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Stories of fate


花籠 2

花籠 2 (花の行方) 6

「逃げな。俺は追わないから。」

 李緒を連れて現場を立ち去ったジャスミンは、駐車場に停めてあったごく普通の乗用車で少し遠回りをしてこの隠れ家に向かった。途中の静かな路上でジャスミンは車を停めて、李緒に言う。しかし、彼女は迷うことなく小さく首を振った。

「殺されたいの?」

 ジャスミンの声は冷たくもなく、からかっている風でもなく、ただ淡々として、彼はハンドルを握ったままその手に顎を乗せて助手席の彼女を不思議そうに見つめた。

「貴方は誰?」

 李緒は同じ質問を繰り返す。

「俺はジャスミン。」
「ジャスミン…? 花?」
「そうだよ。」

 ジャスミンは目を細める。それでも、その奥の光は鋭い。

「…私、何も覚えてない。」
「何のこと?」
「何も。」

 心細げにジャスミンを見つめる少女。むしろ、それはすがるような視線に感じる。ちょっと困って、ジャスミンは彼女の頭を撫でてみた。仔猫のようなふわりと柔らかい髪。顔立ちが幼く華奢なので、中学生くらいにも見える。もともと‘家族’も‘保護者’もいない彼女は、人間関係の基礎がぐちゃぐちゃだ。そこに記憶の障害が更に追い討ちをかけ、他人との距離の測り方が分からない。彼女にとって、ヒトは、信頼出来るか出来ないかの二種類しかいなくて、それは、凡そ、彼女の直感のみに寄る。信頼して良いのか分からない男なのに、しかも、犯罪者なのに、彼女はジャスミンと名乗ったその男との繋がりをどこかに感じていた。それに混乱して、李緒は俯いて唇を結んだ。

「何も見なかったことにしてくれるってこと?」

 李緒は頷いた。ジャスミンはくすくす笑い、その声に、彼女は顔をあげて横にいる男に視線を向けた。そして、初めて本当に彼が笑っていることを知った。

「私を…迎えに来たんでしょ?」
「…そうなのかなぁ? 俺は白馬の王子さまじゃないんだけどなぁ。」
「連れて行ってくれるんでしょ?」
「天国へ?」

 うん、と李緒は頷く。

「あのねぇ、李緒ちゃん、俺の言ってる意味分かってんの?」

 ジャスミンは目を細める。赤ん坊をあやしているように、幼い子を見つめる「困ったなぁ」という表情で。
 李緒にも、実はさっぱり分からない。自分が何を言ってるのか。彼に何を求めているのか。

「まぁ、良いや。判断するのは俺じゃないし、君、その格好じゃね。服も着替えないとボロボロだし、血もついているしね。確かにこんなどころで下ろされたって困るよなぁ。」

 ジャスミンは、生まれながらの‘殺し屋’だ。

 つまり、彼の父親が同じ家業で、その頃立ち上がったばかりの『花籠』の最初の登録者だった。花篭龍一は当時彼の父親より大分年下だったらしい。それでも竜一には生まれ持った‘裏’の人間たる貫禄と実力があったようだ。龍一も生粋の‘裏’の人間で、その血筋は遙か古の闇の組織に繋がるという噂だ。恐らく歴史の影で暗躍した忍者や鬼の一族などのような。

 義務教育からはみ出して中学校をリタイヤしたジャスミンは、その頃からすでに父の跡を継いで『花籠』に名を連ねて仕事をこなしていた。

 ひとつ問題があるのは。

 彼は自分が世間から大きくズレていることを自覚していないことだ。いや、仕事の内容ではない。彼は、夫と息子が属する世界なんて何も知らないごく普通の母親に育てられているのに、父親の血が色濃く出たせいなのか、既に世の中に対する感覚も、人間関係の基礎もおかしかった。

 愛されて育っているので、人間的に情緒的な欠陥は大きくはない筈なのに、どこかおっとりした空気の中に妙な狂気が混じっている、とでも言うのだろうか。いや、マトモな感覚を殺さないと「命を奪う」仕事を続けられないのかも知れない。それをあまりに早く学んでしまったのだろう。

 彼は、何事にも執着の薄い人間に育っていた。

 それは、しかしこの世界に生きる限り、必要なことであろう。大事なモノが増えることは、それを失うことを恐れることだ。そこに欲が生まれ、隙が生まれ、ギリギリの過酷な仕事に支障を来たす。

 少なくともアカシアにはそういう自覚があり、彼は仲間を守る責任もあった。

 ただ、…ジャスミンは、むしろ守られて慈しまれて育ってきたせいで、そういう緊張感やギリギリに研ぎ澄まされた感覚が薄い。仕事をしている瞬間以外、彼は警察が目をつけそうにないちょっと頭の弱そうなお坊ちゃんにしか見えないのだ。それが今までは幸いしているのだが。
 
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~ Comment ~


スムリティの感動や衝撃を言葉にできずにいるうちに、大好きな「花籠」が始まっちゃった(^^;


うわぁ・・・・親子二代にわたる花籠の殺し屋、ってすごい・・・(^^;
しかも、結構斬新かも・・・?「愛されて育った殺し屋」って・・・。

この李緒ちゃんは、もしかしてプロローグに出てくる女の子なのかな?
ってぇことは、その時の殺し屋は・・・「あれ?ジャスミンじゃないの?」と思ったけど・・・年齢的に・・・。
あ!!もしかして・・・!!??

うわぁ、どうなっちゃうんだろ。

fateさんのお話にしては、なんというか、もどかしい展開ですね。
でも、花籠の内部や、殺し屋達のそれぞれの性格とか、いろんな事がじっくりと感じ取れて心地よいです。

楽しみに読ませて頂きます~(^^)

#930[2011/12/15 00:39]  秋沙   URL  [Edit]

秋沙さまへ

秋沙さん、

> スムリティの感動や衝撃を言葉にできずにいるうちに、大好きな「花籠」が始まっちゃった(^^;

↑↑↑ふふふふ。(←なんだよ、気持ち悪い(--;)
実は、秋沙さん、理想的な読み方をしていらっしゃる!
これは、『花籠 1』→『スムリティ』→『花籠 2』→『花籠 3』と進まないと花籠3で意味分かんなくなるんだよ~ん。
いや、『スムリティ』と『花籠 2』は前後しても良いけど、3に入る前に前作をすべて読んでいないと繋がらない。
…つまり、ああ、やらかしてしまった(>0<)
ってことです…(しーん)

> うわぁ・・・・親子二代にわたる花籠の殺し屋、ってすごい・・・(^^;
> しかも、結構斬新かも・・・?「愛されて育った殺し屋」って・・・。

↑↑↑そうなんですよ、奥さん(←だから、誰っ(-"-;)
これは、ジャスミン本人よりも、何も知らずに妻となり、母となった女性を描きたくてちょっくら考えた設定ですが、もしかして、彼女は薄々何かは感じているかも知れないし、もしかして、逆に別組織のスパイだったりして…
いや、fateにも分かんないんです(・・;
ジャスの母は謎だ~!!!
その内出てくるかも知れないし、出てこないかも知れない(^^; わははは~(いい加減だ(-"-)

あ、謎はすぐに一気に氷解します。
今回は謎なしの種明かしばっかりです(^^;
#937[2011/12/15 08:29]  fate  URL 

ここの、ジャスミンと李緒ちゃんのやり取り、好きです!
私がジャスミンなら、ぜったい拾って帰るし(おいおい)

ジャスミンが、ちゃんとした愛情の元に育てられた殺し屋だと言う事が、意外でもあり、新鮮でした。
ジャスミンが李緒ちゃんに話しかける言葉が、とても優しいのが、納得できます。

>彼は、何事にも執着の薄い人間に育っていた。
>それは、しかしこの世界に生きる限り、必要なことであろう。大事なモノが増えることは、それを失うことを恐れることだ。

そうですよね。そうだと思います。
ジャスミン・・・その子を拾っちゃって、大丈夫なのかな?

ここのメンバーみんな、個性的でいいですね。
まだ実態が把握できてない部分もあるんですが、じわじわと迫って行く感じが好きです。
龍一さんという人物も、まだ謎めいていて、これから探っていきたいなあと思っています。
(出てきますか?)
#1138[2011/12/29 02:33]  lime  URL  [Edit]

limeさまへ

limeさん、

> ここの、ジャスミンと李緒ちゃんのやり取り、好きです!
> 私がジャスミンなら、ぜったい拾って帰るし(おいおい)

↑↑↑そうなんですよ、奥さん(←前コメを引きずっているな…?(--;)!
この拾って帰るところが、あれれ? ということになって、ああいう風につながってしまったんです。
(なんのこっちゃ…)
もう、外伝も3つくらい描いちゃって(クリスマス企画を入れてだけど)、訳分かんなく収拾つかない状態で次に突入ですが、なんでこんな展開になっているんだろう…と茫然としながら、紅白を観つつ今年は『花籠』で終わりそうです(^^;

> ジャスミンが、ちゃんとした愛情の元に育てられた殺し屋だと言う事が、意外でもあり、新鮮でした。
> ジャスミンが李緒ちゃんに話しかける言葉が、とても優しいのが、納得できます。

↑↑↑はあぁぁ??? なんで? とfate自身はあまり思わないところが既にオカシイのかも知れないけど、そういう殺し屋さんがいたら、どんな風に人と関わり、仕事をしていくのか、興味ありますな。
優しい人、他人に愛情を注げる人、というのは、寂しい思いをしてきた人と、正しい愛情をめいっぱい注がれて育ってきた人ではないか? と思って。
愛されてこなかった子どもが、子どものまま成長できずに愛し方を知らない…という人物はイヤという程描いたので、もう十分かな(実はまだ一つかなりヤバいのがupされておりません…)。
では、別の‘狂気’に迫ってみようか…と、思ったのだろうか。
いや、ジャスミンの生まれた過程を実は覚えていないのダ(--;

> ジャスミン・・・その子を拾っちゃって、大丈夫なのかな?

↑↑↑そうなんですよ、ヤバいんですって。
それがこの世界のいい加減さですな~

> 龍一さんという人物も、まだ謎めいていて、これから探っていきたいなあと思っています。
> (出てきますか?)

↑↑↑へへへへ。
limeさんにだけ特別タネあかし~
実は4にちょっくら出てきます(なんのことはない、昨夜描いた…)。
いろいろ辻褄合わせに奔走しているfateの年末でありました。
#1142[2011/12/29 07:52]  fate  URL 

>すみません、ご指摘いただいて助かりました。

うっふっふ。
また「さびしく」なったら「指摘」させていただいちゃいます(笑)

おお!
アカシア、いいですねぇ。西幻好みかも。うん、いい、いい。
ええーっ! 牡丹は蛇使い…。へ、蛇使いって!!
いやー、驚かされます。

ああ~、たしかに「必殺」シリーズを思い出させられますねぇ(あるいは「地獄少女」とか…)。「必殺」のほうが、じじむさいけど(笑)。

自分が陵辱されそうになったところを助けてくれた男、ジャスミン。そのうえジャスミンは、おそらく「恐怖」とか「嫌悪」の対象でしかなかったであう「施設」という場所から、車で連れだしてくれた。それに、李緒の直観が「信頼できる人」といっている。これはもう、どうしたって「付いて行きたくなる」だうなあ、と思いました。なんだか李緒がうらやましいくらい。

じつをいうとジャスミンも李緒に「何かしら」を感じて、それで連れてきちゃったのかな?「ほうっとけない」というのもあったんだうけど、ほかにもなにか…。

うーん、それにしても凄いですね、fateさんの創作意欲。
私もがんばらなくっちゃ!
#1221[2012/01/05 06:26]  西幻響子  URL  [Edit]

西幻響子さまへ

西幻響子さん、

いやいやいや、マジで先日は失礼いたしました。
ほんとにすみませんです。

> おお!
> アカシア、いいですねぇ。西幻好みかも。うん、いい、いい。

↑↑↑さすが、西幻さん、食いつくところが違う…
というか、ジャスミンって、この辺までは皆さん一番気にしてくだすってたのに、いつの間にかlimeさんも秋沙さんも、…え? そっち…? と途中で見捨てられ、ううむ、一応、一番力を入れて描いてたキャラだったのに…(--; とfateは彼に恨まれそうな気配です。

> ええーっ! 牡丹は蛇使い…。へ、蛇使いって!!
> いやー、驚かされます。

↑↑↑いや、なんとなくハリー・ポッターを思い出しただけでした。
まったく深い意味はありません。まぁ、家の近所にたくさん棲んでいるという理由もあるかも知れない。

> ああ~、たしかに「必殺」シリーズを思い出させられますねぇ(あるいは「地獄少女」とか…)。「必殺」のほうが、じじむさいけど(笑)。

↑↑↑超! 笑いました。
じじむさい…。まぁ、『花籠』は本来、もっと軽い依頼もたくさん受けるんだけど、描いてないだけです。
ほら、企業からライバルをどうにかしてくれ、とか個人トラブルの解決依頼とか。
何でも屋さんですな。

> じつをいうとジャスミンも李緒に「何かしら」を感じて、それで連れてきちゃったのかな?「ほうっとけない」というのもあったんだうけど、ほかにもなにか…。

↑↑↑はい、これはたぶんすぐに分かります。いろいろ。…いや、たぶんね(・・;

> うーん、それにしても凄いですね、fateさんの創作意欲。
> 私もがんばらなくっちゃ!

↑↑↑しばらくまったく描いてませんでしたから(既成作をupしてただけ)、今はたまたま創作モードなだけです。実はほんとう~に久々です、本当に描いているのは(^^;
しかも、その気になって調子に乗ってシリーズ化していったら、現在、とんでもないことになって、これ、ほんとに終結すんのか? と原発並みになっております。
うううう、fateの世界はまぁどうでも良いが、原発、作業員の皆様は本当に頑張っているんだろうなぁ。
大変だけど、終結させてくれよな。

ということで、しばらくfateは創作モードで、あまり徘徊出来ないかも~。
でも、行くけどな。
#1224[2012/01/05 07:40]  fate  URL 














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