FC2ブログ

Stories of fate


スムリティ(R-18)

スムリティ (休養) 25

 しかし、入院生活は暇だった。
 弥生が付き添ってくれたのは一日だけだったし、‘外’に、他に知り合いもいない私を見舞ってくれる人間なんて誰もいない。

 劉瀞も、庄司も忙しいようだし…。
 一日目はさすがに動くのがきつかったので我慢していた。

 しかし、二日目は次第に退屈が勝ってきた。身体を起こすときと、横になったまま身体をひねったりするときはまだ辛かったが、起き上がってしまって動き始めるとなんとかなってきたのだ。

 日が昇って明るくなり、大分、体調が回復すると、私は点滴を外してその辺を走り回りたい衝動に駆られる。あまりに退屈そうで気の毒に思ったのか、その朝、食事を運んできた看護師さんが、点滴の台を一緒に引いて歩けば、院内くらいなら散歩しても構いませんよ、と言ってくれた。

「なるほど…」

 点滴の器具には確かにキャスターが付いている。そういえば、トイレに行く度に点滴を外すわけにはいかないもんな、と納得する。

 点滴は夜中は外されているし、交換の度にトイレやちょっとした用足し程度には動いていたが、点滴中は動いてはいけないものと私は考えていたのだ。実際に動くと身体はまだ多少は辛かったが、まったく動けないほどではないし、私はじっとしている性分ではないのだ。

 看護師さんに注意事項の説明を受けて、その器具をお供に、がらがらと院内を歩いていると、廊下の脇の病室から出て来た白衣の女性とぶつかりそうになった。

「おっと、すみません!大丈夫でしたか?」

 相手は若い女性で・・・と言っても20代後半くらい?白衣を着て、長衣のポケットに両手を突っ込んでいたのだが、私が入院患者らしいと気付いて慌てていた。柔らかい輪郭なのに、瞳の光がとても強い。決してものすごい美人ではなかったが、顔に華やかさがあった。

「大丈夫です、私がぼうっと歩いてたもので。」

 私がそう言うと、彼女は一瞬私をじっと見つめ、それほど重病人ではないと判断したのか、屈託なく白い歯を見せて笑った。

「病室はどちらですか?お送りしますよ。」
「あ、いえ。今、散歩中なんです。」
「…えっ?」
「あまりに暇で暇で。」

 私の答えに、彼女はくすくす笑った。

「じゃあ、私もご一緒させていただいてよろしいですか?」
「はあ…、でも、先生、お仕事中では?」

 私はちょっと驚いて背の高い彼女を見上げた。

「私は西洋医じゃないのよ。鍼灸師。次の診療まで、一時間ばかり時間が空いてるのよ。」
「…鍼灸師って、あれですよね?艾とか使って治療するってやつですよね。」
「あら、知ってるのね!」
「鍼は使えませんが、灸は教えられてたまにやってました。」
「それは良いね!よく聞くでしょう?」

 私たちはとにかくそのまま廊下を進む。窓から差し込む光が夏の日差しだ。照りつける太陽の光を横目で眺めながら、廊下にくっきり落ちる影を見ているとあの公園の眩しさを不意に思い出した。
 情緒の不安定な子どもたちに、そういう治療行為もあの施設内では施されていた。資格保持者がいて、その人の指導の下、私たちも応急的にでも出来ることはやっているのだ。

 そう。
 とにかく人手不足なのだ。
 私も早く帰ってあげないと、他の人にしわ寄せがいくかも知れないなあ…と、そのとき私はぼんやりと思った。

「元気そうではあるけど、あなた、怪我、けっこうひどいね。」

 パジャマの襟元から見える私の痣や内出血跡を見て、彼女はちょっと心配そうに私の身体を覗き込む。

「ええ。実はちょっと辛いです。でも、怪我の痛みとかはけっこう耐えられるんです。ただ、呼吸がまだ少し苦しいのが…」
「よし、診てあげよう!あなたの部屋はどこ?」

 鍼灸師の先生は、にこっと綺麗な笑顔を見せた。その笑った顔をじっと見て、私は、ふと「あれ・・・?」という気分に陥った。

 この人に、私、いつか会ったことある…?そういう気がしたのだ。

 良いんですか?とちょっとうろたえている私には構わずに、彼女は元来た方向へ引き返し始めるので、まあ、治療の範囲内のことだから良いのかな、と私も仕方なくついていく。

「あ、そこです。」

 突き当たりの角部屋を指して私は言った。すると、先生は、えっ???と本当に驚いた表情で私を振り返った。

「じゃあ、あなたが美咲さん?」
「はい、まあ…。」
「そうか!あなたが、劉瀞の!」
「…へ?」


関連記事
スポンサーサイト



もくじ  3kaku_s_L.png 紺碧の蒼
もくじ  3kaku_s_L.png 真紅の闇
もくじ  3kaku_s_L.png 黄泉の肖像
もくじ  3kaku_s_L.png 花籠
もくじ  3kaku_s_L.png 花籠 2
もくじ  3kaku_s_L.png 花籠 3
もくじ  3kaku_s_L.png 花籠 4
もくじ  3kaku_s_L.png 花籠 外伝集
もくじ  3kaku_s_L.png 蒼い月
もくじ  3kaku_s_L.png 永遠の刹那
もくじ  3kaku_s_L.png Sunset syndrome
もくじ  3kaku_s_L.png 陰影 2
もくじ  3kaku_s_L.png Horizon(R-18)
もくじ  3kaku_s_L.png Sacrifice(R-18)
もくじ  3kaku_s_L.png 閑話休題
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  ↑記事冒頭へ  
←西幻 響子さんworld!    →スムリティ (休養) 26
*Edit TB(0) | CO(2)
ジャンル:[小説・文学] テーマ:[現代小説

~ Comment ~


お、知り合いなのですね

というところで、今夜は一旦ここでおしまいにしました。
りゅうせいさんが美咲ちゃんをお見舞いしているときの雰囲気からしても、彼は彼女を愛してるんだなぁと伝わってきますよ。

で、この鍼灸医さんは誰?
美咲ちゃんのライバルだったりして。

こうやってすこしずつアップしていく形態の小説を読ませていただいていると、そういう楽しみもありますよね。
#1497[2012/02/02 00:38]  あかね  URL 

Re: お、知り合いなのですね

あかねさん、

知り合い…というか、今のところ分かっているのは相手の方だけっぽいですな(^^;
まぁ、関連病院な訳っすから、劉瀞(総帥)の近しい人間はある程度、有名なのかな~
とかって訳でもないか。

> で、この鍼灸医さんは誰?
> 美咲ちゃんのライバルだったりして。

↑↑↑おおおっ、そういう発想はなかった!
いや、一瞬、考えたかも知れないが、どうもそういう気力が沸かなくて…???(^^;

次回彼女が自己紹介しますので~

#1499[2012/02/02 08:32]  fate  URL 














管理者にだけ表示を許可する

~ Trackback ~


  ↑記事冒頭へ  
←西幻 響子さんworld!    →スムリティ (休養) 26