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Stories of fate


花籠 3

花籠 3 (会合) 14

「君、ちょっと一緒に来てもらえるかな?」

 ローズとスミレは李緒の両脇にすっと立った。はっとして二人を見上げた瞬間には、スミレが李緒の肩を抱いて傍らに立ち、ローズはうろたえる奈緒を視線で制して同じように李緒の背後にまわった。

「そのまま進んで。そう、大声を上げたりしなければ、痛い目には遭わないよ。」

 今のところはね、という言葉を呑みこんで、ローズは静かに彼女に声を掛ける。不安そうにローズを見上げながらも、奈緒はただ彼らに従うしかない。

 李緒はしかし、震える身体とは裏腹に、心がしんと静かになっていた。
 この3人について行けば、もしかしてジャスミンに会えるのではないかと一縷の望みを抱いたのだ。このままただ偶然を待っていたところで、恐らく会える確率などゼロに等しい。

 このまま会えずに、彼に焦がれ続けて生きるより、一目でも会えるのなら賭けてみたかった。
 そう。ただ、会いたかった。
 徒歩で十数分の駐車場に辿り着き、スミレは助手席の扉を開けて、奈緒を見下ろす。

「チェリー、ちょっと君が助手席に乗ってもらえるかな?」
「…え? はい。」

 奈緒は一瞬、ローズに視線を走らせ、彼が小さく頷くのを確認して車に乗り込む。後部座席に李緒を押し込み、ローズが乗り込んだのを確認して、スミレも運転席に座った。

 李緒は、男が少女にチェリーと呼びかけたのを聞いて、更にぞくりと背筋が冷えるのを止められなかった。バカな聞き方をした。そう。彼らはまさにジャスミンと同じ世界の人間だ。そして、あのとき、あの場にいた数人と同じ…。目撃者は始末しろ、と言い放ったあの男と。

 それでも。
 ジャスミンに少し近づいた気がして、李緒は震える身体を抱きしめた。
 会えるかも…知れない。

 動き出した車の、流れる車窓の景色を見つめて、李緒はジャスミンの面影を心に描き出す。彼の仕事、殺人現場を見た筈なのに、そのときの彼のことはもう思い出せない。その後、やっと頭がはっきりしたのは、部屋を探して契約をしてくれた彼の笑顔と、一緒に買い物に出かけたときの子どものように目をキラキラさせて家具を選んでくれた横顔。そして、別れを言い出した日の柔らかい悲しみのヴェールに包まれたシルエットだけだった。

 ‘俺、今日はお別れを言いに来たんだぁ’

 いつもの語尾を柔らかく伸ばす甘い話し方で、ジャスミンは言った。その言葉を思い出す度に、李緒は涙が溢れそうになる。胸が塞がれたようになって、呼吸がうまく出来ないような気がしてくる。

 もう一度、会いたい。
 

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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[現代小説

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