Horizon(R-18)

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Horizon (あらすじ)  

Horizon(R-18)

<※:R-18>

 私の名前は鴻子。
 施設で育った私は、訳もなくある日そこを飛び出した。
 そして、暗黒世界にとっ捕まって、これで人生終わりかと思ったところで、こいつに拾われたのだ。

 今、私はこいつに屋敷で飼われているペットのようなものだ。
 いつ、飽きられて捨てられるのか分からない。

 考えると目の前が暗くなりそうな、そんな毎日だ。

 
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Horizon (逃亡ゲーム) 1 

Horizon(R-18)

「逃げたいのか?」

 と、信長はにやにやと聞く。戦国武将の名前を付けるって、こいつの親ってどうよ?しかも、本人(?)の顔は知らないけど、性格は思い切り名前の通り、激しくて辛らつで高慢だ。

 いや、性格だって、私は当の歴史上の人物のことはよく知らないのだが。

「・・・別に。」

 縛られていて、逃げられるわけないし。
 私は、ぷいとそっぽを向く。

 その部屋の端にある丸い柱に、私は後ろ手に縛られた状態で、大理石調の冷たい床の上にぺたんと座ったままだ。上着もブラウスもとっくに剥ぎ取られていて、スカートも半分捲り上げられ、ほぼ下着だけの格好だ。冷えた日本酒のグラスを手にして、まるで酒の肴か何かみたいに私の身体を弄んでいたくせに、途中でやつはそんなことを言い出す。

「良いよ。逃げてみな。そうだな、一時間やるよ。それで逃げ切れたら俺はもう追わないよ。お前は自由だ。」

 絶対に無理なことを提示して私をいたぶる。ほんっとに性格悪い。どういう育て方をしたら、こんな人間が出来上がるの?

 縛っていた縄をほどき始めた信長は、なかなかうまくほどけなくて、途中で苛立って、結局ナイフを使って、やっと外した。

 桐生信長。こいつは私の所有者だ。そして、・・・もう、金額すら定かではない。私をお金で買った人間であり、私はこいつの所有物に過ぎないのだ。

 という表現はちょっと適切ではない・・・かもしれない。
 私は彼に助けてもらった形なんだから。



 
 私は親の顔も知らない。
 家族というものも知らない。

 中学校を辛うじて卒業した私は、高校も中途半端で退学してしまい、職業訓練校みたいなところに半年通ったが、それも続かなくって、もう、学業からは卒業させていただいた。それで、施設も居辛くなって逃げ出してしまった。先生方は辛抱強く私にいろんな道を提示してくれたけど、私の中のゆがみやひずみは、もうどうしようもないところにまできていたんだろう。

 そして、もう決められた暮らし、単調で退屈な毎日に突如として絶望してしまったのだ。

 お金も頼る当てもない私はあっという間に闇の世界のお世話になってしまった。平たく言えば、ヤクザに捕まって売り飛ばされそうになったのだ。

 そこで、何の気まぐれか・・・この、信長に拾われた。

 そんなところで私を見つけるくらいだから、こいつだって、マトモな種類の人間ではないだろう。だいたい、どう見てもまだ10代後半から20代前半・・・?って年にしか見えないのに、何とかっていう有名な会社の重役だという。

 私は自分の正確な誕生日も知らない。保護されたのが4月だったから、4月生まれになっている。高校へ一年間、翌年は職業訓練だとかいろいろふらふらした挙句、半年前に信長に出会った。だから、この4月で私は18歳になっていた。

 名前は先生と市長が相談して付けてくれたことになっている。

 『第57条 棄児を発見した者又は棄児発見の申告を受けた警察官は、24時間以内にその旨を市町村長に申し出なければならない。
2 前項の申出があつたときは、市町村長は、氏名をつけ、本籍を定め、且つ、附属品、発見の場所、年月日時その他の状況並びに氏名、男女の別、出生の推定年月日及び本籍を調書に記載しなければならない。その調書は、これを届書とみなす。』

 と民法戸籍法にあるそうだ。

 成島鴻子というのがそのとき与えられた名前だ。こっちは完全に名前負けっぽい気がしないでもないが、そもそも鴻の字が何を意味するかもあまり興味ない。鳥偏だから、鳥の種類なんだろう。

 と、いうことで、一度聞いたがゼロが多くて覚えられないくらいの金額で、信長は私を買い取ってくれたのだ。

 あのままだったら、ポルノ映画の女優とか、娼婦まがいのことをさせられて一生終わっていた・・・と恩着せがましく言われたことがあったが、今の状況だって、実はたいして変わってないじゃない、と一度言ったことがある。信長は怒るかと思いきや、その通りだね、と豪快に笑いやがった。憎たらしいやつ!

 だけど、あのままあの世界に捕らわれていたら、信長の言葉よりも、本当はもっと悲惨なことになっていたことだけは分かる。

 捕まってから一週間ほど、私は、本当に死んだ方がマシだという思いをした。

 それがもっと時間が経っていれば、もう、それすら曖昧になるほど、すべてを諦めて、狂うのを待つだけだっただろう。

 他にも何人かいた少女たちの姿を見て、私はそれを正確に知った。



 
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Horizon (逃亡ゲーム) 2 

Horizon(R-18)

 そのままじゃ逃げにくいだろう?と信長は自分の上着を差し出したが、下着とスカートに男物の上着を羽織るなんて変な格好したら、目立って逃げるどころじゃないじゃん、と私は呆れた。

 というか、別に逃げたくもないんですけど。
 疲れるし。どうせ、無駄だし。

 しかも、そうやって一旦逃がしておいて、捕まえたら捕まえたで、おしおきだとか言って、もっといたぶる口実を作りたいだけなのだ。

「私の服は・・・?」
「ボタン取れててもいいなら、そこにあるけど?」

 さっき、無理やり脱がされたときにそういえばボタンが千切れてしまったんだっけ・・・。

「良いわけないじゃない。」
「じゃ、そのまま逃げるの?」

 にやにやと信長は私の目を覗きこむ。

「・・・その上着貸して。」

 私は、外へは出ずに、屋敷の中のどこかに隠れていようと決めた。走り回るのは疲れるし、隠れていれば、もしかして見つからずに一時間経過する可能性もある。

 ある、けど、どうせ、なんだかんだ理由をつけて約束なんて反古にされるんだろうけど。
 だいたい、この屋敷の敷地内のセキュリティを突破出来る筈はないのだ。

 屋敷内だけは、割と自由に動くことを許されているのでたまにあちこち覗くのだが、監視カメラの数だけで相当なものだ。モニター室・・・らしきところをちらりと覗いたとき、さすがに、そこはもう入るな、と怒られたけど、そこに居れば屋敷の周辺、門から庭の隅々に至るまで、そして窓という窓の様子は手に取るように分かってしまう。

 それに、侵入者除けに、この家では動物を利用している。

 動物、ということは犬だけではない、ということだ。
 恐ろしいことに毒蛇がいる。

 だから、この家ではうっかり庭を散歩なんて出来ない。玄関からまっすぐ門に向かう道、大抵そこだって信長は車で移動するが、そのアスファルトを敷いた一本道だけだ、安全なのは。そこには毒蛇除けの何かを施しているらしい。

 信長は、そういう野生動物の特性をやたらと理解している。
 そして、彼らを味方に付ける稀有な能力を持ち合わせている。



 
 彼が普段暮らすこの屋敷は異様に広い。その広さと言ったら私の育った施設よりもずっと大きい。それで、大体は信長と私がいるだけで、あとは使用人が数人。彼の家族の姿は見たことがない。

 いつか、ちらりと聞いた。
 両親は海外にいて、彼には他に兄弟がいるという話を。

 信長だって、ここにはいつもはいない。こうやって、週末に帰ってきては私を適当に抱く。ときには縛ったり目隠しをしたりして、私の恐怖心を煽ってかなり執拗に責める。

 それでも、私が逆らわないのは、もちろん、お金のこともあるが・・・。
 一度逆らって懲りたからだ。
 



「言っとくけど、鴻子。その辺に隠れて時間をやり過ごそうなんて、ダメだからね。逃げるときは、全力で逃げろ。」

 私の考えなんてとっくに見透かされてたみたいで、部屋を出るとき、信長はそう言い渡した。
 ちぇっ、と思った。顔には出さずに。

「今からきっかり45分。それから俺はお前を追う。15分以内に捕まったらお前の負けだ。」

 楽しそうに目を細める信長の顔を最後にちらりと見て、私は、とにかく駆け出した。
 この部屋から全力で走って玄関まで3分。玄関から門まで5分。

 どこへ向かおうなんて考えはまったくないが、やつの言う通りにしないと、後が恐ろしいことは分かっている。この屋敷内でどんなにあいつにいたぶられたって、正直、まだマシだ。






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Horizon (逃亡ゲーム) 3 

Horizon(R-18)

 一度、本気で怒らせて、私はヤクザの世界に逆戻りさせられそうになった。

 たった一日だったが、そこでよってたかって一度に三人の脂ぎった男たちに犯されたときには、本気で身体が壊れるかと思った。朝から昼過ぎまで、いや、もしかして夕方近くまでそれは続いた。もちろん、相手は都度入れ替わった。何人の男たちに好きにされたのか、分からない。そして何より、これが明日からも続くのかと思った瞬間の深い絶望を、どう表現して良いのか分からない。

 身体の芯から凍って、腐っていきそうだった。

 あの、本気で死のうと考えた一週間を思い出した。そして、明確に‘死’を考えられる時点ではまだ意識はしっかりしているのだと、虚ろに、何も見ていない少女たちの目に、ぞっとした。

 生死をも含めて、もう、何もかもを諦めてしまった人間の、操られるゾンビか何かのような生活。
 そこにいたらいずれ自分もそうなってしまうことが火を見るよりも明らかだった。

 この世の中には、もっともっと想像すら出来ないひどいことがいくらでもあるのだと、私は、この年にして知った。どんなに理不尽なことも、彼らの世界では普通にまかり通るのだ。彼らには彼らの正義や信念があって、それは生まれたときから絶対のもので、何があっても揺るがない。

 何もない、信じるものも、曲げられない信念も、そういうものは何一つない一般人に、彼らの世界は理解できないし、抗う術を持たないのだ。

 初めの一週間でとっくに処女は失っていたが、一度に三人の男に穴という穴に男の欲望を突き刺され、悲鳴を上げることすら出来ない屈辱と苦痛の只中で、私は不覚にも、信長の名を呼んだらしい。

 あいつは、どこかでその様子を眺めていたのだろう。
 今考えるとかなりムカっとするが、あいつを怒らせた私がバカだったのだ。

 全身、男共の精液まみれになって、更に涙と失禁とでどろどろの状態の私を、信長は、その日のうちに連れ帰ってくれたらしい。とっくに気を失っていたので、私には何も分からない。

 次に目覚めたのは、信長に、身体を洗い流してもらっているときだった。
 一瞬、私は自分がどこにいるのかさっぱり分からなかった。
 そこにいるのが、彼だということも。

 もう、すでに半分狂いかけていたのだろう。抵抗する気も起きなかったし、ここがどこで、自分を抱いている腕が誰のものなのか、これから自分がどうなるのかも考える気力がなかった。

 一日食事も与えられず、ただひたすら犯され続けていた私は、マトモな思考などとっくに失っていた。

 そして、助け出されたのだと知ったのは、彼が私の口に何か液体を、恐らくスポーツドリンクの類だと思うが、何か甘い液体を流し込んでくれたときだ。

 開いていても、まったく何も見えていなかった私の目が、そのとき不意に彼の顔を捉えた。

 叫びすぎて声が枯れていた私は、無意識に彼の名前を呼んだことにも気付かなかった。声で、自分で確認出来なかったし、頭と身体がバラバラで、自分ではまったく制御不能だったのだ。

 しかし、私の口の動きだけで、やつは分かったらしい。
 にこっと目を細めて、温かい手で軽く私の頬に触れた。

「今回は、これで許してやるよ。俺の名を呼び続けてたみたいだし?」

 覚えはなかったが、否定はしなかった。というより、声が出なかったし、恐らくそれは本当だろう、と感じていたのだ。何故なら、私には他に誰も、いないのだから。私を私として欲しがってくれる人間など。

 そして、とにかくあそこから助け出されたことに、本当に神に感謝していた。

「次は、もう連れ戻してやらないよ。」

 微笑んだままで、信長は言った。目だけが冷たく光った。その光に、私は心底震え上がった。本気だろうと思った。

 だいたい、この屋敷に彼の他に私しかいないということは、他の子たちは、間違いなくやつらに売り渡されているのだろう。

 彼が気まぐれで連れてきた子が私だけとは思えなかった。

 他の男に犯される私を平気で見ていられるくらいなのだから、信長にとって、私は商品と変わりないのだ。飽きたら棄てられるような玩具でしかないのだ。

 せめて、飽きて棄てられるまでは、彼の逆鱗に触れないように生きていくしかない。
 棄てられる先が、やつらの世界ではないことを虚しく祈りながら。




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Horizon (逃亡ゲーム) 4  

Horizon(R-18)

 警報が鳴り響く中、玄関から門までを走りぬけ、何か無線で指示を受けたらしい警備員が、怪訝そうな表情で門を開けてくれる。

 これは、ご丁寧にお世話様!と心の中で信長の配慮を皮肉りながら、私は息を切らせて門を出る。

 何の考えもなく、すでに夕闇迫る街中をただ闇雲に走り続けていた私は、時間の感覚もさっぱり分からず、道行く人々の好奇の目にさらされ、全身汗だくでもうへとへとだった。

 半日で仕事を終えてきたらしい信長が、家に戻ってきたのが、昼過ぎ。

 それからすぐに呼ばれて、ちょっとでも抵抗しようものなら、ああやって有無を言わさず縛られるか組み伏せられて、大抵夜まで適当に遊ばれる。最中に仕事の電話が入ったりもする。彼は、私を抱きながら普通に電話の受け答えをし、私には声を出すな、と命令する。

 声を出すな、というくらいなら、電話の間くらい少しは自重してよ、と叫びたい。

 淡々と仕事の話をしながら指先での責めを決して緩めないのだ。どこまでサドなんだ、こいつ!と涙を堪えてただひたすら必死に耐える。

 こうやって、私をいたぶるのは、単に退屈しているからだ。せめて、あまりいろんなことを思いつかないで欲しい、と走り続けながら、私は思う。あまり表通りは歩かないようにしていたが、どこへ行こうとたいして変わりはない気がする。ここは、彼の地元だ。私よりずっと土地勘があるだろう。

 裸足のままで履いたスニーカーの中で、指先が擦れて痛くなってくるし、大きすぎる信長の上着は動きづらいし、仕舞いにはもうどうでも良くなってきて、私は、古い民家の脇の道端に座り込んだ。

 はあはあと肩で息をして、顔にかかった髪を指でかきあげた。
 今、何時だろう?
 まだ逃げなくちゃいけないのかな・・・?

 辺りを見回しても時計らしきものも、時間が分かるようなものも見当たらない。
 時折、車が行き交うだけで、この細い裏通りには人の姿もない。

 あれ?もしかして、けっこう良い所に逃げ込んだんじゃないかな?
 なんとなく息が落ち着いてきて、私はしっかり顔を上げた。

 逃げたんだから、ちょっとどこかに身を潜めて休もうか・・・と気を付けて辺りを見回す。と、そのとき、見慣れた信長の車が目に入った。

 広い表通りから入ってきたと見えて、角から不意に現れた黒のプレジデントが、ゆっくりと正確にこっちに向かってくる。

 ぎょっとした。
 ヤバイ!もう見つかった?
 私は慌てて更に細い道に逃げ込む。
 別に、もう逃げたってどうしようもないのに、人間の本能とはおもしろい。

 なんて、悠長なことを考えている間に、車の音が近づいてくる。とても車は入り込めないだろう細い道の脇で、一旦車が停まった気配がした。私は、とにかくその道をひたすら走り続けて、建物が並ぶその道を走りきった。十字路へ出て、更にもう一本先の道へ入ろうとした途端、不意に背後から腕を掴まれ、私は驚いて悲鳴を上げた。

「はい、ゲームオーバー。きっかり一時間だったね。」

 涼しい顔をして、信長が不敵な笑みを浮かべていた。




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Horizon (逃亡ゲーム) 5 

Horizon(R-18)

「どうしてこんなにあっさり見つかったか分かる?」

 さっさと車に詰め込まれて、私は、まだドキドキする胸を押えていた。直前まで彼はお酒を飲んでいたのだから、当然、自分で運転しているわけではない。まあ、ほとんどの場合、彼は自分で運転はしないのだが、実は運転技術はけっこう高いのだと、いつか助手席に乗せられたときに知った。

 施設の先生方も、時々私たちを車で町まで連れ出してくれたり、諸手続きのために役所まで乗せてくれたりした。しかし、特に女性の、しかも年配の先生方は運転がとてもへたくそだった。標識の見方もしっかり分かっていないし、一旦停止を見逃して警察に捕まったことすらある。ダメだこりゃ、と悟った私たちは、道路交通法を勉強して、先生方の車に乗るときには、私たちが本気で助手をして目的地までをやり過ごすようになった。お陰で、運転が上手い人の車に乗るとそれだけで相手を尊敬してしまう癖がついた。

 芸術的な料理が出来る人も、壊れた扉を魔法のように直してくれる技術職の人も、私は心から尊敬してしまう。それと同じで、華麗な運転技術を持っている人も、それだけですごいと思うのだ。

 が、今はそれどころではない。

「・・・さあ・・・?」

 疲れて、もうどうでも良かった私は、適当に首を傾げる。どうせ、お前の考えそうなことなんてすぐ分かるよ、とか言われるんだろう、と思った。

「鴻子、本気で逃げようというとき、お前は追いかける側の心理も読まないとダメなんだよ。」

 いつになく真面目な調子で言われて、私は、はあ・・・と気の抜けた返事をする。
 だって、言ってることとやってることのこのちぐはぐさ。

 信長は、捕まえた私の身体を早速弄び始めているのだ。彼の手は、すでに私の胸と太ももに伸びていて、私がその手の動きを止めようと、必死に彼の腕を押さえているのに、当の本人は淡々と話しを続けている。

「気付かなかった?お前に渡した上着に発信機が取り付けられていたんだよ。」
「・・・そっ・・・そんなのずるい・・・あっ!」

 彼の手は難なくブラジャーの留め金を外し、もう一方の手は、下着の中に侵入してくる。

「あらゆる可能性を視野に入れて、疑わしいことは一つ一つ排除していかなきゃ相手の思うつぼだよ。少しは学習しなさいよ。俺はそんなに甘くないし、使えないものはさっさと切り捨てるよ。」
「や・・・っ、くぅぅっ」
「分かってる?鴻子。その素直さはお前の魅力ではあるけど、生き残るためには、もっと勉強して賢くなりな。」
「あぁあっ・・・やぁっ・・・」
「こんなに簡単に捕まるようじゃ、話しにならないからね。今度は本気で逃げる気になるようにしてやるよ。」

 もう、何を言われているのか、段々分からなくなってくる。

 力ではまったくかなわないし、彼は私の身体のことは性感帯も何もかも、誰よりもよく知っている。恐らく私自身より。喘ぎ声が悲鳴に変わるほんのギリギリのライン、気持ち良さが苦痛に変わるほんの一歩手前。そういうところを見事についてくる。

 一瞬で私をイカせることも、何時間もじらし続けることも可能だ。

 尚も説教くさいことを何か言っていたが、私の耳にはもう何も届かない。自分の声すら、もう自分で発声しているのかどうか分からなくなってくる。

 最後には、とにかく許しを請うことしか思いつかなかった。
 いつ、屋敷に帰り着いたのか、いつ、寝室に運ばれたのか、もう私には分からなかった。

 次にはっきりと目を覚ましたのは、信長が、着替えて仕事に出かけようとしている朝日の中だったのだ。





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Horizon (まどろみの悪夢) 6  

Horizon(R-18)

 身体が重くて動けず、私は目を開いたままぼんやりと、衣服を身につける信長の背中を見るともなしに見ていた。カーテンが揺れて、窓が開いているんだな、ということだけが分かった。

 逆光で見るせいか、彼の顔はいつもより幾分老けて見えた。と言っても、年寄りに見えたんではなくて、青年実業家・・・くらいの年齢に見えただけだ。本当は何歳なのか、そういえば聞いたことがない。

 彼の顔は、特に良い男ってわけでもないし、かといって十人並み?というとそれよりは良いかな、という程度だ。草食系か肉食系かと問われれば、間違いなく肉食系だ。頭が良くて口がうまくて、ほっそりとしているタイプではない。南国の太陽が似合いそうな、アクション系俳優のような風貌だ。

 顔の印象は私にとってはむしろどうでも良いのだ。あまり記憶に残らない。私は、彼の目が、すとん、と冷たくなる瞬間が怖いだけだ。

 歴史上の武将、織田信長は短気で豪傑だったらしいが、この信長は、意外にもそれほど短気ではない。少なくとも、私が多少暴言を吐こうが彼の言葉に抵抗を示そうが、それほど気にしない。

 彼が怒るのはたった一つ。
‘裏切り’だ。

 それが、私の側でなくて、彼サイドの判断だから、時々私は不意打ちを食らったように混乱する。
 今はだいたい何がセーフで何が危ないのか分かってきたが、初めの内は彼の一挙手一投足に怯えた。

 一番、怒らせたのが、まだ私がここから本気で逃げ出せると信じていた頃。文字通り彼の留守中に逃げようと画策したことだった。

 それが、あの恐怖の一日を生み出した。

 死んだ方がマシだと、今でも夢に出てきただけで吐き気と震えが止まらないあの暗い部屋。自殺を図る寸前に救い出された恐怖の監禁場所に置き去られ、悪夢の続きを目の当たりにしたとき、私はとにかく泣き叫んで信長に許しを乞うた。

 あの瞬間、もう、信長に逆らう気なんてなくなっていた。
 逃げ出すことなど不可能だと骨の髄まで思い知らされた。
 そして。
 逃げたところで、私には行くところなんてないのだ。



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Horizon (まどろみの悪夢) 7 

Horizon(R-18)

「鴻子、明日の夜、迎えに来るから、明日は出かけるしたくをして待ってな。」

 後ろ姿のままで、信長は言う。ネクタイを締めながら、カーテンを少し寄せて外を見る。私はさあっと入ってきた強烈な朝日に顔をしかめた。

「・・・はい。」

 とりあえず、返事をしないと怒られることも学んだ。かすれた声しか出なくても、返事をしたことは伝わるだろう。彼は、月に一度くらい、そうやって私を外へ食事に連れ出してくれるのだ。機嫌が良ければ、服を買ってくれることもある。そして大抵、それはこうやって信長が仕事の合い間をみて気まぐれに決定するので、いつになるか分からない。

「ああ、それから・・・」

 と、彼はふと思いついたように振り返った。

「お前、たまには本でも読んで勉強しろ。」
「・・・なんで?」
「隣に書斎があるだろ?何でも良いから本を読め。週末までにレポートをまとめておけ。」

 かなり茫然として、私は彼の顔を言葉もなく見上げた。信長は、にっと笑って私の首筋をぐいと引き寄せ、一瞬でそれでもかなり強引な深いキスをして、更に念を押す。

「言ったことは必ずやっておくように。出来るだろ?」

 私は慌てて首を振る。

 やっと勉強という作業から解放されたのに、何を好き好んでそんなことを・・・と理不尽な思いに捕らわれたのだ。

「土曜の夜までにやっとけ。良いかい?言うことを聞かなかったらどうなるか分かってるだろ?」

 すうっと冷えたその目に背筋が凍る。
 ふざけているわけじゃない。本気で言っているのだ。

 愕然とした。

「じゃ、行ってくる。」

 信長は、私の頭をくしゃっと撫でて去っていった。

「・・・なんで、そうなるの?」

 私は泣きそうになった。




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Horizon (まどろみの悪夢) 8 

Horizon(R-18)

 意識ははっきりしていたが、身体がだるくて起き上がるのが億劫で、私はしばらくベッドの中で悶々と考え事をする。

 信長は・・・、私が口の利き方を知らなくても、タメ口で物を言っても、明らかにバカにした態度をとっても、或いは彼の腕の中でどれだけ逆らおうと、私が自らの分をわきまえている間は特に怒らないのだ。結局、彼の手の中だということを分かっている間は。

 彼が本気で怒るのは、私が彼の手を逃れようとすること。実際に行動を起こさなくても、それを考えること自体、決して許さない。それを‘裏切り’と捉えるのだ。だいたい、いつも考えていることは、ちょっとした言動の端々に表れてしまうものだ。だから、初めの頃は、彼はいつでもぴりぴりしていて、私も常に彼の顔色をうかがっていた。

 そこで気付けば良かったのに、あのとき、私は魔がさしたのだろう。

 それに。
 私は自分の身体に対する嫌悪感から、抜け出せずにいたのだ。

 逃げ出そうとしてあっさり見つかって、捕まって、そして、彼はそのとき初めて心の底から怒ったのだ。
 本気で私を棄てようとしたのか、分からない。
 だけど、本気で貶めようとしたことだけは確かだ。

 再度、あそこから救い出されて、私はもう二度と彼に逆らうことなど考えられなかった。何を言われても素直に従って、どんな要求にも応えた。

 しかし、あるとき、信長は不敵な笑みを浮かべて言った。私を組み伏せたまま。

「最近は随分大人しいな。いつもの元気はどうした?俺は、ただただ従順で、自分の意見も持たないような女には用はない。言いたいことは言って良いんだぞ、鴻子。」

 それでも、今のような軽口をたたけるようになるまでは、数週間かかった。あの、嫌悪と恐怖のトラウマから抜けるのは容易なことではなかった。実際、今でもまだ思い出すと吐きそうに苦しくって、気が遠くなる気がする。

 信長が、私を手の中に保護していること自体、単なる気まぐれの域を出ない限り、いつ、彼の気が変わるか本当のところは分からない。

 それを分かっている。普段、意識しなくても、深いところでは常に。




 それよりも、当面の問題は・・・。
 私は不意に現実に引き戻される。
 レポート・・・?
 何、それ、いい加減にしてよっ、・・・と心の中だけで毒づく。




 ため息が出て、私はもう一度深くベッドに潜り込んだ。






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Horizon (まどろみの悪夢) 9 

Horizon(R-18)

 しっかり覚醒した後に無駄に二度寝をしたせいか、悪夢をみた。
 夢とはいえ。忌まわしい過去の反芻の、まさに悪夢だった。




 その日、何も荷物を持たずにふらりと施設を出て、町をウロついた私は、日が暮れてきてさすがに途方に暮れた。今夜はどこに寝ようか?と思案した。

 知り合いとか、親戚とか、そういうものが一切ない私は、ぼんやりしたもの欲しそうな目をしていたのだろうか。隙だらけだったことだけは分かる。

 街の、道の脇の歩道と車道の境目に腰を下ろしていた私に、一見、ごく普通の青年、に見える男が声を掛けてきた。シックな色合いのシャツに暗い色のジーンズ、スニーカー。ごく普通の学生に見えた。

「彼女、どうしたんだい?彼氏にすっぽかされた?」

 特に私に興味がある、という風ではなくて、彼も人待ち顔で路上に座る私の横にすうっと立ち止まった。
 私は、初め、さすがに警戒して黙っていた。なるべくそいつの方は見ないようにしていた。

「俺も、ちょっと人待ってんだけど、・・・もしかして、待ちぼうけかなあ・・・。」

 彼は何度も時計を見る気配がしていた。それでも、私は相手がすぐ現れてそいつはいなくなるんだろう、という気がして、相変わらず黙って地面を見つめていた。

 思考は、すでにそこから離れて、お腹が空いたなあとか、今夜をどうにか乗り切っても何か働くとかしないとどうしようもないよな、と現実的なことも考えていた。

 だけど、何故かそういうことを具体的に考える気にはならなかったのだ。
 私は、もともとマトモな世界でマトモに生きていこうという健全さが薄かったのかもしれない。

 働くのがイヤだとか、そういうことではない。
 望まれずに生まれ、社会の厄介者の部類でそれまで生きてきて、これからもそういう祝福されない命としての自分にすでに見切りを付けていたというのか。

 だから、今思うと、私はそういう悪い運命を自分から引き寄せていたんだろう。

「・・・はは。やっぱりそうだよなあ・・・。」

 不意にどこか自嘲的に、呟くようにそいつは言う。その声が少し沈んでいて、私は初めてその男を見上げた。
・・・あれが演技だったとは。

 そいつは、本当に泣きそうな情けない表情で、必死に涙を堪えているように見えた。

「さ、帰ろうかな。さすがに。」

 そう言って、私を見下ろして、ちょっと泣きそうに笑った。

「君の待ち人は来れば良いね。」
「・・・私は・・・。」
「何時の待ち合わせ?」
「・・・。」
「あ、ごめん。・・・俺、実は半日待ってたんだ。」
「半日?」

 私はさすがに驚いた。本気で少し同情してしまった。それから、なんとなくぽつぽつと話を始めて、私は親も兄弟もいないことと、施設を飛び出してきて、行くところがないことなんかを話した。その途端、そいつの目がイヤな色に光ったことを、私は気付いていたのに、気のせいだと思い込んだのだ。

 本当に世間知らずのバカだった。そして、どこかで分かっていたのに、自分で自分を貶めていたのかもしれない。

 他にも人がたくさんいるからウチに泊まれば?と誘われて、ちょっとは警戒したものの、結局私はそいつについて行った。そして、連れて行かれたのは、大きな建物の一室。

「こんな大きなビルに、貸部屋でもあるの?」

 私は不安になって聞いてみる。そこは、繁華街の一角で、看板には建設会社の名前があり、その男は、大きなガラス張りの玄関の脇の、狭い階段を上って行くのだ。

「住居スペースがあって、若者のたまり場みたいになってるんだよ。君と同い年くらいの子も何人かいるよ。」
「・・・家出人?」
「遊びに来てるだけの子とかもいるんだ。」

 そいつはあまり私と目を合わせずにそう言った。

 案内されたその部屋には、確かに他に数人の女の子たちがいた。しかし、何かおかしいと思う間もなく、その部屋にあっという間に閉じ込められてしまった。

 叫んでも、もうどうにもならない。

 6畳ほどの窓もない狭い薄暗い部屋。そこに、虚ろな瞳の10代くらいの女の子たちが数人ぼんやりと座っていた。

 ここは・・・何?
 話し掛けてもその子たちからは、マトモな返事なんて返ってこなかった。

 そして、その夜から、私は入れ替わり立ち代りやってくる男たちに好きなように弄ばれたのだ。

 初めて男を知った夜。その痛みと暴力に、それに抗う術が一切ないという事実に、私は自分の身体が女であることの悲哀を呪った。生物に雄と雌があることへの不条理のようなもの。その機能をこんな風に利用されることへの絶望のような、奈落を見た。

 そして、意思とは関係なく自分の身体が絶頂を迎え、男を身体に受け入れることへの悦びに慣らされていくことに死ぬほど抵抗した。

 身体への暴行に加え、卑猥な言葉に寄る精神的陵辱。
 疲れ果てた身体には、自殺できるほどの体力が残っていなかった。それで、死ねずにいたようなものだ。

 そこにいたのは他に数人・・・、正確な数は分からない。他の子たちは、呼ばれるとそこから出て行って、しばらく姿を消すのだ。きっと、指名されてどこかへ出張サービスに出かけるとか、そういう類のことだったんだろうと思う。だから、その場で犯されるのは、だいたい私一人だけだった。そこは寝室も兼ねていたらしく、私が泣き叫ぶのを他の子たちはとても迷惑そうだった。

 その場に現れて私を抱いていたのは、恐らく仲間内の男達で、いずれ、稼がせるために調教していた、ということだろう。一人だけを相手にすることなんて少なかった。だいたい、私が暴れると一人が押さえつけ、口をふさぐ。そして、もう一人が思う存分欲望を満たし、私の身体を汚して果てた。そして次は役目を交替する。

 数人が終わるともう全身が生臭い精液でべとべとになる。
 最後に、部屋の奥にあるシャワーだけは浴びさせてもらえる。
 そして、死んだような眠りが訪れる。

 食事だけは与えられ、薄いローブのようなものを毎日一枚渡されるだけで、他には何も、下着すら身につけることは出来ない。部屋の扉には外から鍵がかけられ、自由に出来るのはトイレとシャワーだけ。

 狂ってしまった方がマシだと、本当に思った。

 時間の概念がもうなくなり掛け、一切がぼやけ始めていたとき、私は不意にその部屋から出された。

 そして、別の部屋で着替えさせられ、白いワンピースというごく普通の格好をさせられた。そして、何も知らされずに、応接室のような部屋に連れていかれたのだ。

 そこにいたのが、信長だった。

 茶色の革張りの大きなソファが向かい合わせに置かれて、中央のテーブルは綺麗な木目の厚い板だった。信長は、そのとき真っ黒なスーツを着て、グレーのネクタイをしめていた。その場のどこか淀んだ空気にそぐわない、不思議に澄んだ空気をまとっているように見えた。

 彼は、私を値踏みするように見つめて、ふうん、と笑う。

 そして、彼は向かいに座っていた、いかにもヤクザ風の大男に頷いてみせた。そして、その男に何か紙切れを手渡す。それが小切手だったらしい。

「ラッキーだったな、お嬢さん。」

 私をそこへ連れてきた若い男がそう言って、私を信長に引き渡した。信長は、何がなんだか分からず、ぼうっとしたままの私の手を引き、そのまま地下の駐車場に停めてある彼の車へと案内する。

 そう。
 彼が自分で車を運転する助手席に乗ったのは、後にも先にも、あのとき一度きりだ。信長は、あのとき、誰にも内緒であそこを訪れたのかもしれない。

 何かを聞きたそうな私の視線に応えて、彼が微かに笑った。その笑顔が、もう大丈夫だよ、と言っているような気がしたのは、私の心がそのとき相当弱っていて、差し伸べられる手に、ただ必死ですがりつきたいだけだったからに過ぎないのかもしれない。

 そうして、私はこの家にいるのだ。

 仕事をさせられる前に信長に買い取ってもらえたお陰で、私はあそこにいる憐れな少女たちの仲間入りはせずに済んでいる。少なくとも今のところは。




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Horizon (まどろみの悪夢) 10 

Horizon(R-18)

 今でも、時々夢にみる。
 男を無理やり受け入れさせられた最初の夜の映像と痛みの記憶を。



 
 信長も、結局はやることは同じだったが、それでもまだマシだった。とりあえず、彼は私を人として扱ってくれている。

 最低限、自分は人間だと信じられる暮らしを与えられているのだ。

 自分の思考というものが蘇り、すっかり分離していた頭と身体が少しずつ和解を始めたのは、それでも二度目に彼に救い出されてからだ。

 自分の身体が‘女’の機能を持っていることに、死にたくなるような嫌悪を抱かなくなったのは、いつ頃からだったか・・・。それは、信長が私を女として抱くことをどこかで受け入れたからなのだろう。

 私は、彼を自分の所有者だと、認めたのだ。

 それでも、信長の冷徹な性格とSの性癖には、時々本気で震えが走る。
 仕事で週末にしか屋敷に戻らないのがせめてもの救いだ。

 家に戻った途端、玩具で遊ぶのを待ちわびていた子どものように、早速私を自室に呼び出す。他に人がいようが、日中だろうがまったく構わない。さっさと私の服を剥ぎ取り、抵抗すれば縛りあげ、大抵、エンドレスで遊ばれる。

 彼がいる間、私はほとんど衣服を身に付けている時間などないのではないだろうか。
 食事も部屋に運ばせるので、ベッドの上で食べたりもする。

 見た目の年があまり変わらなそうな気がして、ついタメ口になってしまい、私は生来の勝気さが災いして、思ったことはすぐに口に出てしまう。しかし、彼はそういうことで逆上したりしない。むしろ、私が手の中で暴れるのを楽しんですらいるように感じる。私が反抗的な視線を投げつけると、彼はますますそれを煽るのだ。猫が捕えた獲物を、活きの良い間は散々いたぶって楽しむように。
 



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Horizon (外出) 11 

Horizon(R-18)

「鴻子さま、お食事の支度ができておりますが。」

 その日、お昼近くになってしぶしぶ起き上がり、書斎に足を踏み入れた私は、一体、どの本なら簡単に読めるだろう?とぼんやりと壁一杯にならぶ書籍の群れを虚ろに眺めていた。

「・・・はい、ありがとうございます。」

 はっとして振り返ると、開け放したままの扉の向こうで、通いの使用人が頭をさげている。彼女は、朝8時に出勤してきて、夕方6時には帰る、子ども二人と夫と4人家族の普通の奥さんらしかった。いつか、玄関を普段着で帰っていく彼女の姿を見かけて、私はここを出て行く彼女を羨ましく思って窓から見つめていた。それを背後で見ていた信長が、そんなことを説明した。名前は確か・・・普通にある苗字で、印象に残らず忘れてしまった。佐々木さんだったか佐藤さんだったか・・・。

 鴻子さま、と呼ばれるのにも大分慣れてきた。信長が私をどんな風に説明しているのか知らないが、使用人にとっては雇い主の所有物も、一応、雇い主の付属品という形で尊重されているのだろうか。

 食欲はあまりなかったが、ここで「あとで良い。」なんて断ることは私には出来ない。

 食事を与えられているだけで有り難いというものだ。本来なら、私もここで働くべきではないか?と思う。或いは、信長が私のために支払ったお金のために少しでもどこかで稼ぐべきでは?と。

 だけど、高校も出ていない私にマトモな職場があるとは到底思えなかった。それこそ、身体で稼ぐしかないだろう。そこまで考えるとぞっとして考えることを強制的に中断する。結局、いつもそこで思考はストップしたまま進まない。

 信長がいない平日は、私は普通にダイニングで食事を取る。
 ほぼ、一人きりだ。

 月に一度、信長が外へ連れ出してくれる食事は、ときに本格的なテーブルマナーが要求される高級レストランもある。それで、私は普段の食事の場で、そういうマナーも強制的に習わされている。和風の食卓もあるが、夕食はだいたいナイフとフォークの綺麗に並んだ食卓に就かなくてはならない。給仕も担当しながら、執事の幸甚さんという人が細かく教えてくれる。かなり年配のおじさんで、私はそういう威厳のある年配者には基本的に逆らわない。施設の事務長だった優しいおじさんにどことなく似ているせいかもしれない。

 今日の昼食メニューは、焼き魚と野菜の炒め物、それから根菜の煮物という和風なもので、私はほっとする。

 ごちそうさまでした、と箸を置くと、そのタイミングを見計らって、佐藤さん・・・だっけ?先ほどの女性が紅茶とか緑茶とか、そのときの食事に合わせた食後の飲み物を運んでくれる。そして、私がそれを飲んでいる間に、食器は片付けられる。

 なんだか、私は庶民のせいか、そういう世界にまだ落ち着けずにいる。

 いつもは、ぼうっとして過ごす午後だったが、今日はこれから本を物色して、読み始めなければならない。
 私は、ため息をつきながら、書斎へ戻った。




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Horizon (外出) 12 

Horizon(R-18)

「勉強は順調に進んでる?」

 その日、訪れたのはイタリアンレストランで、それほど高級志向の強いところではないこぢんまりとした店だった。カウンターだけのバーと一緒になっていて、会社帰りらしいのサラリーマンの姿もチラホラ見える。ピザやパスタなど、軽食も頼める気楽な場所だったので、私は思い切りそういう単品メニューを頼む。植物がたくさん植わっている中庭のような囲みの脇で、私は信長と向かい合ってテーブルに座っていた。

 彼はいつものようにスーツで、私は、裾の長いフレアスカートと大きなフリルのついた柔らかいブラウスを着ていた。

「・・・まあまあ。」

 一瞬、ぎくりとして、私はフォークでくるくるとスパゲティの麺を巻き取りながら彼の視線から逃れる。実はまだ本すら選んでいない。何度か薄い本を手にとって読み始めてみるのだが、興味の持てる内容のものが見つからず、都度、途中で飽きてしまうのだ。

 だいたい、あそこにある本は、ほとんどが百科事典みたいに専門的なものばっかりで、私にはとてもついていけない。

「週末までにレポートに手を入れるのを忘れないように。言っとくけど・・・」

 彼は、私の顔を覗き込む。

「あそこにある本は俺は全部目を通してあるんだから、適当な誤魔化しを書いても分かるからね。」

 私は、恐らく青ざめて彼を見上げただろうと思う。途端に食欲がなくなった。
 それから、と信長は、サラダの野菜を器用にフォークに乗せながら、にやりと笑う。

「自分でオーダーしたものは、しっかり食べるように。」

 テーブルに並んだディッシュを茫然と眺めて、私はムッとする。

「だって、ほとんど私が頼んだものじゃない。」
「だから、しっかり食べろって。責任もって。」
「こんなに全部食べられない!」
「だから、手伝ってやってるだろ?」

 ピザに手を伸ばして、やつは不敵な笑みを浮かべる。
 くうぅっ!なんだか、借りを作っているみたいで腹が立つ!

 マナーのうるさいコース料理をオーダーされないように、ピザだのパスタだのを大量に注文したことを見抜かれているらしい。彼が頼んだのはサラダだけだった。

「食べるわよ!」

 親の仇みたいに・・・というと語弊があるが、私は猛然と食事を始めた。そうやってがつがつと食べている内に、さきほどの憂鬱は忘れてしまっていた。ふと気付くと信長がニヤニヤ笑って私を見ている。

「手伝ってくれるって言ったじゃない。」

 さすがに苦しくなってきて私は文句を言う。

「お前、相変わらず単純でおもしろいな。」
「どういう意味よ?」

 言いながら、目を細めるやつの笑顔に不意にどきりとした。




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Horizon (外出) 13 

Horizon(R-18)

 信長が普段使っている会社の寮・・・にしては、随分立派じゃない?というマンションに泊まるのも、こうやって出かけた日はいつものことで、死ぬほど食べて苦しくて動くのも億劫なまま、私はその部屋に当然のように連れ込まれる。

 ここは、信長の会社から車で十数分の普通のマンションだ。だから全室会社で寮として押えているわけではないらしい。他にも何人か単身赴任の社員などが使っているというが、どの部屋がそうで、どこが一般の人なのか私には分からない。

 まあ、あまり関係ないけどさ。
 ここは都心からけっこう離れているので、意外と静かで、夜はそれほど明るくない。
 それを言ったら、信長の持ち家(?)の屋敷はもっとずっと田舎なのだが。

 信長は、私といるとき、テレビを観るとか音楽を聴くとか、誰でもがするようなそういう普通のことは一切しない。

「シャワー浴びてこい。」

 部屋に入るなり、彼はネクタイを解きながらそう命令口調で言う。ダイニングのテーブルに崩れ落ちた私を軽く一瞥して自分は冷蔵庫の中からアイスコーヒーを取り出してグラスに注ぐ。

「・・・今日は、無理・・・。」
「何が?」

 私は本気でお腹がいっぱいで、動くに動けなかった。この状態で縛られたりお腹を圧迫されるようなことをされたら、間違いなく・・・。

「吐きそう・・・。」
「じゃ、吐いてこい。」

 グラスを空けながら信長は平然と言い放つ。

「やだ。もったいない。」
「じゃあ、我慢しな。」

 彼の目が微妙に怪しい光を帯びてくる。これ以上、引き伸ばすとあの瞳はすとんと一段冷えて私を見据える。ここでイヤだと言い続けるのは得策じゃない。

 私はもう無言でそろそろとバスルームへ向かう。

 それでも最後の抵抗で、ゆっくりとシャワーを浴びてきたら、ほんの少し楽になっていた。洗面所脇の扉を開けて、いつもの場所に私のパジャマを探したが、そこには見つからなかった。私が来ると分かっている日は、ベッドの上に用意してあることもあるので、そっちかもしれない。男のくせに、変なところがマメなやつだ。

 仕方がないのでバスタオルを身体に巻いたままバスルームの扉を開けたら、不意に信長の長身の身体が視界をさえぎり、私はびっくりする。すでに上半身裸だったから、彼もシャワーを浴びようとしてこっちに向かっていただけなんだろうけど。

「おい。」

 と彼はすれちがいざま、私の額の上の髪の毛を掴んで上を向かせ、何よ!と言いかけた私の口を強引にふさいだ。

「んんっ・・・んんんっ」

 講義の声をあげて彼の腕を外そうとして両手を離した途端、バスタオルがすとんと床に落ちた。

「そこに、中国茶を煮出してあるから、少し飲んでおきな。消化剤だ。」

 彼は、そう言い残してバスルームに消えていった。

 はあ・・・とため息をついて私はバスタオルを拾い上げて、今さらもうどうでも良くなり、それをそのまま洗濯機に入れた。裸のままキッチンをうろうろすると、熱いやかんの口から湯気が出ていて、独特の薬草の香りがした。

「中国茶?」

 いつか、中華料理の飲茶という料理を食べたことを思い出した。そのときに出されたお茶に少し似ているかもしれない。もちろん、信長に連れて行ってもらったときのことだが。

 私は、その辺の棚からカップを取り出し、それに少し注いでみる。
 香りがきついけど、それほど不快じゃない。
 しかし、信長って変なやつ。
 まあ、最中に私に吐かれちゃ確かにたまんないだろうけどさ。



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Horizon (外出) 14 

Horizon(R-18)

 イタリア料理に中国茶なんて、変な組み合わせ、とか思って、熱いそれをちびちび飲んでいると、信長が不意にバスルームから現れ、私の格好をみて、一瞬呆れた顔をした。

「お前、誰かが訪ねてきたりしたらどうするんだ?」
「・・・誰か来るの?」
「いや、・・・もう良いよ。」

 屋敷内では私にほとんど服を着せないくせに、ここでは気になるのか。

 それは、結局、他の人間には見せるなってことだなぁ、と私はぼんやりと思う。そこで、ちらりと何かが脳裏をかすめたが、私はそれを敢えて無視した。

 信長は、バスローブの前をしっかり閉じずにただ羽織っただけの格好で、やはりカップにそのお茶を少し注いで飲み始める。それを横目でちょっと眺めて、飲み終わった私は寝室へ行って、パジャマを探した。

 ベッドの上に置いてあったそれを身につけようとしていると、不意に背後から信長の手がそれを取り上げる。

「今さらもう良いって。」

 そして、そのまま私の身体を抱え上げてベッドの上にひょい、という感じで投げる。

「ひゃあぁっ・・・ピザが逆流してきたらどうすんのっ」
「もう、大丈夫だろ?大分動けるようになったみたいだし。」

 お茶が効いたとは思わなかったが、時間が経ったせいか、確かにずいぶん楽にはなっていた。見てないようで、けっこう気をつけているんだな、とちょっと怖くなる。

 そんなことを考えている間に信長はもう私の上に覆いかぶさっていて、私は言葉を発する間もなく抵抗を封じられた。髪の毛を掴まれて、動けないより、痛い。逃げないから離して、と言おうにも口はふさがれていて、発声は意味を成さない呻き声にしかならない。

 しかも、彼の腕の下でもがいていると、まだやっぱり苦しくて途端に具合が悪くなる。
 私は、もう諦めて、彼の成すがままに従った。

「なんだ、もう諦めたのか?」

 つまらなそうに信長は私を見下ろす。

「・・・お腹が苦しい。」
「なんで、そんなに食べたのさ。」

 呆れる彼を睨みつけた。

「自分が食べさせたんじゃない。」
「別に俺がお前の口を開けて無理やり食べさせたわけじゃない。お前が自分で勝手に食べたんだろ。」
「・・・それはそうだけど・・・。」

 なんだか、もうどうでも良くなって、私はため息をついた。

「じゃあ、少し運動しろ。」

 信長はそう言って、私をぐい、と抱え上げ、自分がベッドに仰向けに横になる。そして、私を騎乗位にさせて、まだすっかり濡れてない中に、ゆっくりと突き上げてくる。

「んんんっ・・・いやぁっ、痛い・・・っ」

 しかし、それも一瞬のこと。すぐに熱い液が溢れ出し、ずぶずぶと奥まで到達する。足の力を抜くと子宮の入り口に突き刺さる熱い痛みを感じて、私は慌てて腰を浮かす。

「しっかり動け、鴻子。食後の運動にちょうど良いだろ。」

 そんなことを言われても、私はあまりこれは得意ではない。彼の上にすっかりしゃがみ込んで、何度か腰を浮かすが、動きがぎこちな過ぎるようで、大抵いつでも信長には不評だ。結局、彼の手でお尻を抱えられて、すとん、と落とされることを繰り返すだけで、私はもうイキそうになってしまう。

「いやあっ・・・ダメぇ!」

 ぐい、と腰を引かれて彼が身体の奥に突き刺さり、私は半べそで悲鳴をあげる。



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Horizon (外出) 15 

Horizon(R-18)

 仕方ないなあ、と言いながら、そのまま身体を起こした信長は、私の頬を両手で挟みながら、私の唇に熱い舌を這わせ、そして躊躇なく中に押し入ってくる。

 下半身はつながったままだし、まだイキそうでイケてない私の身体はただ疼いて熱くなっていて、彼のちょっとした動きに反応してしまう。

 次第に彼の手は私の頬から下へとおりていき、片手が背中を抱き、もう片方が胸を揉む。乳房を掴まれただけで、私の背中は痙攣する。もう、あと一押しでイケるのに、微妙なところだ。

「んんっ・・・ふっ・・・くうぅ・・・っ」

 鼻から声が抜けて漏れる。微妙に彼は腰を揺らしていて、私のあそこから溢れる蜜はどんどん滴り落ちているのが分かる。不意に、背中にまわされていた手が腰に落ちて、お尻をぎゅっと掴んだ。

 叫び声を上げる間もなく、胸を弄んでいた手が、今度はつながっている穴の前の、敏感な小さな突起を撫で始めた。もうぐちょぐちょに濡れている足の間は、どこをどう触れられても、頭に白い電流が突き抜ける。私の両腕はただ彼の背中に必死にしがみつくだけだ。

 喉に流れ込んでくる甘い唾液を何度目か飲み込んだあと、それでも飲み込みきれずに口の端から溢れて流れていく筋が、顎へと伝わっていくのが分かった。もう、口の中を執拗に犯される彼の舌の動きと、彼の手が弄ぶ下半身への刺激とで、私の意識はとっくにどこかへ吹き飛んでいるのに、身体は熱いまま震えているだけだ。

 最後に激しくこねられた突起への刺激で、私は遂に絶頂に導かれる。
 一瞬、視界は真っ白になり、身体を奥を熱が駆け抜けた。

「あ・・・あっ・・・あ・・・っ」

 一度硬直したようにのけぞり、そのままふらふらと崩れ落ちた私の身体を支えて、信長は私の身体をベッドへ横たえた。そして、まだ絶頂の余韻の残ったままの私の中に再度侵入してくる。

「きゃ・・・あ・・・あぁっ」

 私の、悲鳴とも喘ぎ声ともつかない叫びは完全に無視して、信長は私の身体を好きなように折り曲げたり横向きにしたりしながら、まだまだ熱くたぎる彼を何度も差し込んでくる。

 いつもは途中で避妊具を使用してくれる信長が、その夜は、まったく避妊しようとしていないことになんて、私はそのときまだ気付いていなかった。

 激しく何度も膣をこすられ、ぎりぎり奥まで突かれ、私は何度も意識が飛んだ。

 快感なのか苦痛なのか、喘ぎ声なのか悲鳴なのか・・・もう、私には分からないし、判断するのは私ではない。
 最後に、私の両足を肩に抱えて胎内奥深くまで自身を到達させて、彼の熱を思う存分放ったとき、私も何度目かの絶頂を迎えて、そのまますとん、と意識は途切れた。




 諦めて従っているわけでは・・・ない。と、思う。
 私の中で、そういう選択肢はない。
 私は自分で選んでここにいる。
 選択の余地なんてないじゃない?と言われればまったくその通りなんだけど。



 
 私は、信長が、私を好きにすることを認めているのだ。
 負け惜しみ、みたいだけど、そういう気がする。




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Horizon (信長の戦い) 16 

Horizon(R-18)

 翌朝、まだろくに目も開かない内に、私は信長に揺り起こされた。

「鴻子。忘れてた。早くここにサインして。」

 もう、出かける支度をした信長が、私の身体を抱え起こして無理矢理ペンを握らせる。新聞を下敷きにして、彼はペラペラの一枚の紙を私の目の前に置いた。

「・・・サイン・・・って何?」

 芸能人やスポーツ選手などがファンにしているわけの分からない字体をぼんやり思い浮かべながら、私は目をこする。

「名前を書けば良いんだよ!」
「ああ・・・なんだ。」

 私は、とにかくまだ眠くて身体が思うように動かなくて、よく書類を見ないまま、彼の指が差す空欄によれよれの字で名前を書き込む。

「それから、上に住所も。」
「住所なんて知らない・・・。」
「横に書いてあるだろ?同じものをそのまま書け。」

 言われるまま作業を終えて、私はそのまま、またベッドに倒れこんだ。信長が、その書類を片付けて背広のポケットに入れている気配がする。そして、私の頭を軽く撫でて彼はばたばたと玄関に向かった。

「夕方迎えに来る。誰が来てもドアを開けるなよ。」

 いつもの台詞を言い残して、やつは仕事に出て行った。

 私は、やっと静かになった空間で、思う存分眠りをむさぼる。信長の仕事関係で私の署名が必要なことなんて一体どんなことだろう?と薄れる意識の中で一瞬考えたが、意識が闇に落ちたあと、私はそのことに関して、二度と思い出すことはなかった。

 昼近くになってようやく眠気が去って、私は一人目覚めた。
 さすがに少しお腹が空いた気がして、私は冷蔵庫を適当にあさる。

 日本酒の中ビンとチーズやサラミや、おつまみ的な食材しかない。米はあるようだが、炊かれていないし、これから炊けるまで待つ気はなかった。ベーカリーで買ったと思われるホテルブレッドと生卵とバターが見つかったので、卵焼きを作ってチーズと一緒にパンに挟んで食べた。

 コンロの上には昨夜の中国茶がそのままやかんの中にあったので、ちょっとカップに注いで、残りはプラスチックの容器に移し替えて冷蔵庫に入れた。

 こうやって、ここに泊まった翌日は、信長の仕事が終わって戻ってくるまで私は暇だ。それで、部屋の掃除とか溜まっている洗濯物とかを片付けて過ごす。普段は週に一度くらい、通いのお手伝いさんが来てそういうことをやってくれているらしい。

 信長が雑音を嫌うので、私もテレビをつけっ放しにしたり音楽を掛けながら作業をしたりということをしない。部屋はいつも静かで、私が立てる物音しかしなくて、そんな無音の中にいると、全身の感覚が妙に研ぎ澄まされて心が穏やかになるのが分かる。

 屋敷にいると、他にも人が働いている気配がするからそれはそれで安心するのだけれど、月に一度、私はこの完全な孤独の中に身を置くことは何かのリハビリになっているような気がする。きっと、今の私には必要なことだ。

 気合を入れて掃除に取り掛かると、けっこう時間がかかる。

 私は施設育ちなので、意外にこういうことはきっちり躾けられていて、片付けをうるさく言われて育っているため、雑然とした部屋は落ち着かないのだ。

 この雑な性格から、そういう面をまったく想像できないらしく、初めにここを掃除して待っていた日には、信長には本気で驚かれた。

「悪かったわね。」

 と私がふてくされると、彼は複雑そうな表情を浮かべて言った。

「人を見かけで判断するな、って言葉は絶対嘘だと思ってたけど、本当にそういうこともあるもんだね。」
「・・・それって、ちょっと違くない?」

 私は言いながら、ふとやはり複雑な気分になった。

 こいつは、世の中、見かけ通りの人間ばっかり・・・という中で育ってきたんだろうな、と思ったのだ。良くも悪くも。



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Horizon (信長の戦い) 17 

Horizon(R-18)

 二人とも、いや、少なくとも私は、表の世界で光をいっぱいに浴びて生きてきた人生じゃなくて、生まれた初めから底辺を這って世間をいつでも見上げていたから、自分を他の人と同じ人種だとは考えていない。

 世の中、負け組み、勝ち組、のような区分けもあるらしいが、そんな甘いもんじゃないと私は思う。

 それは、スタート地点の同じ人々が一斉にスタートを切って、単にゴールにたどり着くのが早いか遅いかだけじゃないかと思う。そのゴールだって、そいつらが勝手に設定したものだ。

 つまり、ゴールは変えられるのだ。
 ここで、ゴールと本人が決めたら、それだけでそいつは勝ったことになるではないか。

 私の世界は違う。
 支配者と、被支配者の世界だ。
 これは、もう生まれた瞬間に振り分けられて、そこから抜け出すことなんて出来ない。
 そして、この二つの種類の人間は、ペアになっているのだ。
 支配する者と、支配される者。
 ヤクザの世界でもそうだし、世界の暗黒界を牛耳っている闇の世界は間違いなくそういう構造だ。

 もっと小さな身近なところでは・・・前者は信長で、後者は私。前者は相手を選べるが、後者にその権利はない。

 それから。
 私は、幼い頃より、表面でいくら取り繕って善人ぶっている人も、本当は何を考えているか分からない、ってことばっかりイヤというほど見てきた。

 そして、その逆もあった。
 そして、思った。いや、言葉で考えたのではない。なんとなく感じた・・・って方が近い。
 善悪定まらぬものが‘人間’なんだ、と。

 そこに救いを求めたつもりはない。
 だけど、顔を上げれば、星空が見えるだろうことを、いつも信じていたかったのだ。たとえ、それが切り取られた夜空でも。

 微かに届く月光を、温かいと感じていたかった。
 何度か休憩しながらも、黙々と作業を終える頃には、外の景色はきっかりと夕方になっていた。
 私は四角い空と切り取られた絵画のような外の風景を黙って見つめる。
 これが、私に与えられた自由だ。

 夕飯は、だいたい屋敷に戻って食べることになるので、私はあとは信長の迎えを待つだけだった。

   


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Horizon (信長の戦い) 18 

Horizon(R-18)

 その日、私を迎えに来たとき、信長はかなり不機嫌だった。

 あれ?なんか、こいつ機嫌悪い・・・?と感じることはあっても、いつの間にかそういう空気はすっと消えているから、私が思いきり感じ取れるくらい、今日は余程、本気で機嫌が悪いのだ。

 私は何も身に覚えがなかったし、どうも私に対して怒っているわけではなさそうだったので、恐らく仕事で何かイヤなことがあったんだろう、と思った。

 専任の運転手が運転する彼の車で私たちは屋敷に戻り、夕食を食べる段階になっても彼から出ているオーラは不穏だった。

 食事にほとんど手をつけずに信長は席を立ち、まだ食べている私を強引に立たせて部屋に追い立てる。

「・・・今日は、あっちに戻るんじゃないの?」

 黙っていれば良いのに、私はそんなことを聞いて益々彼を苛立たせた。

「明日の朝、早めにここを出るよ。お前はそんなことをいちいち気にするな。」

 こういう信長は怖い。
 正直、本気で怖い。

 理由が何であれ、そのイライラの捌け口にされるということは、かなりきついことをされる、ってことは今までの経験上、よく分かる。

 だけど、大人しく八つ当たりされているほど私も人間が出来ていないから、更に余計なことを言って、大抵墓穴を掘る。

 その日も、荒れ狂う嵐を避けて大人しく物陰に身を潜めていればいいものを、バカな私は嵐の只中に出かけて雷神相手に戦いを挑むようなマネをする。

「私、まだ食事中だったんだけど。」

 腕を掴まれて引きずられるように廊下を歩きながら、ぼそりと私は言う。
 瞬間、更に掴んだ手に力をこめられ、私は悲鳴を上げる。

「痛いっ・・・痛いよ、信長っ、離して!」
「誰のお陰で食事が出来ると思ってるんだ?」

 長い廊下の白い壁にどん、と身体を押し付けられて、私はちょっと咳き込んだ。

「・・・そりゃ、作ってくれた人の・・・」
「それをお前に与えてやってるのは、誰だ?」

 これ以上ないくらいの不穏な笑みを浮かべて、やつは私の腕を後ろにひねりあげる。その痛みに顔を歪めながら、私は見下ろす冷たい視線を睨み返す。自分でバカなことを言ってると分かっているのに、止められない。

「・・・だ、だからって、せっかく作ってくれたものをあんな風に、食べもしないで捨てるのってどうかと思う。」
「ああ、なるほど。」

 信長の声もその目も、むしろ怒りのためにどこまでも冷えている。怒鳴ってくれた方がいっそ有り難い。ざわざわと冷気が足元から背筋をのぼっていくのがはっきり分かる。

「じゃあ、食べてこようか?それからなら、俺が何してもお前は逆らわないんだな?」
「・・・そ、そんなこと・・・言ってない。」
「じゃあ、今、言え。言う通りにします、って。」
「イヤ。」
「それは聞けない。はい、と言え、鴻子。ここで犯されたいか?」
「・・・イヤ。」

 声が震えた。ぐい、と後ろから髪の毛を引っ張られ、目をそらすことも出来ない。反対側には窓が続き、中庭の景色が闇に浮かんで緑色に見えている。廊下の真ん中で、信長は息苦しくなるような、溺れるような深いキスをする。掴まれている腕が痛みで痺れてきて、私は気が遠くなりかけた。

 乱暴にブラウスのボタンを外し始める彼の手の感触にはっとして、私はその手を掴む。

「やめて・・・っ」

 だけど、彼の手はあっという間に私の服の前の留めを外し、片方の手が更にスカートのベルトを外す。腰をぐいと抱き寄せられて、私はどんなにもがいても、もう彼の腕から逃れられなくなった。彼の手はスカートの中の下着に容赦なく侵入してきて、抵抗する間もなくそれを引き下ろされたことを感じた。

「い・・・っ、んぅっ・・・」

 叫ぼうとした口を再度強引にふさがれ、その熱さにくらりとなる。
 廊下中に物音が響く。何事かと使用人たちが様子を見に来て、声を掛けられずに戻っていく気配がした。

 胸も足の間も、彼の手でめちゃくちゃに愛撫され、身体はもう変に敏感になり、言葉としての思考は消えうせた。

「あ・・・っ、あぁ、んぅ・・・っ、ああっ!」

 壁に押し付けられていなければ、もう私は立っていられなかった。

 いつ彼が私の中に入ってきたのか、それすら定かではない。気が付けば私は彼の絶え間ない突きに揺らされて、何度も何度もその場でイカされていた。最後に、信長が私の片足を抱えて胎内の奥深くでその熱を放ったとき、私は初めて彼を中で受け入れていたことを知ったのだ。



 
 その夜、結局、信長は、廊下で気を失った私を寝室のベッドに運んだあと、泊まらずに会社の寮に戻っていったらしい。



 
 ああ、神様。この、減らない口をなんとかしてください。
 仕舞いに私はこの口が災いして、明智光秀のように、絶対信長に殺される。
 いや、殺されたのは信長の方だっけ?

 
 

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Horizon (レポート) 19 

Horizon(R-18)

 週末、何食わぬ顔で帰ってきた信長。
 もしかしてそっちも忘れていてくれるんじゃないかと思ったのに、顔を見るなり言われた。

「レポートは?」
「・・・。」
「今すぐ書け。」
「・・・まだ、全部読んでない。」
「読んだところまでで良いよ。その代わり書きあがるまで食事はお預けだ。」

 お預けって・・・私は犬か?と多少ムッとしたが、言われたことをやっていない自分が悪いことは分かっていたので、敢えて黙っていた。

 その日、彼はお昼前に戻っていた。ということは、レポートを書き上げるまで、お昼ご飯もなしってことだ。
 あ~あ・・・、と私は半分ふてくされて、私に与えられている部屋で机に向かう。

 普段は私はその小さな部屋で生活しているが、週末、信長が帰ってきてやつの部屋に呼び出されたあとは、彼が仕事に出るまで自分の部屋には戻れない。

 と言ってもまあ、部屋は隣なんだから、用があればすぐにでも戻れるのだけど。
 昼前からあいつに好きにされるのと、どっちがマシかちょっと考えてみる。が、正直、よく分からない。

 私が決死の覚悟で読み始めたのは、闘病記のドキュメンタリーだった。著者が不治の病に侵され、いろいろ健康法などを模索して各地を放浪する。・・・と、まだその辺りだ。あと三分の一くらい残っている。

 なぜ、こんなものを選んだのか?

 信長がこういうタイプの本を好きそうだからとか、感動ものを提出した方が受けが良いかもしれないとか、そういう計算が私は出来ない。学校でもそうだった。信長には、そういう計算もしないとダメだとよく言われるが、なかなかそういうことってすぐには切り替わらないものだ。

 そう。なんのことはない、これが一番、薄い本だったのだ。

 と、初めからそんなことを書いたらまたあの目で静かに睨まれそうなので、少しは真面目なことを書く。私は、気が向けば勉強はしっかりやる方だった。だから、気が向いたときとそうでないときの成績の差が激しかった。

 今はまったくやる気がないのに、やらなければならない・・・。

 夜まで食事を抜かれたくないし。
 ちぇっ。早く済まそう。

 半分くらい進んだところで、部屋をノックされる。

「はい?」

 と返事をすると、佐藤さん・・・本当にそうだっけ?が、昼食を呼びにきた。

「ええと・・・はい、ありがとうございます。」

 と、一応返事だけはした。けど、終わらないと食べられない。私はとにかく必死に書くこと、に集中した。そして、なんとなくまとまった文を書き上げて、大きく息をつく。

 あれ?何枚以上とか、何枚に収めろとか言われてたっけ?
 なんとなく、学校の課題みたいな気分になって、私はふと考え込んだ。

 いや、何も言ってなかったから、これで良いや。



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Horizon (レポート) 20 

Horizon(R-18)

 時計を見ると、もう午後2時に近かった。
 あ~あ、お昼ご飯食べ損なっちゃった・・・。

 ぶつぶつ言いながら信長の部屋の扉をノックする。

「どうぞ。」

 と彼は答える。部屋に入ってみると、彼は部屋の中央に置かれた黒い革張りのソファに座り、その前のテーブルの上にはサンドイッチの皿がラップに包まれて置いてあった。野菜や卵やカツなどがふんだんに挟んである豪華なものだ。

 良いなあ、これ、食べたのか。
 って、え???まだ、食べてないの?

「食べ物は良いから、それを早く寄越しな。」

 私の目がサンドイッチに釘付けになっていることに呆れて、信長は言った。

「じゃ・・・私はこれで・・・。」

 彼にレポートを手渡して、そろそろと部屋に戻ろうとすると、信長はちらりと私を見る。

「俺がお前のレポートを見終わるまでここにいな、鴻子。」
「・・・はい。」

 向かい側のソファに腰を下ろして、課題のレポートのチェックを受ける学生みたいに、私はドキドキしていた。

「ああ、それ食べて待ってて良いよ。」
「え・・・っ?」
「それはお前の分だ。」

 信長はサンドイッチを指さす。
 たまに思う。こいつって、本当は不思議な人間だと。

 錯覚してしまいそうになる。
 もしかして、愛されて大切にされているんじゃないかと・・・。

「おい、これは一体どういう意味だ?」

 サンドイッチを一口ほうばった途端、信長はじろりと私を睨む。

「・・・???」

 口の中いっぱいで、私は言葉が出ない。

「前後のつながりがないだろう?それから、ここ!こんな慣用句はない。しっかり覚えとけ。」

 ・・・前言撤回。こいつは単なる小姑だ。

 食べているそばで、誤字があるだの、何が言いたいのか分からないだの、ものすごくうるさい!
 それでも、私はほぼ無視して食べ続けてやった。

「まあ、今回はこれで良い。今度は来週までにもう一冊読んで、そっちもまとめて置け。」
「ええ???まだやるの?」

 あと少しだと思ってほっとしていたのに、私は絶望的な気分に陥る。それでも、サンドイッチはほぼ半分は片付いていた。

「書斎にある本を全部読むのに、お前はどれくらいかかるかなぁ?」

 信長は、どこか楽しそうににやりと笑う。

「・・・死ぬまでには読めるかもね。」

 私は、これ以上絶望するのに疲れて投げやりな気分になった。

「ああ、死ぬまでにね。俺が間違いなく死期を決めてやるから、さっさと読み終わっておくんだな。」

 ・・・ああ、なんて、消化に良い環境・・・。

「あまり一気に食べるな、鴻子。また、苦しくて動けないとか言い出すから、お前は。」
「・・・ごちそうさま。」

 さすがにそれには私も懲りていた。そこそこ空腹は満たされたので、私はそれを片付けようと皿を抱えて立ち上がった。



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Horizon (レポート) 21 

Horizon(R-18)

「そのままで良いよ。それより、さっさと本を選んでこい。」
「・・・今?」
「なんなら、俺が選んでやっても・・・。」
「行ってきますっ」

 こいつに選ばせたりしたら、私は永久に読みおわらないっ
 私は慌てて書斎に駆け込む。

 一体、やつが私に何をさせたいのかさっぱり分からない。余計なことを画策する暇を無くしておきたいのか、自由を奪っておきたいのか・・・。

 なんとなく読めそうな本を手にとってぱらぱらめくってみるが、いまいちピンとこない。
 まさか、端から全部読めとか、言わないよね・・・?

 悩んでいる間に、思ったより時間が経過していたらしい。

「いつまで選んでいるんだ?」

 不意に背後から声を掛けられて、私は我に返る。

「ええと、今、決めるから。」

 勝手に面倒な本を押し付けられないように私は警戒する。とにかく薄い本狙いは諦めて、内容的に少しは興味が持てるものを探そう、と私は本棚を見上げる。

 信長が近づいてくる気配は感じていたが、それに対する警戒は完全に怠っていた。

「ひゃああっ」

 突然、背後から抱きすくめられ、彼の唇が首筋に触れるのを感じて私は悲鳴をあげた。

「もう良いよ、あとでゆっくり選びな。」
「あとで・・・って、ひゃぁっ」

 信長の手が太ももを撫でる。そして、もう片方の手がTシャツの下から潜り込んできた。すぐに太ももから足の間へと滑り込む手の感触にぞくりと背筋に電気が走る。思わず足を閉じてそれに抵抗すると、信長は少し苛立ったように自分の膝を私の足の間に割って差し込んでくる。そして、スカートの裾をめくれるだけめくり上げ、背後では下着がすっかり露わになっているのが分かった。

「・・・っ、やだっ・・・イヤぁ・・・っ」

 書斎の扉が開いていることを感じていた。そして、ここの前の廊下は、奥に何かの倉庫があるらしく、いろんな用事で使用人が行き交うことを私は知っていた。

 信長は無言だ。後ろを振り向く余裕もないから、やつがどんな表情をしているかすら分からない。

 レポート提出が終わったら、どうせ、抱かれるんだろうとは思っていたけど、こんなところじゃ、イヤだぁ!
 私は、あんたみたいに変態じゃないんだから、人並みの羞恥心とか常識とかあるんだからっ

 だけど、逆らってもがいてみても、大した抵抗にはなっていない。
 身長差が大きくて、体格が違いすぎて、大人と赤ん坊みたいなんだもの。



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Horizon (レポート) 22 

Horizon(R-18)

 下着の中に無遠慮に入り込んできた彼の手は、私の足の間、茂みの中を丁寧に弄んでいく。

「あぁあっ・・・く・・・っ、いやあぁっ、やだっ、信長・・・っ」

 二本の指先で器用に敏感な部分をつまみ、蜜の流れ出る奥をゆっくりとかき回す。ふっと胸に空気を感じ、ブラジャーを外されたことを知った途端、乳首をつままれ、くりくりと手の中でこねられる。

「やっ・・・ダメ・・・、あ、あぁ・・・ああぁっ」

 漏れ出る声はもう止められない。執拗に責められる身体はもう疼いて熱くほてってくる。太ももを伝って蜜がとろとろと溢れ出していることを感じ、彼の指が動く度に、そこがいやらしく水音を立てているのがはっきりと聞こえた。かああっと頬が火照るのが分かる。次第に、頭がぼうっと白く霞んできた。

「そこに両手をついて。」

 信長が、耳元に熱い息遣いでささやく。

 書斎の真ん中には大きな丸いテーブルが置いてあって、彼は私の手をそこへ誘導する。もう、何も考えられなくなっていた私は素直に従うしかない。身体の中は熱くて熱くて、全身はがくがくと震え出していた。するりと下着を外され、机に手をついて腰を突き出し、両足を開かされて私は羞恥に震える。だけど、それよりももっと強い官能の波に、抗う術はなかった。

 不意に、信長が後ろから押し入ってくる。

「あうぅっ・・・あ、ああっ」

 奇妙な感覚だったが、突き入れられるその熱さに私の身体はのけぞって悦びを訴える。
 ケモノの交尾のようだ、とどこかで思う。

 信長の手が私の腰を抱き、引き寄せて穴の入り口と棒の付け根を密着させる。深く挿入され、ぴったりと肉と肉が触れ合うのが分かる。そして、押し出されるように熱い液体が溢れて太ももの間を流れ落ちるのが感じられた。

「ん・・・っ、んんんっ・・・」

 声にならない喘ぎが口から漏れ、中途半端にじらされ続ける身体はただただ敏感になっていた。

「気持ち良いかい?鴻子?」
「・・・あ、ああぁっ・・・、い・・・良いですっ」

 もう、言ったら負けの気がするが、結局、こいつにはどうしたって逆らえない。

「もっと、気持ちよくなりたい?」
「・・・なりたい・・・お願い・・・します・・・っ」

 散々じらして私の胸を揉んでいた手が、再度腰に据えられた。そして、信長はすぐに激しく腰を動かし始める。手を使って私の腰を引き寄せるので、普通に抱かれるよりも勢いが増し、更に奥深く突き刺さるような気がする。
肉のぶつかり合う音が響き、きっと廊下にも聞こえているだろうと片隅で思ったが、もう、どうでも良かった。

「あ、あ、ああっ、あ、あ、あ・・・っ」

 彼の動きに合わせてリズムを刻み、私は壊れた楽器のように同じ旋律を奏で続ける。真っ白い閃光が頭を突き抜けて、がくがくと身体は震えたが、彼の責めは止まない。腕から力が抜けて崩れそうになっても、髪の毛を後ろから引っ張られる。

「あぁあぁぁぁっ」

 悲鳴のようなかすれた声が、喉の奥から絞り出される。

 何度も絶頂を迎え、もう、足が震えて身体を支えられなくなる頃、やっと彼はどくんどくんと私の中ではねた。そして、まだ彼を私の中に突き刺したまま、完全に力が抜けた私の背をあいつ自身、身体を折り曲げてぎゅうっと抱いた。どろりと熱いものが足の間に流れ落ちたのを感じたとき、微かに思った。

 いつから、信長は、私の中に直接、精液を放出するようになったっけ?
 避妊するのをやめたのは何故・・・?
 子どもが出来てしまったら、もう、放り出されるのだろうか。

 何故、そんな風に思ったのか分からない。だけど、そのとき私の中に、彼の子どもを生むという図は見当たらなかったのだ。

 意識は大分朦朧としていても、彼のキスに応える余裕はあったようだ。

 抱き上げられ、彼の舌が唇を割って入り込んでくるのを、そのまま受け入れた。まだ身体の奥が熱い。その熱が思考を奪う。ただ、彼の愛撫に応える。



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Horizon (レポート) 23 

Horizon(R-18)

 ベッドに運ばれ、すっかり衣服を外され、信長の大きな腕に捕えられた。

 手の平が頬を撫で、唇が首筋を這うのをぼんやりと感じる。乳首に舌が触れると、ぴくりと身体は反応する。熱い息が身体を包む。どこもかしこも、信長の息遣いを感じ、彼が全身に丁寧に愛撫の跡を刻んでいることが分かった。

 ただ、それを目を閉じて感じているうちに、不意に信長の顔が私を覗き込んでいることに気付いた。目を開けて間近に彼の顔を見て、その瞳の熱さに、わけも分からず心臓が鳴った。

 信長は何も言わない。少し下へずれたかと思うと、私の両足を抱えて、再度中へ入ってくる。

「あ・・・・あっ」

 声が漏れた。ゆっくりと最後まで到達すると、信長は足を抱えていた手を離し、私の顔の両脇に肘をつく。そして、目を閉じて唇を合わせてきた。少し乾いていた私の上下の唇を舐め、舌はゆっくりと中に入ってくる。それと共に喉の奥に甘い熱い液が流れ込んできて、同時に熱く溶けた下半身から更に蜜が湧き出てくるのが分かる。
 どうして、こんなに優しく抱くのだろう?

 次第に霞がかかってくる頭で、必死に言葉を綴る。
 なんだか、身体がどろどろに溶けて、信長の中に交じり合ってしまうような気がする・・・。
 錯覚、かなあ・・・?

 信長の手が、腰を抱く。

 少しずつ彼の腰が動き始め、その度に私の中の愛蜜が音を立てる。合わさっている部分が溶けてべとべとだった。揺らされながら、信長の舌の動きを感じる。舌先が踊るように口中を舐める。捕らわれた舌が吸われる。吐息が漏れて鼻からくふん、と抜け、頭の芯が痺れてくる。

 海に抱かれているような気がした。
 波間に揺れながら漂っている?
 熱い波が身体を洗い、どこまでもさらっていく。

 胸をくすぐる海の泡、子宮へ続く深い闇の中を泳ぐ活きの良い魚、入口の先端をつつくのは綺麗なうろこを光らせた無数の小さな熱帯魚。

 そこから熱い潮流が頭上へと突き抜けていく。
 ああ、真っ白な光に包まれて、海の中に抱かれる。

 それを感じたのが最後だった。まだ身体は熱く応え続けているのに、私の意識は深い海の底の闇に堕ちていった。




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Horizon (レポート) 24 

Horizon(R-18)

 ふと目を開けると、信長の顔が間近にあってぎょっとする。

「・・・仕事、行かないの?」

 ささやくような声にしかならないけど、これはいつものことなので、特に何とも思わない。

「なんで、こんな夜中に?」

 目を閉じたまま、彼は答える。

 私が目覚めたときって、大抵翌朝になっていて、信長は出勤の支度をしていることが多かったから、今ももう朝のような気がしていたのだ。

「・・・夜中なんだ。」

 寝返りをうとうとしてもぞもぞしていると、彼の腕が不意に私の身体をぎゅっと抱く。

「うるさいよ、お前。少し大人しく寝てろ。」

 こいつは恐らく、今、ベッドに入ったばかりで眠いんだろう。
 でも私はもうかなり眠ったから、眠気はそれほどない。
 むしろ、お腹が空いていた。

「・・・私、お腹空いたんだけど。」

 すうすうと子どものような顔で眠りに落ちそうな信長の寝息を聞きながら、私は言ってみる。
 どうして、わざわざ怒られるようなことをするのか、私もバカだなあ、とは思うけど。
 案の定、ひどく不機嫌な声で、やつは言う。

「うるさい。もう朝まで我慢しろ。」

 やっぱりね・・・。

 信長の髪のシャンプーの匂いを嗅ぎながら、自分ばっかりシャワー浴びてずるい、とか思っている内に、私も次第に眠くなってきた。

 人の肌って安心するんだなぁ・・・。

 親に抱かれた覚えのない私には、信長は、そういうすべてのものなのだろう。
 抱きしめて守ってくれる手、食事を与えて命をつないでくれる保護者、そして私を支配するもの。

 とろとろとまどろみに抱かれて、私は目を閉じる。
 あっという間に眠りの波がさらっていく。
 とりあえず、この腕の中にいれば安心だと、私には分かっていた。
 そう。いろいろな意味で。



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Horizon (レポート2) 25 

Horizon(R-18)

「鴻子、しっかり動けよ。」

 後ろから、ぐい、と私の髪の毛を引っ張って、信長は冷たく言う。
 痛いっ、てば!そう気軽に髪を引っ張らないでよ!

 とかいう状況ではなく・・・。

「だ・・・だって・・・」

 その翌週の週末、大分仕事が忙しかったらしい信長は、夕方に帰ってきて、早々に私を呼び出した。
 レポート!と言われるのは分かっていたので、私はそれだけは今回は必死に仕上げて待っていたのだが。

 帰るなりシャワーを浴びて部屋着に着替えたやつは、私を呼び出してレポートを受け取った途端、すぐに私の服を脱がす。諦めてはいたけど、ちょっと、イヤだと抵抗してみたら、ふうん、と彼は不穏な笑顔で私を見据える。

「じゃあ、自分で脱いで、ついでにシャワー浴びてきな。」
「・・・なんでよ。」
「一緒に浴びたきゃ、もう一回俺は浴びても良いけど?」

 そんなことになったら、シャワーの最中に犯されるに決まってる。
 私はしぶしぶ彼の部屋のバスルームに消える。

 私がシャワーを浴びている最中に、やつは真面目にレポートに目を通していた。また、なんだかんだ言われるんだろうとげんなりしながら脱いだ服を探したが、・・・まぁ、そうだろうとは思ったけど、置いたはずの場所にはバスタオルしかなかった。

 バスルームから出て行くと、信長はもうベッドに半分身体を横たえて、思案顔でまだ私のレポートを手にしている。

「こっち、おいで、鴻子。」

 タオルを巻いたまま、私は裸足でぺたぺたとベッドへ向かう。

「・・・何か、不満?」
「レポート?ああ、今、講評してやるから俺の上に乗れ。」
「はあ?」

 何を言われているのか一瞬分からずに茫然としていると、信長は、私の手を引いてベッドにあげ、タオルを剥ぎ取る。

「騎乗位で、俺の上に乗れって言ってるんだよ。」
「ええ???」

 っていうか、それ、・・・私、嫌いなんですけど。

「ああ、まだ濡れてないか。」

 私の沈黙を絶対に勘違いして、やつはレポートを脇に置くと、壁に背を預けて私の腰を抱いて引き寄せる。


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Horizon (レポート2) 26 

Horizon(R-18)

「あ・・・っ、ちょっとっ」

 よろける私を器用に支えて、信長は、私の足を片方を持ち上げて、そしてちょうど彼の顔の前に私の足の間が来るように、更にぐい、と引き寄せる。何をしようとしているのか分かって、私はさすがにかあっと赤くなる。

「やだっ・・・」

 彼の頭を押し戻そうとその柔らかい髪に触れて力を込めるが、指で茂みを押し広げてやつの舌が私の前の豆粒に触れた途端、びくん、と身体はのけぞる。

「あっ」

 あっという間に彼の唇に挟まれてそこが吸われる。ひゃあぁっ、と悲鳴が漏れ、身体は痙攣する。
 その間、舌は更に奥へと侵入している。てらてらと舐められて背中は何度もはねる。

「やだ、やだぁ・・・っ」

 どうして、こいつは私が一番感じる部分を絶妙に捕えるんだろう。
 そして、絶対にイカせない程度の刺激に抑えて、ただ弄んでいる。官能のうねりが高まってきて、イキそうになると、直前ですうっと引く。

 絶対っ・・・性格悪いっ・・・

「あぁ・・・っ、・・・いやぁ・・・」

 不意に、信長は捕えていた私の足を離して、ふらついた私を抱きとめた。

「やだ、じゃないよ、鴻子。何がいやなのさ。」

 私の秘部を舐めた信長の唇は私の蜜で濡れている。蛍光灯に照らされて光るその見慣れた彼の形の良い唇を目の前にしたら、私の身体はかああっと勝手に熱を帯びた。

 それが分かったのだろう。やつは不敵な笑みを浮かべて私の頭をぐい、とその手に抱え、私の口に舌を滑り込ませる。

「んっ・・・んふぅっ・・・」

 散々やつの舌で弄ばれて、私の身体はもう堪え切れないくらい疼いて震えてくる。
 唇を離して、陥落寸前の私を眺めたあと、信長は、ほら、と言って私の身体を抱え上げて自分の身体をまたがせる。

「ちゃんと自分で入れな。」

 信長に背を向ける形で、私はもう何か考えるどころではなく、猛々しくいきり立っている彼を手でそっと捕えて自分の中に導く。

「あ・・・っ、くうぅ・・・」

 足がふらふらで、そのつもりがなくても、すとんと彼のものが奥深くへ突き刺さる。彼が膝を立てているので、私はそれに両手をあずけて息を整えた。

 信長は、平然と、再び手にしたレポートに視線を落としたようだ。
 そして、まったく動けないでいる私の髪の毛を掴んで命令するのだ。

「ほら、自分でちゃんと動きな。」

 そんなことを言われても、・・・無理っ・・・
 腕にも足にも力が入らなくて、私はふらふらと少し腰を浮かす。

 ずるり、という感じで自分の中で蠢く異物感。熱く火照った膣の中はとろとろと何かが溶け出すように熱い液が滲みだしている。

 自分で動いているからって、その、のけぞるような快感が消えるわけじゃない。
 少しでも動く度に声が漏れ、背中を電流が走る。
 その日も、途中でじれた信長は、私の腰を支えて勝手に上下させ始める。

「きゃあぁっ・・・あ、あぁっ・・・いやぁぁっ」

 あっという間に絶頂を迎え、私は一瞬硬直して、そのまま崩れ落ちた。
 信長の膝にしがみつくようにもたれてぜいぜいと息をするのを、やつはにやにや見ているんだろう。

 私がイッても、彼はまだ私の中で固く膨張したままだ。どちらかが少しでも体位をずらすと、敏感になっている私の身体は、一瞬で白い閃光を頭上へ走らせる。

「まあ、今回は比較的よくまとまってるよ。頑張ったね。」

 背後から聞こえる信長の声が、何を言っているのか理解するのに数秒を要した。
 もう、何か答えるのも面倒で、私はただ小さく頷く。

「もう少し、筋肉つけないとダメだな、お前。」

 それも、何を言われているのかよく分からない。 
 信長は、身体を起こして、ぐったりしている私の身体を抱え上げ、自身を引き抜いた。

「さて。今週の宿題は合格したから、来月、ご褒美をあげるよ。」

 もう、あんまり思考は機能していなくて、そういう言葉にも私は特に反応出来ずにいた。

 それでも、彼も別に気にする風もなく、私の身体を抱いたまま、ゆっくりとベッドに横たわる。そして、何度か深いキスをして私の最後の理性を奪ったあと、両足を開かせてベッドに押し付ける。

「あ・・・あっ・・・もう・・・やだ・・・」

 うわ言のような私の言葉なんかもちろん聞いてなくて、信長は難なく私を再び貫き、最奥へ到達するとしばらくは動かずに私の胸や喉もとの弱い部分を責め、私を鳴かせて弄ぶ。

 結局、なんだかんだと、そうやって延々と夕食の時間まで私は信長の腕の中で好きにされていた。
 やつは予め、夕食の時間を指定していたんだろう。
 どう考えても、呼びに来たのは、いつもよりずっと遅い時間だったのだから。
 夕食の支度が出来ました、と言われて、やっと、信長は私を解放した。




 もう、私は夕食どころではなかったのは言うまでもない・・・。



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Horizon (レポート2) 27 

Horizon(R-18)

 タメ口で軽口をたたいてはいるが、私は信長をバカにしている訳でも、自分と対等だと思っているわけでもない。ただ、そういう・・・敬語とか丁寧語の使い方を知らないだけだ。

 そして、本心を言えば、私は信長が怖い。
 誰かを怖いと感じたことなんて初めてだと思う。

 捕まって陵辱されたとき、私はあいつらを怖いとは思わなかった。ただ、軽蔑し、憎み、呪った。
 だけど、信長は・・・違う。

 単純に、彼には体力的にも体格的にも男女の身体の差の違いでも、まったくかなわないこととか、彼の機嫌ひとつで私の運命が決まってしまう現状もそうだが、それも、実際ものすごく怖いけど、きっと本当に怖いのはそれではない。

 彼の腕の中で、自分を無くしていくことが・・・そして、彼の腕に狂い、何も分からなくなってしまう刹那が怖いのだと思う。それが刹那では済まなくなって、もう、自分というものが、いつか消えてしまいそうな気がして。彼なくしては生きていけなくなる日がくるような気がして・・・。



 
 信長に拾われて、もうすぐ一年になる。

 昨年の夏の終わりに私は施設を出た。そしてその日の内にやつらに捕まって、その一週間後に信長に買いとられた。

 そして、今年、今はもう夏に差し掛かるところだ。
 いつまで、こんな生活が続くのか正直、分からない。



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Horizon (コロシの依頼) 28 

Horizon(R-18)

 その日、信長は比較的早く帰ってきて、昼食を一緒に取っていた。
 そのとき、私はふと思い立って聞いてみる。

「・・・信長、ここで他の女の人と暮らしたことはないの?」

 彼は、一瞬箸を止めて、私を見つめた。

 ダイニングのテーブルは来客用の方でもなければ、それほど広くはない。恐らく人数の多い一般家庭のものと変わらないのではないかと思う。

 深い茶の木製のテーブルで、そこに個別の洒落たランチマットを敷き、その上にディッシュを並べて食事をする。

「その質問、他の誰かにした?」
「え?なんで?」

 あんたのことを他の人間に聞くわけないじゃん?
 私の表情が間抜けだったのか、やつはくすくす笑う。

「やっぱりお前は、そういうやつだな。」
「そういうやつって何よ。」

 バカにしてんの?と私はムッとする。

「俺に隠れてこそこそしないってことだよ。褒めてるんだよ。」

 目を細める信長に、私は、それでも何を言われているのかさっぱり分からなかった。

「質問に答えると、あるよ。もう、人数なんて覚えてないくらいね。」

 そうだろうとは思っても、本人の口から聞くと意外にショックだった。ショックを受けている自分にちょっと驚いて、なんでそんなに衝撃を受けるのか自己分析も出来ずにいた。

「でも、まあ・・・一週間持った相手なんていなかったね。短いやつは数時間でさよならだったし。」
「・・・へ?」

 私は、完全に箸が止まって信長の顔をまじまじと見つめる。

「何、それ?」
「一回やって、相性合わないな、ってことで終わった女もけっこういたからね。」

 茫然とする私には構わず彼は続ける。

「要は、媚びたり依存したり、とにかく従順な女には興味がない。一度きりの相手でも俺はあまり好かない。自分をしっかり持って、お前みたいに多少口答えするようなおもしろいやつじゃないとね。」
「・・・その人たちはどうしたの?」
「どうもしないよ。それぞれ、元いた世界にお帰りになっていただいただけだよ。」

 信長の目がきらりと光る。

「元々商売女だったやつはそのまま。ときにはナンパしてきた普通のお嬢さんもいたし?買った女は売った場所にね。」

 最後の台詞を聞いて、私はぞっとした。
 では、私の捨て場は決まったようなもんなの?
 私は、箸を置いて、俯いた。

「あの・・・お願いがあるんだけど。」
「何?」
「私に飽きて、もう要らないと思ったら・・・。」

 私はごくり、と唾を飲み込んで彼を見つめた。

「あそこにだけは棄てないでくれる?」

 一生懸命押さえてたつもりだったが、どうしても声が震えるのだけは止められなかった。
 ふうん?といつもの冷めた目で私を見て、やつは聞く。



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Horizon (コロシの依頼) 29 

Horizon(R-18)

「自由にして欲しいって?」
「・・・それは、無理・・・でしょ。」

 私は言った。

「よく分かってるね。」

 信長は目を細める。
 それに、私自身、それを望んでいるのか・・・実はよく分からない。

「じゃあ、他にどうして欲しい?」
「殺してちょうだい。」

 周りの空気が一瞬、固まった気がした。そばには幸甚さんがいたし、他にも何人かの家政婦さんたちが周りに待機しているのだ。だけど、私は構わず続けた。

「信長の手で、殺してちょうだい。」

 それは割に合わないなぁ、と彼はにやりとする。

「要らなくなった女を棄てるのに、犯罪の汚名を着るなんてね。」
「だって、いるでしょ?死亡診断書を書いてくれる知り合いの医者の一人や二人。」
「まぁね。」
「じゃ、お願いよ。」

 私は必死に懇願する。
 だけど、彼の冷ややかな目は変わらない。ただ淡々と食事を続けている。

「・・・じゃあ、良い。私はどんなことをしても、自分で死ぬから。」

 私が唇を噛み締めると、突然、信長はどん、とテーブルを叩く。
 びくっと身体を強張らせて私は彼の顔を見つめる。

「それは許さないよ、鴻子。」

 彼の目は怪しい光を帯びていた。

「お前は俺のものだ。例えお前自身でもお前の命に触れることは許さない。」

 言われた意味を理解するのに一瞬間が空いた。
 そして、理解する。
 そうか。信長にとっては、それも裏切りになるのだ、と。
 うなだれる私に、信長は怪しい光を湛えたままの瞳で微笑んだ。

「良いよ、鴻子。間違いなく俺がお前を殺してやろう。その代わり、俺の目の前から無断で消えるような真似は許さない。」

 私は、青ざめた顔のまま、彼を見つめた。

 死刑宣告を受けたようなものだったのに、私は何故か安堵した。心から良かった、と思ったのだ。あそこに戻されるくらいなら、他にどうなったって構わない。

「ありがとう・・・。」

 お礼を言う私を信長は笑った。

「バカか、お前。しかも、そんな話し、こんなところですることか?」
「だって・・・」

 私はちょっとため息混じりに言った。

「部屋にも戻ったら、マトモな話しなんて出来ないじゃない。」
「それもそうだな。お前はベッドの上であられもない姿をしてヒイヒイ喘いでいるだけだもんな。」

 ニヤニヤと笑う信長の言葉に私は思わず、今までの会話なんて吹っ飛んで、真っ赤になって立ち上がる。

「だっ・・・誰のせいだと思ってるのっ」

 椅子がガタンと倒れ、辺りはしーんとなった。
 私ははっとして、ものすごい冷ややかな白けた空間を作ってしまったかと、そっと周囲を見回した。

 だけど、私の椅子を直してくれている幸甚さんは、どうも笑いを噛み殺しているようだし、一番若い家政婦さんは、明らかに頬を染めて視線が泳いでいる。

 私は、あれ?と思った。
 もしかして、信長って、この家ではけっこう愛されてるのかな、と。

 なんで今そんなことを考えて、それにほっとしているのか分からない。
 なのに、私はそう感じた途端、なんだか身体の緊張がふうっと抜けた気がした。

「いつまでもぼうっと立ってないで、さっさと座って食べな。」

 信長が何事もなかったかのように言い、私もなんだか恥ずかしくなって、はい、と素直に座ってしまった。

「つまりお前は俺のそばにいたいってこと?」
「・・・なんで、そういう解釈になるの?」
「じゃあ、どう解釈したら良いのさ?」

 見つめられて、私は、ちょっと考えた。考えてはみたが、うまくいろんなことがまとまらず、そして、何故か突き詰めたくなくて、すぐに諦める。

「・・・分かんない。」

 ふうん、と相変わらず、信長はにやにやしたままだった。



ジャンル:[小説・文学] テーマ:[現代小説
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