている訳ではないのに、整然とした秩序があり、それぞれが与えられた役割を全うするだけで立ち行く構図。

 龍一の仕事は、メンバーが考えているよりももっと複雑でもっと困難なものであろう。仕事に向かう個々のために、状況設定や背景を整え、情報を駆使して采配を振るう。恐らく、彼の傍、中枢にはそういう仕事を請け負う専門の人材もいるに違いない。

 劉瀞が気味悪がっている花篭龍一という人物を、そのとき庄司も恐ろしく感じた。
 だがむしろ、彼の言葉を信じるなら、劉瀞が警戒しているような事態は起こり得ないのではないだろうか。能力以上のことを求められ、子ども達が傷ついたりなど、そんな事態にはならないのではないかと。

「最後にひとつ。」

 庄司は言った。

「花籠を…いえ、組織としてではなく、花篭龍一という人物をどう捉えていますか?」
「俺が?」
「ええ。」

 ローズは苦笑して少し考えた。

「さあ。…いや、誤魔化している訳じゃないが、俺は彼に対して特に何も思ってはいない。今の今まで、俺は彼と面識はないんだ。恐らく、君たちの組織では明確な上司という存在があるんだろう。だが、我々にはそういうモノは存在しない。同じ仕事をする仲間がいるときに、そこにリーダー的存在は生まれるが、普段、それぞれが独立した個人で、そもそも組織と呼べるのか分からない。我々は、登録メンバーに過ぎないんだ。そして、花篭は、仕事を請け負い、それを内容に寄ってメンバーに配分し、報酬を支払っているだけの謂わば元締めであって、君たちの‘総帥’のような崇拝すべき存在ではないんだ。だから、正直、花篭がどんな人間であろうと俺は構わない。まぁ…さすがに立て続けにこき使われると腹は立つがね。」
「…分かりました。」

 庄司は、静かに二人を見つめた。

「よく、分かりました。貴方方を交渉要員として俺に引き合わせた花篭の意図が。」


関連記事
スポンサーサイト



もくじ  3kaku_s_L.png 紺碧の蒼
もくじ  3kaku_s_L.png 真紅の闇
もくじ  3kaku_s_L.png 黄泉の肖像
もくじ  3kaku_s_L.png 花籠
もくじ  3kaku_s_L.png 花籠 2
もくじ  3kaku_s_L.png 花籠 3
もくじ  3kaku_s_L.png 花籠 4
もくじ  3kaku_s_L.png 花籠 外伝集
もくじ  3kaku_s_L.png 蒼い月
もくじ  3kaku_s_L.png 永遠の刹那
もくじ  3kaku_s_L.png Sunset syndrome
もくじ  3kaku_s_L.png 陰影 2
もくじ  3kaku_s_L.png Horizon(R-18)
もくじ  3kaku_s_L.png Sacrifice(R-18)
もくじ  3kaku_s_L.png 閑話休題
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  ↑記事冒頭へ  
←花籠 3 (会合) 18    →花籠 3 (会合) 20
*Edit TB(0) | CO(2)
ジャンル:[小説・文学] テーマ:[現代小説

~ Comment ~


どんな意図でしょう・・・?

ローズとスミレは花籠トップとして花篭龍一から相当信頼されているのでは?

さらには、チェリーちゃんの動向をも見守っているのでは?

その空気を感じ取る庄司も全権を委ねられてここにいる。

この、トップ会談、凄いですねぇ~。
何かが起きる、何かが起きるぅ~~

渦巻き始めていますよ~
#1263[2012/01/10 10:34]  けい  URL 

けいさまへ

けいさん、

> どんな意図でしょう・・・?

↑↑↑はい、大筋はあれです。弥生ちゃんを貸して欲しいって話なので、それを納得していただきたかったに過ぎないんです、花篭は。
ううむ。
まぁ、またこの件は‘4’まで持ち越しますので、そのときに「全然分かんないんですけど」となったら再度、突っ込んでください(^^;

> この、トップ会談、凄いですねぇ~。
> 何かが起きる、何かが起きるぅ~~

↑↑↑いや、すみません、もう終了です(・・;
っていうか、庄司は確かにすごく劉瀞に信頼されて全権を委ねられてここにいるんですが、花篭は基本フザケた男なので、単に楽しんでいるに過ぎないかも知れません。
こいつは、トップというより引っかき回し坊やかも(^^;
冷静で思慮深い(?)人材が傍にいるのかもね。(少しは設定考えろよ(--;)

で、実は…という話をいたしますと、‘3’は、単に今までのキャラを使う機会が欲しかったのと、スムリティの人物を出すにはどうしたら良いのか? 程度で生まれた世界なので、何も起こらず過ぎていくだけです。
‘4’で少し動きます。
いや、動きすぎて収拾つかなくなってます(--;

なんとなく分かってきたのは…
花篭龍一の正体ってfateじゃね? ってことです。
いや、嘘です、嘘です、嘘ですっ
そんなこと絶対ありませんから、見捨てないで~~~~っ
#1267[2012/01/11 08:21]  fate  URL 














管理者にだけ表示を許可する

~ Trackback ~


  ↑記事冒頭へ  
←花籠 3 (会合) 18    →花籠 3 (会合) 20