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Stories of fate


花籠 2

花籠 2 (花の行方) 5

 かなり残念そうに、ジャスミンは李緒の頭を抱き寄せて耳を塞ぐ。どこか虚ろな瞳の少女に、だけどそんな会話を聞かせたくはなかったのだろう。

「殺せってことかい? せっかく苦労して連れてきたのにな。…そうだ、牡丹、君の彼女にしないかい?」
「僕は、年下はあんまり。」

 牡丹はにこりとジャスミンを見つめる。

「アカシア…」
「断る。」
「あなたが、面倒見てあげればぁ?」

 話しにすっかり飽きたらしいアイリスは爪のマニキュアをふうふう乾かしながら適当に言う。

「確かに、ほら、ここにいるとき、食事の支度なんかしてもらえれば私たち、助かるじゃない?」
「なるほど。お前が楽になるからな。」

 ふん、とアカシアはアイリスを睨む。

「良いじゃない? それでなくても、年間、何人殺してると思ってんの? 無意味で無粋な殺戮は控えるべきよ。特に、まだ女の子よ? 結局、まだ男を知らないままでしょ? それは気の毒よ。」

 アイリスは不意に艶っぽい目でジャスミンを見つめてにっこりする。

「お前のものさしで何でも物事を計るなよ。」

 アカシアは同意しそうなジャスミンをぎろりと睨み、さっさと始末しろ、と目で促す。

 李緒は、男たちの会話を大筋では聞こえていたし、理解していた。そして、人が殺される現場を見てしまったことも、それがどういうことなのかも。しかし、あのとき、ジャスミンに見据えられその声を聞いた途端、何故かすべてが曖昧になってしまったのだ。

 彼女は、もともと極度の記憶障害を持っていた。施設に引き取られるまでの一切を覚えていない。親の顔はおろか、自分の名前すらも分からなかった。普段はごく普通の少女なのに、ふとした瞬間、不意に意識を失ったり、記憶が飛んだりする。

 事件の被害者遺族として施設保護となった子だったことが影響しているのだろうが、詳しいことは専門医にも分からなかった。

 妙に人懐こかったり、逆に狂ったように何かに怯えたりと情緒が安定せず、ずっと精神科と縁が切れずに今まできた。

 学業は最低限こなし、不安定ながらも社会に出ることが決まった矢先のことだった。

 恐らく、ジャスミンの何気ない一言‘一緒に…’というフレーズに李緒は奇妙に反応し、自らジャスミンについて来たのだ。記憶障害はあっても知能に問題はない。それなのに、何故そんなことになったのか。

 ジャスミンは、実際、本当に連れ帰るつもりはなかったのだろう。途中で彼女を解放し、口裏を合わせる手はずを整えて逃がしてやるつもりだった。
 襲われそうになっていたところを助けてくれた相手を、殺人者として訴えたりしないだろうと彼は分かっていた。そして、彼女の瞳に浮かんだ奇妙な信頼の色を。彼女は、現場ですら叫びもしなかったし、彼に恐怖と侮蔑の視線を向けることはしなかった。

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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[恋愛小説

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