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Stories of fate


スムリティ(R-18)

スムリティ (真夜中の訪問者) 29

 真夜中、ふと人の気配で目覚めた私は、闇に浮かぶ劉瀞の顔にぎょっとした。

 翌日も、翔慧先生は散歩に出かけた私を捕まえて、今度は別の・・・鍼灸用の病室に連れ込んで温灸なども使って治療してくれた。お陰で、大分身体は楽になり、怪我はまだ完治とはいかなかったが、点滴も一日一本で済むまでに回復した。

「りゅ…っ」

 思わず声をあげそうになり、私は病室の外、扉の向こうの様子をうかがう。

「大分、元気になったみたいだな。」

 劉瀞の疲れたような顔が不意に緩み、彼は私のベッドに腰を下ろした。

「そこに、椅子がありますよ。」
「良いよ、起き上がるな。俺は好きなところに適当に座ってるだけだ。」
「明かり…つけないんですか?」
「つけたら、俺がいるのがバレるだろ。」
「…分かったら、何かマズイ…?」

 ここは、関係施設のはずなのに、劉瀞は、仲間からも身を隠さなければならない羽目にでも陥っているのだろうか?
 私がそんな恐ろしい想像をしてどきどきしていると、彼はふう、と息をついて上着を脱ぎ捨てる。

「もう、とっくに面会時間過ぎてるだろ?」
「何ですか?面会時間って。」
「こういう病院施設ってのは、外部から患者に接触する人間を夜は締め出しているんだよ。」
「…へええ…。」

 よく分からないなりにも、確かに夜中まで誰かが出入りしてちゃ、病院側の対応が大変なんだろうな、と私は思う。

「じゃ、ここにいたらダメじゃないですか。」
「だから、お前も静かにしな。」

 言いながら、劉瀞は私の目の前でネクタイを外し、更にワイシャツに手をかけている。
 なんとなく事態が飲み込めずに茫然とそれを眺めていると、劉瀞は、不意に私の毛布を剥ぎ取り、パジャマの裾をまくりあげてその手を中へ滑り込ませてくる。

「な…っ、なに…」
「だから、静かに。」

 思わず抵抗しかけた私の腕を強引に押さえ込んで、劉瀞はパジャマのボタンを器用に外していく。

「やっ、やだやだっ…」
「うるさいよ、美咲。」
「だって…っ、お風呂入ってないし…」
「その割りにシャンプーの匂いがするけど?」

 …そういえば、今日、翔慧先生に頼み込んでシャワーの許可をもらったんだった。入院して以来久しぶりにシャワー浴びてすっきりして、夕方、気分良くベッドに入って、心地良く眠りに就いた…はずだったのだ。

「い…痛い、りゅ…んんっ」

 結局、怪我の治りきってない身体で、暴れて痛い思いをするのは自分だと分かって、私は途中で抵抗を諦めた。だいたい、イヤだと言って、やめてもらったためしなんて今までないし。

 それに、私も本当は不安だったのだ。
 あれ以来、劉瀞の姿がまったくなくて、弥生にも庄司にも会えない。

 それまで、こんなに長い間、よく知らない人間にだけ囲まれて過ごしたことがない私は、軽いホームシック状態だったんだと思う。劉瀞の身内だという翔慧先生に相手をしてもらっていたから、少しは彼に近い場所にいるのだという実感を辛うじて得ていた。

 忙しい毎日に紛れていれば何も考えずに済んでいたことが、考える時間だけを一気に大量に与えられ、私は余計なことまでいろいろ考えてしまっていた。

 劉瀞を支えてやって欲しい、と翔慧先生に言ってもらったこと。私はそれに足る人物なんだろうか?と、どこかで本当はずっと疑っていた。こうやって実際に『外』に出てみて、劉瀞の偉大さがよく分かった。施設の中の居心地の良さも。あそこがいかに守られた空間であったかということも。

 彼らは、沢山の敵を前に、戦って、守っているのだ。大切なものを。
 そして、そうやって私たちが守られている、という事実。
 翔慧先生も、戦っているのだ。目に見えない敵と。

 ただ、守られていた私に、価値なんてあるのだろうか?
 劉瀞が、これからも私を必要としてくれるのだろうか?

 それが、きっと、無意識にずっとあった不安。


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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[現代小説

~ Comment ~


鍼灸

ふたごの姉だったのですね。
ふむふむ。

鍼灸って、前にかつまさんもそれについて書いておられた記憶があります。
こうして美咲ちゃんは鍼灸で癒してもらい、そしてそして、りゅうせいさんをこうして癒してあげたと。
なるほど。

怪我人になにをするんだー、ではなくて、なのですね。
苦笑い。
#1511[2012/02/04 00:30]  あかね  URL 

Re: 鍼灸

あかねさん、

そうだったんです、はい。お姉さまでした。

> 鍼灸って、前にかつまさんもそれについて書いておられた記憶があります。
> こうして美咲ちゃんは鍼灸で癒してもらい、そしてそして、りゅうせいさんをこうして癒してあげたと。
> なるほど。

↑↑↑あああああ、善意の解釈ありがとうございます(^^;

> 怪我人になにをするんだー、ではなくて、なのですね。
> 苦笑い。

↑↑↑いえっ、何をするんだ~!! なんです。
翔慧先生が次回キレてます(^^;
#1515[2012/02/04 08:12]  fate  URL 














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