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Stories of fate


スムリティ(R-18)

スムリティ (森の中) 4

「何…?これ。」

 私の左手首に巻かれた銀色のチェーン…というのか、一見、見た目は単なるブレスレットのような中央にゴールドをあしらった、綺麗だけどやたら丈夫そうなその代物。一箇所に平べったいプレートがあり、そこには何かデザインが施され、そのデザインに紛れて識別番号のようなものが刻まれている。

 そして、何より。
 これは絶対に外せない。手首には多少余裕がある緩さだったが、手を通り抜けることは出来ない程度の長さなのだ。取り外しの金具がなくて、まったくの輪であるそれは、チェーンに紛れて溶接した跡があり、さっきの熱はそれだったのだと愕然とする。

「気にするな。迷子にならない為のお守りのようなものだ。」

 やつの部屋に戻り、私はようやく着替えを渡されて、初めて自分の左手を見たのだ。

「…そんな物、いつ、どこで必要なんですか?」

 確かにそれほど気になる物ではなかったが、なんだか首輪でもつけられたみたいで気分が悪い。

「外に出たときにね。」
「外…に、出られるんですか?私。」

 あまりに意外なことを言われ、私は驚いて着替えの手が止まった。

「言っただろ?連れ出してやろうか?って。」

 やつは意味ありげな笑いを見せる。

「…本当ですか?」
「なんで、嘘なんて?」
「…。」

 月に一度会うか会わないかのこの男を、実は私はよく知らない。ここにいない間、どこで何をしているのかも。この施設にこいつがいるとき、大抵私は呼び出されて一緒にいることが多いから、それ以外はここにいないということだ。

 そして、こいつがいない間、私はというと、この施設にいる幼い子たちの面倒をみているのだ。捨てられる子どもの数は、今も昔も減っていないということなのか、数は多くはないが、常に乳幼児がここにはいる。もしかして、この組織がどこからか子どもをさらってきているんではないかと疑ったこともあったが、そうではないことがすぐに分かった。

 中には、言葉を話せる程度になってからここに来る子もいるのだが、一様に虐待を受けたり、遺棄されたりして、そのままそこにいれば死んでしまっていた…という境遇の子ばかりなのだ。まだろくに意思表示も出来ない子でも、虐待の爪あとがある。

 私は、…いつか教えられた、私は単なる遺棄児だったから、まだマシだったのだと。虐待を繰り返されてきた子は、マトモに成長させることが本当に難しいのだと。

 それを、私も、ここで子ども達の世話をしながら、身を持って体験している。
 虐待は、身体だけではない、心をこそ、壊してしまうものだと。

 とにかく、ここにいる子ども達は抱いてあげなさい、と言われる。撫でてあげたり、ぎゅっと抱っこしてあげたり、頬を合わせたり、そういうことが必要なのだと。

 泣きわめくだけで、言葉を話すどころか、意思表示をマトモに出来なかった幼児が、ある日、私を「ママぁ」と呼んで抱きついてきたときの感動を忘れられない。その子が、その一言を、どれだけ言いたかったのかを知った瞬間だった。

 愛して、温めて、守ってくれるはずの‘母親’のぬくもりを、どれだけ求めていたのか。

 そうやって、子どもの世話をする女性たちは、皆、大抵本当の‘お母さん’という年代の人ばかりで、私くらい若い子は他にいない。それでも、人手は常に足りていない。重症の子は、一人がかかりきりで面倒をみないと回復出来ないし、他の子も皆、親の愛に飢えた子ばかりなので、誰もがその‘お母さん’を求めている。

 私は、まだプロ?ではないから、その隙間を埋める程度の役割しか出来ていないし…。

「いずれ、外に出て生きていく子ども達を育てているんだから、お前も外の世界を知らないとな。」

 やつは至極真面目な表情で言う。
 一応、マトモなことを考えてはいるんだ、と私は失礼なことを思う。

 だけど、その降ってわいたような外出許可、とでも言うのか?生涯、この景色以外見ることはないと思っていたモノクロの人生に、突然、色が付いたような気がする。

 視界が開け、夢を抱くことを知ってしまう。
 …本当だろうか?

「ああ、さっさと着替えな、美咲。今日は子ども達の健康診断日だろ?行って手伝え。それに、お前もだろ?」

 ふと時計を見て、劉瀞は言った。

 そう。この施設では月に一度、身体検査というのか、健康診断がある。身長・体重の測定をして、問診があり、必要と判断されれば採血・採尿検査もある。そして、レントゲンとかMRIとかの設備もあるらしい。

 健康、という概念、身体についてはここでは必須科目として、幼い頃より、一番基本的なことを教わり、実際に自分たちの身体でいろいろな実験も行われる。

 まぁ、生きていくのに支障が出ない程度にではあるが。
 つまり、食べ物の偏りに寄って、身体がどうなるのか?とか、病気とは身体がどうなった状態なのか?ということを、徹底的に学ばせられる。

 実際に、肉ばっかり食べて生活してみたり、野菜ばっかり食べてみたり、ということをグループに分かれて一週間単位で実験し、それに寄る血液の変化を目で見て確かめる。体調を数値で確かめる、などということもやる。

 野菜や果物も自給自足だし、牛や羊や鶏も普通に飼っている。
 そういう生活の中に位置づけられているその健康診断では、女性では月経に関する質問もあり、細かな自覚症状も逐一チェックされる。そして、一人ひとりのデータはコンピュータ管理されている。

 ああ。それでかぁ…。と私は関係ないことを突然気付く。
 この4年間、劉瀞が特に避妊している気配はないのに、私が妊娠しないのは、月経周期を把握されているからなんだ、と。


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~ Comment ~


これは・・・

すごく、うちのOEAの施設に似ていてびっくりしました。
そして、私がほとんど描かなかった育成部分が、すごく丁寧に描写されてて、うなりました。
腕にタグをされているってとこまで似てる^^

そうか、fateさんの作品と私の作品は、幹が似ているけども、どこにスポットを当てるのかが違ってるのかもしれませんね。
fateさんの世界の広げ方は、とても新鮮で、私のツボをついてくれて、わくわくします^^

(忙しい時期に長々と書き込んでごめんなさいね。コメ辺とか、気になさらず)
ゆっくりペースですが、また遊びにきますね。
#758[2011/12/01 20:05]  lime  URL  [Edit]

Re: これは・・・

limeさん、

おはようございます。
他人さまのパソコンを勝手にお借りしてのコメ返です。(おかげで使いにくくて誤変換とかはどうか見逃してください(^^;←いや、いつもですが…)

> すごく、うちのOEAの施設に似ていてびっくりしました。

↑↑↑おおおお! やはりそうですか!
fateも失礼ながら、似てる…と思いました。limeさんも、『白昼夢』はけっこう早い時期の作品のようですし、fateもれはけっこう以前の作なので、似たような時期に似たような構想を練っていたのだろうか、と勝手にシンクロニシティごっこ気分でした(^^)

> そうか、fateさんの作品と私の作品は、幹が似ているけども、どこにスポットを当てるのかが違ってるのかもしれませんね。
> fateさんの世界の広げ方は、とても新鮮で、私のツボをついてくれて、わくわくします^^

↑↑↑これは、fateもすごく思います。そして、仕事そのものにスポットを当ててハードボイルド系にしないところ、人間ドラマを描きたいことも似ているのに、語られる片鱗の違いがとても興味深くてドキドキします。limeさんのように、ちょっとシリーズ化しようと構想中です(^^)

#763[2011/12/02 08:37]  fate  URL 

花籠3より先にこちらを読んだほうがいいというのにしたがって、やってまいりました。笑。

施設についての設定が非常によく考えられていますね。
感心させられてしまいました。

こういうディテイールの部分をおろそかにしたり、行き当たりばったりにすると、読者が白けちゃいますもんね。

このお話の先に待つのは光か闇か……楽しみに読ませて貰います。
#1273[2012/01/11 14:02]  ヒロハル  URL 

ヒロハルさまへ

ヒロハルさん、

> 花籠3より先にこちらを読んだほうがいいというのにしたがって、やってまいりました。笑。

↑↑↑わはははは…
実は、ちょっと迷いました。何しろ、これR指定作品なんで(^^;
乳酸菌さんとかの健全な青少年にはお勧めできないですが、成人男性でいらっしゃるヒロハルさんなら、まぁ、許容範囲でしょうか…。すみません。

> 施設についての設定が非常によく考えられていますね。
> 感心させられてしまいました。

↑↑↑じ…実は、これも、当初はまったく何も考えておりませんでした。描いている内に勝手に浮き上がってきた設定です。描き始めないと何も広がらないので、結局は進める内に矛盾の嵐になって、辻褄合わせに奔走するんです…(しくしく)。

これは~、今となっては、劉瀞の人となりとか、『スムリティ』組織の人間とかを眺めていただければ…という感じです(^^;
しかも、これは美咲ちゃん目線なので、いろいろ彼女の主観で事実が歪められている可能性がありますので~
#1278[2012/01/12 08:30]  fate  URL 

きまじめな(どこがじゃ)西幻は、「花籠・3」に進まずに「スムリティ」にやってきました。

「R18」の表記に「おお!」となりました。
そうか、R指定なのね。と、覚悟も新たに・・・(というのは、どうも「Rシーン」を読むと西幻の中の闇の部分が引き出されるようなのです。それがちょっと恐い、というのがあります。だけど「読みたい!(Rシーンも合わせて、すべて)」という願望があるのも事実でして・・・。ははは、すみません。なにを言っているのやら)

おお? なんかいつものコメントでのfateさんの語り口(真面目モードの ^^)みたい・・・と思っていたらなんと、一人称でした! ほほお、なるへそ・・・。

こういった組織を描くのはとても大変なのだろうなあ、と思います。ファンタジーのように、その組織の設定を一から考えなきゃならないんですもんねぇ。でもこの物語に出てくる組織はとてもリアリティを感じます。たぶん設定がきちんと構築されているだけじゃなくて、根底に流れる「悲哀」のようなものが合わさることによって、共感できるようなリアリティがにじみ出ているのではないかなあ、と思いました。
#1282[2012/01/12 10:06]  西幻響子  URL  [Edit]

西幻響子さまへ

西幻響子さん、

> きまじめな(どこがじゃ)西幻は、「花籠・3」に進まずに「スムリティ」にやってきました。

↑↑↑おおおお、いらっしゃいませ~(^^;
いや、今更ですが、もしかして別にこの通過儀礼がなくても、ある程度説明しているので、分かるかも…などと思い始めておりますが(^^;

> 「R18」の表記に「おお!」となりました。

↑↑↑そうなんですよ~
だから、ちょっと困っちゃって。(ははははは…)
『花籠』だけで進める方法も考えれば良かった…っていうか、こっちのR指定を抜けば良いんだよな。
でも、修正するのが、メンドい…

な、なんとっ
西幻さんにも‘闇’がっ!!!
へへへへ~
と何やら気持ち悪いことになってます~

> おお? なんかいつものコメントでのfateさんの語り口(真面目モードの ^^)みたい・・・と思っていたらなんと、一人称でした! ほほお、なるへそ・・・。

↑↑↑な…なにっ???
そんなトラップがっ???(なんのこっちゃ…)
コメントでの語り口と一緒の作品っていったい…(--;

組織を描くのってけっこう大変ですね、limeさん宅のOEAもですが。
しかし、limeさんがしっかり細部まで背景を設定し、構想を練り、プロットを構築されていらっしゃるのと違って、fateは人物任せの行き当たりばったりなのダ~~~

いつかたつひこさん宅(バロンとワルツを)でもプロット話題を語ってきましたが、なんとなく、fate worldはfateが考え出して作り出している世界ではなくて、そこにある世界を覗いて文章に起こしているだけ…のような気がします。いや、実際そうなのかも。何しろ、fate程度の知識じゃ考えつかないことが起こっている。その世界に入ってみないと何が起こっているのか分からないんですな。
人物もそこに生きて生活している方々を描かせていただいているだけなので、もちろんfateの言うことなんてほとんど聞きゃーしません(--;
いつでも、彼らの方が立ち場が上です。
ということで、きっとあるんです、こういう組織。(ほんとか??)

これは、前コメ(ヒロハルさん宛て)でも申し上げましたが~
劉瀞という人物の立ち位置、その人となりなどを眺めていただければ、次に進み易いかな~と思います。
そして、これは組織の中で守られている女の子、美咲ちゃん目線です。
組織の核心は分かってないかも、です。

あああ、無駄に長い返信になってしまった。
途中で読むのが飽きて帰ってしまわれないでください~
(ドキドキ…)

#1283[2012/01/12 11:12]  fate  URL 














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