FC2ブログ

Stories of fate


花籠 2

花籠 2 (華麗なる殺戮) 14

 販売会場となっている会議室には、そこそこの人数の客と、サクラの社員がいた。

 そのほぼ後方中央部に座って説明を聞いていた牡丹は、裏口の蛇が一匹、ようやく建物に侵入した気配を察知した。微かな返事が返ってきたのだ。言葉のような明瞭なモノではないそれは、イメージのみが伝わってくる。周囲の様子と、それ自身の怯えのようなものを感じて、牡丹はほんの少し心が痛んだ。もともと蛇は臆病な生き物である。他の生物に対する攻撃も、むしろ防御の意味合いが強い。決して殺戮を是としている訳ではないのだ。

 牡丹は暗がりに紛れて中へ進むことを指示する。決してヒトに見つからないように祈りながら。

 数匹の蛇くらい、カバンか何かに入れて連れ込めば良いようなものだが、建物に入るときに荷物を預けなければならないことを入り口で知り、慌てて牡丹は外へ出た。そして、抱えていたバッグから蛇を裏口へ逃がし、ここで待つようにと指示をして戻ってきた。

 カメラや録音機など、もちろん持ち込み禁止で、財布などの貴重品以外を会場へは持っていけない状況だった。会社側はそれについていろいろ言い訳をしていたが、要は警察の潜入捜査などが怖いのだろう。

 説明が終わったらしく、会場内はざわつき、牡丹ははっとする。雑談が始まり、意識が集中出来なくなる。サクラの社員はこぞって説明された健康食品を注文し始める。すると、それにつられるように大勢の空気が動いた。

 注文書のようなモノが回ってきて、牡丹は無言でそれを手に取り、無意識にペンを走らせながら蛇の思念派を追う。予め用意していた偽名と偽の口座番号などを書き込みながら、初回のみは現金で、という情報のまま財布の中から数千円を取り出す。

 商品を受け取って客がぞろぞろと会議室を出ていく。

「あの…」

 牡丹はお金を払って商品を受け取るときに、言ってみた。

「ここの社長さんとか、人事担当の方にお会いすることって出来ますか?」
「…どうしてですか?」
「はい、僕、大学生なんですけど、今、就活中なんです。今回、こちらの会社にすごく興味を抱きまして、出来れば…」
「君、3年生なの?」
「ええ。」
「残念ながら、今は社員は募集してないんだよ。」
「では、そのお話だけでも…」

 商品を受け渡ししている男は、少し疑いの目で牡丹を見つめる。

「君、今回初めて?」
「はい。」
「誰の紹介でここを?」
「駅前でティッシュを配ってたじゃないですか。」
「あれで、興味を抱いてくれたの?」
「はい。」

 花籠の情報は細部までしっかりしている。もともと頭の良い牡丹は、与えられた情報をすべて頭に入れてある。
 ふうん、と男は少し嬉しそうな表情をした。その駅前でティッシュを配っていたのがこの男だったのかも知れない。

「今度、履歴書、持ってきて。」
「今書いた顧客情報じゃダメですか?」
「学校名とか家族構成とか必要だからね。」
「今すぐ書けますけど!」
「ダメだね、まだ人事担当にも話を通してないし。」

 気がつくとそこに残っているのは牡丹とその男だけになっていた。

「分かりました。じゃあ、面接の日程だけでも…」

 不意に廊下に人の気配がした。若いが、やたらと目つきが怪しい男がどこか固い表情でやってきて、牡丹と話していた男に目で合図する。牡丹はそれに気付かない振りで、男が彼から目をそらした瞬間、急いで蛇を呼び寄せる。

「ああ、君、今日はちょっと取り込んでいるから、後日改めて連絡するよ。」

 廊下に現れた男はもういなかった。今まで牡丹と話していた彼もそう言い残してどこか慌てて先ほどの男の後を追っていく。牡丹は彼の背中を見送って、まだ階段を上っているらしい蛇に指示を送り続け、励ました。

「良いのかなぁ、僕をここに残して。」

 小さく呟きながら、牡丹はエレベーターのある表側ではなく、反対側へ向かって廊下の端で足を止める。そして、彼は非常口の扉を見つめ近づこうとしたとき、廊下の隅にカメラの気配を感じた。

 あらら、マズイな。
 ここから残りの蛇を引き入れようと思ったのに…。

 それで、彼はいかにも道に迷った風にきょろきょろと辺りを見回してみる。そして、初めて扉の存在を知ったように近づき、扉の内側のロックを外した。

 更に、ああ、間違っちゃったと叫んで、慌てて戻る素振りをして、扉に小さな釘を挟んで隙間を開けたまま引き返した。

「さて、後はアイリスさんの補助を…」

 そのとき、警報ベルがけたたましく鳴り出した。


関連記事
スポンサーサイト



もくじ  3kaku_s_L.png 紺碧の蒼
もくじ  3kaku_s_L.png 真紅の闇
もくじ  3kaku_s_L.png 黄泉の肖像
もくじ  3kaku_s_L.png 花籠
もくじ  3kaku_s_L.png 花籠 2
もくじ  3kaku_s_L.png 花籠 3
もくじ  3kaku_s_L.png 花籠 4
もくじ  3kaku_s_L.png 花籠 外伝集
もくじ  3kaku_s_L.png 蒼い月
もくじ  3kaku_s_L.png 永遠の刹那
もくじ  3kaku_s_L.png Sunset syndrome
もくじ  3kaku_s_L.png 陰影 2
もくじ  3kaku_s_L.png Horizon(R-18)
もくじ  3kaku_s_L.png Sacrifice(R-18)
もくじ  3kaku_s_L.png 閑話休題
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  ↑記事冒頭へ  
←花籠 2 (華麗なる殺戮) 13    →花籠 2 (華麗なる殺戮) 15
*Edit TB(0) | CO(2)
ジャンル:[小説・文学] テーマ:[現代小説

~ Comment ~


蛇って結構臆病な動物なんですね。
なんかビジュアルで損しているというか……。

>抱えていたバッグから蛇を裏口へ逃がし、ここで待つ
>ようにと指示をして戻ってきた。

なんかこれを読んで、ちょこんと待っている蛇を想像すると、「結構かわいいかも」と微笑んでしまいました。
笑。

泣き声とか柄が魅力的で、最近はペットとしても人気が高いそうですね。

私は苦手ですが、fateさんはイケルほうなのかな?
#1236[2012/01/06 23:05]  ヒロハル  URL 

ヒロハルさまへ

ヒロハルさん、

そうなんですよ。まぁ、動物って結局、攻撃はイコール防御に近いから(食べるため以外は)本来は争いは好まないと思うんですよね、蛇に限らず。
殺戮が好きなのは人間だけです(--;

> なんかこれを読んで、ちょこんと待っている蛇を想像すると、「結構かわいいかも」と微笑んでしまいました。
> 笑。

なんか、ヒロハルさんの表現を通したら、確かに可愛いかも~(^^)と感じました。
へへへへ。
なんか嬉しい。

> 私は苦手ですが、fateさんはイケルほうなのかな?

↑↑↑毒がないやつだったら、たぶん触れます。
飼ってみたいと思ったこともありましたが、エサが微妙なので断念しました(・・;
#1241[2012/01/07 08:11]  fate  URL 














管理者にだけ表示を許可する

~ Trackback ~


  ↑記事冒頭へ  
←花籠 2 (華麗なる殺戮) 13    →花籠 2 (華麗なる殺戮) 15