Stories of fate

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虚空の果ての青 (真夏の出会い) 2 

虚空の果ての青 第一部

 優は、‘愛’された記憶がない。
 人の肌が温かいということも、親の愛撫も知らない。気がついたときには、もう母親はいなかった。
 優を生んで死んでしまったのか、赤ん坊を置いて出て行ってしまったのか。
 それとも、乳幼児の間くらいはそばにいてくれたのか。

 最初の記憶は、『痛み』だった。
 彼女を育ててくれていたらしい若い男から受ける暴力・虐待。

 それがどんな種類のものだったのかなんて、他の世界も言葉も何も知らない優には分からない。
 やがて、優は、その男のもとから救い出され、保護施設に入れられた。

 あまりにも、他人に対して心を閉ざしている子だった彼女は、里親も見つからず、就学年齢になると然るべき児童施設に送られた。



 来年、中学卒業を控えて、優はそれまでいた施設を出て一人暮らしをすることになっていた。施設にいられるのは義務教育の終わる中学卒業までなのである。

 アパートの手配や不動産の契約に必要な保証人などは施設で引き受けてくれる。

 そして、そこまでで公的援助はおしまいなのである。あとは奨学金を受けながら、自力で生活して高校に通うほかない。或いは、仕事を見つけて働くか。

 そこに‘不安’や‘寂しさ’のようなものは優にはなかった。
 彼女は、感情が薄く、そしてその感情の表現の仕方も分からない。

 いつも髪の毛で顔を隠し、うつむいているので、優の顔をしっかり見たことのある者もほとんどいない。誰とも一言も話さずに一日を終える日も多い。常に怯えたように人の視線を避け、片隅でひっそり本を読んでいる。

 この中学校は、優の生活する施設から通う子も他に数名いて、そういう子の存在には慣れている。イジメは当然のようにあったが、新聞を賑わすような致命的なところまでは追い詰めない。そんな環境だった。

 樹が中学校の医務室まで彼女を運ぶと、先生方は驚いて散々お礼を言った。

 実は樹の家は、この地域の名家で、優のいる施設に多額の援助もしている。地域をうまく味方に付けているので問題なく暮らしているが、実は父親は海外に拠点を持つマフィアだった。そして、母親は美しい日本人女性で、ボスに気に入られて向こうで一緒に暮らしている。

 樹は29歳。

 ボスの持つ大手の系列会社の重役をしている。若くても経営手腕はあるのだ。何しろ、幼い頃よりその道を歩むよう徹底的に教育されてきている。母親も頭の良い女性で、ボスはその智的な聡明さを深く愛しているようだ。

 樹は父親と直接会ったことはほとんどない。

 一年間、父の国で共に暮らしたことがあるだけで、そのときも滅多に父は家に寄らなかった。それでも彼は、母親と二人、父という男を、その生き方を、近くで見て、納得してきたのだ。

 黒人ではない、という程度の印象の、漂うオーラが強烈に明るい男だった。彼は、樹の母親にべた惚れで、彼女を離そうとしない。しかし、息子である樹には日本で生活して欲しいと思っているのだ。彼には先妻との間に出来た息子達がいて、後継争いに樹を巻き込みたくなかったのである。

 人生の伴侶に、共に道行きを歩んで欲しい彼の父親と違って、樹は同士のような関係を必要としなかった。

 一度、見合いして婚約までしたチャイニーズとの混血の女性がいたが、ほぼ対等な頭脳を持ち、事業の助け手となるパートナーを、彼は人生の伴侶には出来ないと知った。

 仕事の話を対等にする相手を‘女’には見えないのだ。
 彼女は結局、他の重役と結婚し、樹とは仕事上の良き相談相手に落ち着いている。


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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[恋愛小説
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