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Stories of fate


花籠 3

花籠 3 (動き出した輪) 9

 途中、‘竹’に寄って、仕事の詳細を確認した三人は、結局「…???」というままだった。いや、‘竹’の店主自体、詳しいことは知らないようだった。ただ、他組織の誰かと待ち合わせて仕事の話し合いをするということらしい。指定時間は午後の2時。まだ、お昼にもなっていないので、三人は適当に都内を流している。

「渋谷駅のハチ公って知ってるかい? チェリー。」

 車を運転しながら、後部座席のチェリーに話しかけるスミレ。

「え? …あ、聞いたことはありますけど、見るのは初めてです。」
「そりゃ、良い。せっかくだからローズと一緒にハチ公の銅像前で写真撮ってあげるよ。」
「断る!」

 チェリーが返事をする前に、助手席のローズが憮然と言い放つ。

「なんだよ、俺はチェリーに言ってるんだぜ。」
「そんな場合じゃないだろう。」
「だって、‘竹’が言ってたじゃないか。チェリーにせっかくだから東京見物もさせてやれ、って。そうだなぁ、指定の時間までに東京タワーも案内してやるよ。」

 呑気なスミレとは裏腹に、奈緒を連れていることで、スミレはぴりぴりしていた。だいたい、チェリーの登録をまだ認めていないのに、今回のこの仕事の指定自体が気に入らなかった。『花籠』の仕事はもちろん仕事だから、断ることなど出来ないのだが、チェリーとしての奈緒はまだメンバーではない。必ず一緒にと言われる筋合いはないと思っているのだ。しかも、仕事の内容がはっきりしていない。それが大きな不安だ。危険が伴うような仕事をいきなりまわしてくることはないだろうと思うが、そこまで信用して良いものかどうか実はよく分からない。

 ローズもスミレも、花篭龍一とは面識がなかった。電話ですら滅多に直接話すことはない。連絡は‘店’から店主を通して受けるのみだ。

 そんな不確かな相手に、奈緒の処遇を預けられるのだろうか。

「心配するなって。店主の話だと、恐らく別組織のメンバーとの顔合わせ程度のことらしいじゃないか。俺らには分からんが、トップ同士が合意したから形式的に顔合わせするってことだろ? たまに下っ端同士でも仕事場がバッティングして慌てることがあるから、そういうことを防止したいんだろ? そもそも…」

 スミレは、次の言葉を慌てて呑みこんで隣のローズの横顔を盗み見る。

 そう。そもそも、チェリーが別組織の事件に巻き込まれたときに、彼女を引き取りに行ったのが、ローズだったのだ。反目し合っている組織もあるが、お互いに不可侵、或いは相互にある程度協力関係にある組織もある。ある程度の情報はそれぞれの店の店主が与えてくれる。余計なトラブルを起こさないためだ。

 ローズはほとんどスミレの言葉を聞いていなかったようだ。まったく表情を変えずに厳しい目をして前を向いていた。

「あまり気負うなよ、ローズ。俺たちは俺たちが出来ることをするだけだよ。」

 そして、バックミラーで奈緒の不安そうな瞳にウィンクをして、スミレは笑う。

「チェリー、お前もだ。手に負えないことを花篭は任せたりしない。」
「はい。」

 奈緒は、スミレの笑顔に幾分ほっとして安堵の表情を見せた。

 昨夜のローズの不安が、むしろ奈緒は怖かった。彼がそんな風にいつでも心配してくれることが。奈緒はもう覚悟を決めたのに。愛する相手と同じ世界で生きることを。いつか仕事のために命を落とすかも知れないことも。奈緒はただ不安の中でローズを待つ生活はイヤだった。傍にいれば何か出来るかも知れない。かつてローズが奈緒を救ってくれたように、今度は彼を助けることが出来るかも知れない。

 それだけで良いと。今、傍にいられるだけで良いと、奈緒はとっくに決意していたのだ。
 もう生涯、本名を名乗ることがないことも。
 ‘チェリー’として、生きて、死んでいくことを。
 
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