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Stories of fate


花籠 2

花籠 2 (華麗なる殺戮) 16

 アイリスは、倒れた男をズルズル引きずって、廊下の端に横たえ、小さなガラスの小瓶を彼のポケットに忍ばせる。

「ああ、疲れた! 可憐な女性にこんな肉体労働させるもんじゃないわよ、まったく!」

 身体を起こして彼女はスッと背筋を伸ばし、エレベーターに向かう。廊下は静かだった。しかし、監視カメラが作動していたことをアイリスは失念していた。

 監視カメラ映像を観ていた警備が、慌てて6階へ向かう。そして、同時に7階の社長一家へ連絡が入る。お陰で7階へ向かったアイリスはエレベーターを出た途端、捕まってしまった。

「何モノだ、お嬢さん。」

 あっという間に不穏な空気を抱く数人の男に取り囲まれ、アイリスは一瞬「あら」という表情をしただけで、初めから抵抗せずに捕まった。
 彼女を捕えた黒服の男が背後からその腕をねじ上げながら社長室へ引きずっていく。

「何すんのよ~。道に迷っただけなのに!」
「…道に迷ってどうして最上階まで来るんだ。」

 ふん、と背後の男は笑い、周囲にいる比較的若い連中は無言で彼女を取り囲んでいる。
 エレベーターから社長室前までは朱色のジュータンが敷かれ、重々しい金属製の扉が奥に見える。

 そして、案内された扉の向こうは、趣味の悪い豪華な応接の間だった。いろんな動物の毛皮が床一面に並べるだけ並べられているという奇妙な空間。そして、壁には気味の悪い動物の剥製が並ぶ。

 どっかりと置かれた革張りのソファには羊の形をした羊毛がクッション代わりに敷かれ、その意味の分からない空間にアイリスはぞっと背筋が冷えた。そのソファの中央に彼女のターゲットである社長と、夫人、そして、背後には息子らしき人相の悪い男が立っている。

 社長の服装の趣味の悪さにもアイリスはウンザリした。ブランドというブランドに身を包んでいるが、…一言で言えば、そのあまりの脂肪体型に似合わないことこの上ないのだ。それはややランクは落ちるものの将来の体型を約束されているであろう、小太りの息子も同じだった。

 夫人はまるで骸骨みたいに痩せて頬がこけている。顔色がどす黒く、目が変にギラついている。決して健康そうには見えないのに、肌の照りは異常なほどだ。何かおかしな薬を使っているのかも知れない。

 まったく意味が分からない一家だ。

「気持ち悪い…」

 思わず漏れたアイリスの呟きに、背後の男がふんと鼻を鳴らす。

「誰に頼まれてここに忍び込んだ?」

 社長の野太い声が聞く。

「誰に…? そうねぇ、数え切れない被害者からだと思うわよ?」

 にこりと屈託ない笑みを浮かべてアイリスは社長の目を見据える。

「お前…一人か?」
「ええ。」
「そんな筈はありませんよ。」

 背後の男が言う。

「他に何人いるんだ?」
「一人よ。」
「そんな訳ないだろう!」

 男の腕が彼女の腕をひねり上げる。

「きゃあああっ、痛いわよっ」
「だったら、本当のことを言え!! どこの組織だ? どのグループだ?」
「じゃあ、言うわよ。階下に100人よっ」
「デタラメを言うなっ」

 遂にカッと頭に血がのぼり、男はアイリスの腕を離してその頬を殴り飛ばす。腕力だけが取り得のあまり頭の良い男ではないらしい。

 大きな悲鳴をあげてアイリスは床に倒れた。唇の端に紅い筋が流れる。社長も夫人もどこか残忍な笑みを浮かべてその様子を見つめていた。

「いや、待て。こいつはテロ集団を率いてきたこの間のやつらの一味なのかも知れない。」
「じゃあ…」
「そうよ、今日の客は皆仲間よ。今頃、階下は制圧されているわよ。」

 一瞬、男たちの顔に動揺が走った。あら、言ってみるものね、とアイリスは心の中で舌を出す。

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