Stories of fate

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黄泉の肖像 (地下牢) 4 

黄泉の肖像

 今度こそ、鍵が見つからないと連れ出すことは無理だ。
 俺は一旦、彼女をその場に下ろし、鍵を探す。暗闇をくまなく照らしてみるが、鍵らしき物は見当たらない。

「そうか、リビングか?」

 俺は一旦、階段をのぼって先ほどのリビングに出てみた。飾り棚の引き出しや棚の奥を探ってみるが、見つからない。もしかして、寝室とか金庫の中とかにあるんだろうか?

 一通り、思いつく場所は探しつくしたが、どうしても鍵は見つからなかった。
 あとは、所長に連絡して、雇い主と警察に対処してもらうしかなさそうだ。

 俺は、再度地下に下りて、彼女の様子を確認する。それほど衰弱しているようではなかったが、早急な保護が必要であることだけは確かだ。

 携帯電話を取り出して所長に連絡を入れる。
 地下牢が本当にあったこと。そこに人がいること。早急に救急車と警察を手配して欲しいことなど。

 電話を切って、再度地下へ下りる。まったく階段の上り下りだけで疲れるったらありゃしない!

「とりあえず、お腹空いたよな?」

 俺は、まったく無表情で虚ろな少女に声を掛ける。先ほど抱き上げたときの軽さに、俺は胸が痛んでいた。まるで人間ではないような軽さだったのだ。

「何か買って来るから、ちょっと待っててくれよな?」

 返事を期待せずに、俺は階段をあがろうとしてふと何かが引っ掛かりを覚えて振り返った。

「…え?」

 少女がこちらをじっと見つめていた。
 その口元が微かに微笑んでいるような気がした。




 警察がやってきて、何か道具を使って鎖を切り、彼女は毛布に包まれて救急車で病院へ向かった。それを見送って、俺はやっと息をついた。ああ、やれやれだ。

 結局、彼女は俺がコンビニで買ってきたお弁当は食べなかった。どうも食べ物との認識がなかったのか…。

 俺は警察にいろいろ聞かれたが、俺にとっては業務の一環でしかなかった訳だから、あとは所長と依頼主に詳しい事情聴取が行くのだろう。そして、俺も、もうその子に関わることはないだろう、とやっかいだったこの一件のことは忘れようとしていた。

 実際、死体が出てきて殺人事件なんかに発展していたら、俺ら探偵事務所の手に負えない案件になっていた。とりあえず、生きていてくれて良かった。

 なんで、彼女があんな所に閉じ込められていたのかは疑問だったが…。

 その日は、所長も警察沙汰になったことで忙しかったようで、俺が一旦事務所に戻っても、「おつかれ~」と一言声を掛けてくれるだけで精いっぱいという感じだった。探偵事務所と言っても、所長の奥さんが午後から事務員のパートに出てくれるだけで、実際動くのは俺くらいしかいない。どうしても人手が足りないときは別の組織に助っ人を頼む。そんな程度の小さな事務所なのだ。

 後のことは所長と奥さんがやってくれそうだったので、俺は、妙な疲労感に「お先します。」とさっさと家路に就いた。

 地下室は薄暗くて、あの少女の顔はよく見えなかった。だから、トシがいくつくらいなのか、もしかして少女ではなかったのかも知れないが、そういうことはまったく分からなかった。彼女は俺が発見してから警察が来るまで一言も言葉を発しなかった。何を話しかけても反応がなく、怯えているというよりは、もしかして、目も見えない、耳も聞こえないのでは?という印象を抱いた。

 考えたくないが、もしも生まれたときからずっと閉じ込められていたのだとすると、確かに光を感じる機能が育たないだろうし、音を認識する能力も磨かれない。いや、或いは、そんな風に生まれついたせいで閉じ込められていたのだろうか?

「まさかな…。」

 俺は思わず声に出して呟く。

 不遇の人間が生まれてしまい、それを隠したくて座敷牢に閉じ込めていたなんて話も大昔にはあったのだろうが、現代でそんなバカバカしいことを考える親はいない。病気は治せるのだ。運悪く治らない病だって、今では偏見の目で見られる心配なんてそんなにない。うつる病とかだったらまだしも、目が見えない、耳が聞こえないというのは不幸なことではあっても、特に忌むべき類のものではない。

 では、何故…???
 最初の疑問に戻ってしまった。


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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[ホラー・恋愛
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