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Stories of fate


花籠 2

花籠 2 (残照と幻夢) 11

「さっきさぁ、牡丹に頼んで良い物件を見繕ってもらったんだぁ。」

 車を運転しながら、ジャスミンは言う。

「…はい。」
「本契約は本人が立ち会わないとね。アカシアの偽名を勝手に借りて保証人はO.K.だし、合鍵は俺にも渡しておいてね?」

 にこりと見つめられ、李緒ははっと彼を見上げて微かに頬を染めて頷いた。その様子を特に意に介さずにジャスミンは続ける。

「君さぁ、家族、いないでしょ? 俺のこと聞かれたら、彼氏だって言っといて。その方が変に突っ込まれなくて良いと思うし。」

 全然そんな色っぽさを感じさせない淡々とした調子で、ビジネスとして彼は話していたのだが、李緒はその空気を感じてはいても、なんだか、ドキドキする心を抑えられなった。そんな訳ないと何度も打ち消しながら、幼い彼女に‘救い’を見せてくれた相手と、今回の事件とを結びつけて、彼が二度も自分を救ってくれたのだと思ってしまいたくなる。

 そこに意味を見出したくなる。

 牡丹が、ネット上である程度の偽の情報を入れ、書類もさっさと偽装してくれていたので、契約は特に疑われることもなくスムーズに行われた。

 管理人から二つ渡された鍵を一つポケットに入れて、もう一つを「はい。」と李緒に渡し、「じゃ、今度は最低限の家具を選んであげよう。」と、どこか楽しそうにジャスミンは彼女を再度車に誘う。

「え…っ? あのっ…でも、私、そんなお金は…」

 会社の寮とか、家具付きのアパートを想定していた彼女は、慌てて彼を見上げる。この部屋自体、彼女の予想を遙かに上回る上質の部屋で、扉の鍵の他に、このアパートに入るためにセキュリティが一個ある。

「うん、大丈夫。それくらいは俺持ってるから。それより、施設の方には連絡、必要なの?」

 李緒は少し考えて首を傾げた。

「要らないと思います。」
「そこにあった私物は処分してもらっても良い物?」

 その質問には、李緒は躊躇うことなく頷いた。まぁ、あんな事件が起こった後じゃ、施設がマトモに機能している訳ないしな、とジャスミンは言葉にせずに思う。

「要りません。何も。」
「じゃ、下着から何まで全部俺が買ってあげるよ。」
「…え、えっ?」

 かああっと頬を染めた李緒をふと見下ろして、やっとジャスミンも気付く。

「ああ、ごめんね、下品で。でも、大丈夫、俺は女の子をいきなり襲ったりはしないから~」

 つい今朝ほど、襲われかけた女性に言う言葉じゃないのに、ジャスミンにはそういう配慮はない。ただ、あまりにジャスミンがにこにこ微笑むので、李緒もつられて笑ってしまった。

「とりあえず、ベッドと…何があれば良いの?」
「あ、ええと…はい、…何でしょう?」

 生活感のない二人はしばし悩む。

「まぁ、良いや、店に行って聞こうか。」
「はい。」

 まるで初々しい新婚さんのように二人はどこかウキウキとホームセンターに向かった。

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