業火 ~fell fire~(Rewrite編)(R-18)

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業火 ~fell fire~ (作品説明というより、言い訳?) 

業火 ~fell fire~(Rewrite編)(R-18)

以前に描いたこれ。
単なるエロ小説で終わってしまったので、本来、描きたかったテーマをはたと思い出し、これを描き切らないと死んでも死にきれないかもしれない…
なんつーことはないが、まぁ、また描いてしまったんです。

皆さん、お元気かなぁ…??

まぁ、良いや。細々とやってみます。

ではでは~♪
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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[恋愛:エロス:官能小説
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業火 再会 1 

業火 ~fell fire~(Rewrite編)(R-18)

 葵(あおい)が、幼い頃に生き別れた双子の弟、基(もとい)に再会したのは、もうすぐ高校を卒業するという冬の初めのことだった。

 ごく幼い頃に両親が離婚し、双子はそれぞれの親に引き取られ、葵は弟がいることすら知らずに今まできた。どちらの両親も再婚して、葵には妹が出来ていたが、父親の方はそれ以降子どもを作らなかったらしい。

 今頃になって何故、双子が再会することになったのか。

 基の親が、子どもを置いて海外へ転勤となり、1年で戻ってくるという。高校は日本で卒業したいという息子の強い希望のため、彼の両親は、かつて別れた双子の片割れの家に預けることを決めたのだ。

 葵の母親にとっては自分の実の息子である。そして、再婚相手の父親も、特に異論は唱えなかった。



「やあ、はじめまして、かな。姉さん」

 双子とはいえ、男女の双子は普通の姉弟と同じだ。顔立ちも性格もあまり似ていないようだった。基は剣道と空手を部活動としてこなし、筋肉質で背が高く、見た目はすらりとしている。顔は、父親似で面長だ。そして、葵はふとその瞳に宿る光に恐怖を抱いた。同じ血を分けた弟なのに、おっとりした葵とは対照的に、彼の空気はぴりぴりと研ぎ澄まされていて、どこかぞっとするような光をまとっているように感じられた。

 葵は母親に体格も似て、身長は低い方だ。身体の線が細く華奢で、顔の輪郭は柔らかく丸い。髪の毛も真っ黒で艶やかな基とは対照的に少し茶色がかっていてふわふわしている。そして、それは2歳下の妹の由美も同じだ。しかし、彼女は少し父親の血が濃いのか、ほんの少し葵よりも大人っぽく、背も幾分高い。

「あ、葵です」

 葵が慌てて差し出された手をそっと握り返すと、意外にも基の指は細かった。

「はじめまして」由美も半分だけ血のつながった兄に、屈託なく微笑む。
「1年限定の兄です。よろしく」
「あら、一緒に住むのは1年でも、兄妹であるのは変わらないでしょ?」

 由美はふふふ、と楽しそうに笑う。人見知りをしない彼女はすぐに基と打ち解けてしまったようだ。基と由美が他愛ない話を始めたそばで、葵は弟を包む冷たい空気にどこか怯えたまま固まっていた。
 


 その日、一人で荷物を持って電車を乗り継いでやってきた初めて会う弟は、道々近所の人から注目を集めていた。それほど都会ではない周囲なので、近所づきあいがある程度あって、生き別れた双子が再会するという噂はいつの間にか広まっていたようだ。

 そして、やってきた男の子の、葵とはまったく違った容姿に、その爽やかでクールな空気に葵の同級生たちや妹の幼なじみが色めき立っていたのだ。

 どこか華やかな空気を持っている妹と違って、葵はどちらかというと地味で目立たない女の子だ。男女交際の経験もないし、友人も似たようなタイプなので色恋沙汰にそれほど関心を抱かずに今まで来ていた。

 弟が一緒に暮らすことになったと聞いても、それに対して、驚きはしてもそれ以上の何も思わなかった。



業火 再会 2 

業火 ~fell fire~(Rewrite編)(R-18)

 二階にある3部屋を、3人の子ども達に使わせようと、それまで使っていた寝室を空けて、両親は一階の客間へ移った。階段を上って手前から由美、葵、そして廊下を挟んで向かい側の両親の使っていた部屋が当分の間、基が使うことになった。

「姉さん、俺のこと知ってた?」

 夕食を終えて部屋に戻るとき、階段の途中で基は振り返って葵を見下ろした。それでなくても背の高い基を、葵は思い切り見上げて小さく首を振る。葵の母は、今回のことがなければ、きっと彼女に実は双子の弟がいるのだとすら、話す気はなかったのではないだろうか。

 それは、母親が隠していた、というよりは、話す機会がなかったからという感じで、今回、基をしばらく預かることになった、という事態になって、突然、打ちあけられた話だった。

 由美は夕飯の後片付けを手伝って階下に残っていて、受験生の二人は先に部屋に戻って来たのだ。

「へえ、そうなんだ。俺はずっと知ってたよ。会えるのをずっと楽しみにしていた、…ずっとね」

 階段を上りきって、基はにこりと姉を見下ろす。

「会いたかったよ、姉さん」
「あ、そ―そう、なの?」

 葵は弟に間近でじっと見つめられ、思わずどぎまぎして視線を泳がせた。いくら弟だと言われても、引き離されたのが生まれてほんの数ヶ月の頃だったそうだから、二人にお互いの記憶などないはずだった。何故、基は自分を知っているのだろう?

「君の、って、ああ、そうか。俺の母でもあるんだよね。お母さんがずっと君の写真を送り続けてくれていたからね。父親ってのはそういうことをマメにしないから、きっと君の方では俺の写真なんてほとんどないんだろう。俺は、ずっと姉さんの成長を見つめてきたよ。小学校の入学、卒業、中学校の入学、高校入学」

 基は、俯いたままの姉の顎にくい、と指を掛けて上を向かせる。

「これは、俺の女だって、決めてた」
「は?」

 なんだか恥ずかしくて顔を上げられずにいた葵は、弟の言動に、一瞬、頭が真っ白になった。

「な」何、言ってるの?と言おうとした途端、不意に唇をふさがれた。
「んっ、んんっ」

 驚いて暴れると、基はすぐに彼女を離した。

「なっ、何するのっ?」

 真っ赤になってうろたえる姉をくすりと見下ろし、基はからかうような口調で言った。

「姉さん、もしかして、キスもまだ未経験? じゃ、まだ処女なの?」
「な…なななっ何言うのよっ」
「じゃ、俺が一から教えてあげるから、今夜、俺の部屋においで?」

 軽い口調で、基はにやりと微笑む。

「バカなこと、言わないでっ」

 冗談だろうとは思っても、葵は頬の熱がますます上がって声が上擦ってしまう。その様子を見下ろして基はくすくす笑いながら自室の扉を開けて消えていった。



業火 再会 3 

業火 ~fell fire~(Rewrite編)(R-18)

 しかし、葵はまさか弟の言葉が本気だったとは当然考えの及ばないことだった。

 基は隣町の高校まで、葵の家からバスで通うことになっていた。しかし、その日は金曜日。葵と基はもう部活動も引退していたので、週末は受験勉強くらいしかすることはない。それも、葵はエスカレーター式の短大の入学はほぼ決まっていたし、基も、受験する大学は安全圏らしかった。

 入浴を済ませ、パジャマに着替えてくつろいでいるとき、こんこんとドアをノックされ、葵は返事をして扉を開ける。

「姉さん、ちょっと来てくれる?」

 そこには基が立っていた。やはり同じように、もうパジャマに着替えている。その誘い方は特に意味がありそうではなくて、何か家の中のことで分からないことがある、という感じだったので、葵は特に警戒もせずに弟に従った。

 基が使っている部屋はもともと両親が使っていたので、葵は特に違和感を抱くことなく誘い込まれる。

「どうしたの?」

 弟の抱く空気には、やはりどこか冷たいものを感じる。それはまるで敵意という域に達している気がする。それなのに、妹も両親もまったく彼のその空気には気付いた素振りはない。

 何故だろう? 双子だから感じる?

 もしかして、自分にも、何か共通するものがあるのだろうか? と葵は思わず目を凝らして弟を見つめてしまった。

「俺の顔に何かついてるの?」
「え? あ、ごめんなさい」

 慌ててどぎまぎと俯く葵の背後にすっとまわって、基は扉を閉め、そして、唯一この部屋にだけついている鍵をかちゃりと閉めた。

「え?」

 その音に驚いて振り向いた葵は、何かを考える前に、ひょい、という感じに抱きかかえあげられ、次の瞬間にはどさりとベッドの上に放り投げられた。

「ひゃっ! な…何っ」

 小さく悲鳴をあげた葵の口を片手でふさぎ、基はもう片方の手で、喉を締め上げるように彼女の身体を仰向けに固定した。一瞬、何が起こったのか分からず、葵は声を無くして間近に見下ろす弟の冷たい目を見上げる。

「んんっ」

 ふざけないでよ、と叫ぼうとして、葵は喉元を押さえ込んでいる弟の手を外そうともがいてみるが、その手はびくともしない。それどころか、思わずバタつかせようとした足も、いつの間にか基が組み伏せるようにのしかかっていて、下半身に自由がまったくなかった。

 初めて、男、というものを感じた気がした。力ではまったくかなわない存在。どれだけ暴れても決して逃げられない相手。

 何も言わずに葵をじっと見下ろす弟の瞳に、彼女は瞬間、ぞうっと背筋に冷たいものが走る。

「大きな声を出さないって約束するなら、離してあげるよ。実際、こんなところ、葵だって誰にも見られたくはないだろ?」

 静かな声で基は淡々と言い、葵は、恐怖に駆られて訳も分からずにこくこく頷いた。
 くすり、と基は笑う。

「じゃあ、俺のものになる覚悟は出来たんだね?」

 葵は、その言葉に凍り付いて言葉をなくす。すっと口をふさいでいた手を外されても、しばらく、彼女は頭が真っ白だった。

「ね、ねぇ、な―に、言ってるの?」
「その言葉通りだよ。言っただろ?俺は、ずっと、葵を手に入れるつもりだったんだって」

 葵、といつの間にか基は名前を呼んでいた。姉さん、ではない。葵、と。

「バカなこと、―言わないで」思わず声が震える。弟の瞳に、きらりと何か怪しい光が過ぎった。
「やっ」

 反射的にもがいて逃れようとした瞬間、ぐい、と髪の毛をつかまれ、唇をふさがれた。弾力のある熱い唇が押し付けられ、そして、葵の唇を割って舌が押し入れられてくる。

「っ!」

 べろり、と舌の裏を舐められ、葵は驚いて声が小さく漏れた。すぐに葵の舌は捕らわれ、男の口の中に吸い上げられてまるで飴玉をしゃぶるように舐められる。更に、口中を舐めまわされ、隅々まで犯される。

「ん、ぅ、ぅぅっ」

 髪の毛をつかまれ、背後に腕をまわされているので、葵は身動きが取れない。それでも、両腕で必死に彼の身体の下から抜け出そうともがいた。

 腕の中の葵の抵抗など、まったく意に介することなく、基は執拗に口を犯し続ける。熱い唾液が交じり合って葵の口の端から流れ落ちる。基の巧みな舌先への刺激が、不意にざわりと葵の腰の辺りを熱くした。

 弟に組み伏せられて、良いようにされている…というあり得ない現実に、葵は必死に抵抗を示した。このまま黙っていては、弟の行為はどこまでもエスカレートしそうだった。それでも、大声をあげて助けを呼んだりしなかったのは、やはり、彼が「弟」であると、どこかで分かっていたからだろう。信じたかったのだ。

 やっと、唇を解放されて、葵は喘ぐように荒い呼吸を繰り返した。

「こ、こんなことっ」はあはあと肩で息をする。「血が繋がっているのに…双子なのに、絶対におかしいよ。許されることじゃないよっ」

 涙を浮かべる葵の顔を冷笑で見下ろしながら、基はつかんでいた髪の毛を離し、葵のパジャマの前ボタンを器用に外していく。はっとして、葵はその腕を掴んだが、太い男の腕は彼女の力では止められない。

「やめてっ、基っ…お願いっ」
「うるさいよ、葵。約束しただろ? 大声を出すんじゃないよ」

 彼はまったく躊躇することなくボタンを外し切り、驚いてまだ動けずにいる葵の背を抱き上げてするりと上半身を裸にする。パジャマの下には何も見につけていなかった葵は、声をあげる間もなかった。

 ぽろりと胸が表れ、ぷるんと震えた。それをじっと見下ろす基の視線に気付いて、葵はかあぁっと頬が火照る。

「ダ…ダメっ! もう、これ以上っ」

 恐怖と羞恥に葵は必死に胸をかばって、身を縮める。しかし、基は膝を抱えるように丸くなった葵の背後から、パジャマのズボンを引き剥がすように下ろし、悲鳴をあげようとした彼女の口を片手でふさぎながら、下着諸共するりと剥ぎ取ってベッドの下に放った。

 身体を覆うものをすべて奪われ、弟の前に素肌をさらしてしまった葵は、怯えて引きつった顔で彼を見上げた。

「お願い、やめて、基。こんなこと…ダメ。絶対、おかしいよっ」

 彼を怒らせないように、ささやくような声で、葵はまだ信じられない思いで弟を見つめる。

 冗談…だよね? 理解出来ない。実の姉弟なのに?
 すると、基はふっと甘い笑みを見せて言った。

「心配することはないよ、葵」

 ふわりと葵の横に身体を投げ出して、基は笑う。その言葉に、葵は今までの彼の言動が冗談だったのだとほっと安堵した。

「基、あの―」

 しかし、シッと唇に指を当てて彼は葵の言葉を遮る。そして、その後に続いた彼の言葉は彼女の身体を凍らせるのに十分だった。

「君が初めてなのは分かった。まだ誰にも穢されてないなんてゾクゾクするね」
「え」
「大丈夫、俺たちが血がつながっているとか、道徳的にどうとか。そんなこと考える余裕なんて、なくしてあげる。そうだね―」ぺロリと基は唇を舐める。「俺の身体が忘れられなくなるように、俺のセックスなしじゃいられなくなるようにしてあげるよ。もう、何も考えなくて済むようにね」

 言われた意味を理解することを、心が拒絶していた。

 これ以上ない極上の笑みで、彼は狂気を口にした。その瞳は澄んだ色を湛えているのに。その笑顔の面影は、どこか双子だと分かるくらいの類似性を抱いているのに。



業火 再会 4 

業火 ~fell fire~(Rewrite編)(R-18)

 声を出すな、と言われなくても、葵も家族に知られる訳にはいかないことを、誰よりも分かっていた。

 弟の執拗な愛撫に、声を漏らさないよう、葵は死に物狂いで耐える。まるで、全身を食べてしまおうというような、隅々までキスマークを刻む基の舌使いと手の動き。耳からうなじにかけて、首筋から鎖骨のライン、更に胸も太ももの内側も、基の唾液でべたべたになっていた。

「んんっ、くぅぅ…っ」

 涙が頬を伝い、呼吸は小刻みに浅く繰り返される。必死に声を押し殺そうとする切ない表情は、基の嗜虐心をますます煽る。散々散らされた胸の紅い花を再度色付かせながら、基は指で足の間の蕾をゆっくりと押し広げていく。

 何度か小刻みな痙攣が走っていた身体は、膣の奥から蜜をじわりと滴らせ始め、葵はもう、膝を閉じて抵抗しようという気力もなくなっていた。

「あれ? もう、こんなに濡れてるんだ。いやらしいね、葵の身体は」
「ぅ、そ―そんな、こと…っ」
「ほら、もう俺を迎える準備が出来ているよ?」

 くすくす笑いながら、基は乳首にかりっと軽く歯を立てる。
 びくん、と強い刺激が背筋に電流を走らせる。葵は背をのけ反らせて目を見開く。

「やっ、やめ―て。もう…許して」
「何、言ってるの?葵。こんなに淫乱な身体して」

 すうっと指が膣の入り口をなぞり、未知なる奥へ、指を滑り込ませる。

「あ―あっ」

 とろりと蜜が溢れて流れ落ちる。それを掬い取るように指に絡ませ、基はそのまま前へなぞりあげる。そして、先端の皮を押し広げて、敏感な小さな突起を押し出し、そこをくるくると指で刺激する。

 それまで感じたことのないような強い刺激が背筋を通って頭上へと突き抜ける。葵は、小さく悲鳴をあげた。

 胸を責めていた唇を離し、基は身体ごと葵の下半身へ移動する。そして、その両足を抱えあげるように持ち上げると、そのまま膝を折って、開脚させ、蕾を開いてそこを舐め始めた。

「あ…ぁぁっ、ぅ、くぅっ…や―め、てっ」

 声だけで必死に抵抗するが、もう、身体は言うことを聞かなくなっていた。腰から下が砕けたように力が入らず、じんじんと熱く波立っている。葵はそれでも、必死に理性を保とうと歯を喰いしばる。シーツを掴み、快感を逃そうと虚しい努力を続ける。

 口全体を使って、基は葵の秘部を舐めあげ、まだ何も受け入れたことのない穴の奥へ舌を差し入れる。次第に膨張してふくらんだクリを丁寧にしゃぶり、蜜をすする。

 次第に、身体ががくがくと痙攣してきて、腰から下にかああっと熱を感じる。そして、葵の意識を突き抜けて真っ白な閃光が頭上へ突き抜けた。

 背筋が硬直して、葵は一瞬何がなんだか分からなくなった。そして、一気に脱力して、身体の芯に熱さの余韻がをぼんやりと感じながら、はぁはぁと吐息を漏らす。

「気落ち良かった?」

 間近で声が聞こえ、葵が虚ろに視線を動かすと、基が彼女の顔を覗き込んでいたことが分かった。目を細めた基の笑顔は、だけど、どこか冷淡な光を湛える。

「今度は、俺の番だよ」

 何を言っているのか、葵には分からなかった。しかし、不意に足の間に押し当てられる熱いものを感じて、今度こそ、彼女は必死に身をよじった。

「ダメっ、基、お願いっ、それは、ダメ―!」

 基は答えない。そして、暴れる葵を押さえつけるでもなく、彼女の両足を抱えただけで、押し当てた自身をそのまま前進させて、一気に中へ押し入ってきた。それほど抵抗なくずるずると進んできた弟のイチモツに、そのリアルな感触と痛みに、葵は身体を硬直させた。

「あっ―ぁ、ぁぁ、あぁぁぁっ」

 一気に奥まで貫き、子宮の入り口に到達して基は一旦動きを止める。

「これで、やっとひとつに戻れたね、葵」

 抱えていた足を離し、基は、葵の上に覆いかぶさるように彼女の顔の横に肘をついてその顔を覗き込む。葵の両足は不安定に空(くう)に浮かんで、二人の接合部は密着して熱い汁が間を滴り落ちている。

 異物感とその違和感。痛みとその不道徳感に、葵の意識は逃げ場を探して彷徨った。

「い―や、基。ダメ…、お―願い、抜いて。やめて」

 かすれた声でうわ言のように葵は哀願する。涙が頬を一筋伝い、口の端から唾液が溢れて流れている。

「こんな―の、ダメ」

 くすり、と基は笑う。

「可愛いね、葵。でも、言っとくけど、もう遅いよ? それに、君の身体はこんなに俺を締め付けて喜んでいるよ」
「やっ、いやぁ…っ、そっ、そんなこと―な…くぅぅっ」

 半開きの唇を舐めるようにふさいで、再度、基は深いキスを与える。時々、腰を揺らしながら葵の舌をしゃぶり、しっかりと腰を抱き寄せる。何を考える間も与えず、抵抗の隙を与えず、じわじわと絶頂へと導いていく。

 無意識に、葵は基の腕にすがりつき、声を堪えて喘ぐ。
 その様子を余裕の表情で見下ろし、基は唇を離し、腰を動かし始めた。

 中で小刻みに前後し、くちゅくちゅと水音を響かせたかと思うと、ゆっくりと出口付近まで引いて、勢いをつけてたたき付けるように貫く。その勢いで、深いところまで突き刺さり、葵は堪えきれずに悲鳴をあげる。

 何度かそれを繰り返している内に、基のモノは最高潮に膨張し、今にもはちきれそうになる。彼も官能を堪えるのが辛くなってきた。すでに、何度か葵は中の基をぎゅうっと締め付けて絶頂に達していた。その度にびりびりと腰が痺れたようになり、葵は頭の芯がくらくらしていた。

 ぱんぱんと勢いをつけて往復を繰り返す基も、次第に息があがり、うっすらと額に汗が吹きだしてくる。
 声を殺して歯を喰いしばっている葵は、次第に思考が奪われ、意識が朦朧となってきた。

 何度、達しても終わらない波が再度やってきたとき、基も遂に耐え切れなくなる。根元がカッと熱を帯び、彼も小さく声を漏らした。

「俺も、…イクよ、葵…っ」

 最後に力強く打ち付けて腰をぎゅうっと抱くと、葵の身体は小さく痙攣し、基の放出を促すように膣壁が絡みつくように蠢いた。基は熱い白い液を葵の子宮目掛けてどくんどくんと脈打つように注入する。

 その途端、身体の奥に熱いものを感じて、葵は小さく首を振る。

「や…っ、いやぁぁ…中に…出さないで」

 朦朧としながらも葵が泣きながら弱々しく首を振るのもお構いなしに、彼女の腰をきつく抱き寄せたまま、基は長い放出を続ける。

 ダメ―! こんなの、絶対…ダメ。

 最後の一滴まで出し切って、基はやっと葵の身体を解放した。
 ずるり、という感じで基が出て行くと、葵の太ももの内側には熱い液が流れ落ちる。

 涙で濡れた頬を両手で包んで、基はその唇にそっとキスを落とした。そして身体を起こして息を整えながら彼はパジャマを羽織る。

「今夜は、初めてだっただろうからね、葵。これで許してやるよ。また、明日からゆっくり抱いてあげる」

 上から目線で言い渡され、葵は返す言葉も見つけられない。

「今日はもう部屋に戻って良いよ。さすがに朝、ここから出て行ったら怪しまれるからね」

 ふふ、と笑う基の顔を半分放心状態で葵は見上げた。
 身体はもうほとんど言うことを聞かなかった。

「手伝ってあげるからパジャマを着な」

 どうやって部屋に戻ったのか、いつ、眠ったのか、葵にはもう定かではなかった。



業火 再会 5 

業火 ~fell fire~(Rewrite編)(R-18)

 翌日、朝食の席で顔を合わせた基は、昨夜そんなことがあったなんて露ほども感じさせない普通の弟を演じて見せた。母は久しぶりに会った基に幸せそうな笑みを見せ、会えなかった時間を埋め合わせようとでもするように、基の好物を知りたがった。

「葵は煮物とか野菜料理ばっかり好きなんだけど、基はどうなの?」
「俺は、肉類好きですね」
「まぁ、やっぱり男の子はそうなのね。魚はどう?」
「好きですよ。俺、基本的にあまり好き嫌いないかも知れません。母さんが作ってくれるなら、何でも喜んでいただきますよ」

 食卓に笑いが溢れているのをどこか空寒い思いで葵は階段を下りてくる。歩く度に感じる破瓜の痛みに、葵は必死に耐えていた。母の嬉しそうな声と、父の笑顔、それを壊したくはなかった。

「どうしたの? 葵?」

 母親が娘の様子に気付いて声を掛ける。

「あ、ううん。なんでもない。なんか…ちょっと寝違えたみたいで痛くて―」

 葵は慌ててダイニングの椅子を引いて座る。父と母が並んで座り、こちら側は由美、葵、そして、端に基が座っていた。二人の中央にそっと座って、葵は笑ってみせる。

「寝違えた? 珍しいわね」
「お姉ちゃん、久しぶりに弟に再会して緊張して眠れなかったんじゃない?」

 由美の言葉に葵はぎくりと強張る。

「俺も、眠れなかったよ」

 基がちらりと葵に視線を投げる。

「緊張して、さ」
「え~、基兄さんがそんなタイプには見えないなぁ」

 由美の言葉に笑いが起こり、葵も引きつった笑顔を浮かべた。その後、由美は出かける予定があるらしく、そそくさと食事を済ませて席を立ち、いそいそと洗面所へ向かった。父親も日曜日以外は休みはない。すでにスーツ姿でコーヒーをすすっていた。

 基が淡々と食事を続ける気配がする。葵はなかなか箸が進まず、思わずぼんやりしてしまっていた。身体に残る違和感。身体中に刻まれた愛撫の痕。しかし、基は心得たもので、決して服の隙間から見えるような場所に痕跡を残してはいなかった。

「葵、大丈夫? 由美は友達と出かけるらしいし、私も今日は仕事があるのよ」

 心配そうに娘の顔を覗き込んだ母親に、葵は慌てて笑ってみせる。

「大丈夫よ。調子が変だな、と思ったら適当に薬、飲んでおくから」
「俺が面倒みてますよ」

 隣に座る基が爽やかに言い、葵はぎくり、と固まる。父親が席を立って出掛ける素振りを見せたので、そのとき母は葵の様子には気付かなかった。

「ああ、そうね。お願いするわ」

 父のネクタイを直すと、母は振り返って微笑んだ。

「たのもしい弟がいて良かったわ」



業火 姉弟 6 

業火 ~fell fire~(Rewrite編)(R-18)

 家族がすべて出かけ、母が最後に後片付けをして「じゃ、行ってくるわね」と玄関を出て行く後姿を見送ると、葵は不意に言いようのない不安に陥る。基は彼の部屋にいて今は姿が見えない。

 今の内に自分もどこかへ出かけよう、と葵は思った。

 身体の隅々にまでまだ昨夜の余韻が残っていて、弟のことを考えるだけで、身体の奥にきしむような痛みが走る。あれは、何だったんだろう? 自分の身体が自分のものではないような感覚。弟の腕の中で身体が勝手に反応し、熱く火照り、痙攣し、それまでに味わったことのない恍惚感に包まれたあの瞬間は。

 そして、基の唇の、舌先の熱い感触。身体の奥にねじ込まれた男というもの。
 あのときの基の目を思い出すと、葵はぞくりと背筋に震えが走った。そこに映っていたのは、紛れもない‘狂気’だった。

 そっと階段を上がり、自分の部屋に戻ると、葵は外出するための着替えを用意する。大急ぎで着替えを始めた途端、すっと扉が開いて基が姿を現す。

「きゃっ、なっ、何よっ? 勝手に―」

 下着姿だった葵は驚いて声を上げた。慌てて持っていた服で身体を隠す葵に、基は無表情で近づき、その手から今身につけようとしていたセーターを奪い取る。

「ほら、ね」踵を返した葵の腕を掴んで基は歪んだ笑みを浮かべた。「案の定、こそこそと出掛けるつもりだったんだろ?」
「わ―、私が休日に何をしようと勝手でしょ! それ、返してよ」
「何、言ってんの?」基は、葵の身体を捕らえてぐい、と後ろから髪を掴んで上を向かせる。そして、次の瞬間にはすとん、と表情が変わった。

「出かける話なんて聞いてないよ? 葵。それに、言っておいたよね? 今日は逃がさないよ」

 どん、と突き飛ばすように葵をベッドの上に倒し、驚いて声をあげる間もなかった彼女をあっという間に組み伏せる。

「俺としては、随分、手加減して大事にしてやったつもりだったんだけどね。君がそのつもりなら、今日はもう容赦しないよ」

 地の底から響くような、まるで感情のない声で、基は耳元にささやく。

「昨日、約束した通り、今日は一日俺の腕に狂わせてやるよ」
「勝手なこと、言わないで!」
「良いよ、今日はどれだけ声をあげても。どうせ、家にはもう誰もいない」
「そ…っ、外に聞こえるっ」
「多少聞こえたって、何をしているかなんて分からないっつうの!」
「や…っ、めて」

 むちゃくちゃに腕を振り回す葵の両腕を片手で押さえ込むと、基はそれを彼女の頭の上に固定する。

「お願いっ、こんなこと、ダメ!」
「うるさいよ」

 悲鳴のような葵の声に基は薄い笑いを浮かべる。

「ああ、もっと叫べよ、葵。そうやって暴れれば暴れるほど、俺は興奮するんだ」

 くくく、と歪んだ笑いを浮かべる基の目は、どう見ても、マトモな神経の人間の光ではなかった。

「も―、基?」
「そうだね、俺の名前をもっと呼べ」不意に首筋に唇を寄せ、基は耳たぶをべろりと舐める。「誰の腕に狂うのか、しっかり刻みつけておくんだよ」
「な―、なに、言ってるの?」葵は震える声で必死に言葉を紡ぐ。「基、待って。おかしいよ、こんなの。お願い、お願い、基!」

 葵の声は、言葉は、まったく彼には届いていないようだった。執拗に首筋に唇を這わせながら、ささやくように彼は言った。

「葵、君がどこまで正気を保てるのか、楽しみだね」

 信じられなかった。弟の口から出る言葉を。これは、本当に自分と血を分けた双子の弟なのだろうか? 本当に?
理解しようとすることを、理性が拒絶し、受け入れることを身体が拒絶していた。



 どのくらいの時間、悲鳴をあげ続け、喘ぎ続けたのか葵には分からなかった。
 朦朧とする意識の中、四つん這いになって背後から基を受け入れて声を上げ続けたことと、ぴったりと身体を合わせ、繋がった下半身もふさがれた口もどろどろに溶け切って思考すら形を成さなくなった感覚をぼんやりと覚えているだけだった。
 


業火 姉弟 7 

業火 ~fell fire~(Rewrite編)(R-18)

「良い声だ、葵。もっと鳴け」

 背後からしっかりと腰を支えられ、胸を掴まれ、耳元で悪魔がささやく。

「ぅ、ぁぁ、も―、許して。…っ、変に、なる―」
「好きなだけ狂えよ」基は甘い声色で耳に息を吹きかける。「壊してやるよ」

 何度イッても刺激は止まない。何度も硬直している背中が痛みに悲鳴をあげている。彼女の中に根元まですっぽり収まっている基のモノは、時間の経過と共に更に膨張している気配すらしていた。

「もっと俺に狂え、葵」

 背中にぴったりと寄り添っていた基は身体を起こして再度腰をしっかりと抱える。そして、ぎりぎりまで抜き出したモノを、基は勢い良く中へ向かって打ち付ける。

「ぁぁぁあっ」

 頭の中に閃光が走り、葵は身体の奥に痛みとも官能ともつかない鋭い刺激を受けてのけ反る。その途端、きゅううっと中を締められて、基は少し苦しそうに声を漏らしてそのまま奥で小刻みに前後した。

「気持ち良いんだろ? 葵?」

 息を弾ませたまま身体を折り曲げた基は、彼女の背中に覆いかぶさるようにその身体を抱いた。葵は小さく首を振る。

「良く―ない。良くなんか…」朦朧としたまま、葵は必死に抵抗を示す。
「良いって言えよ。葵。気持ち良いんだろ? 弟に抱かれて何度イッたのさ?」
「や…イヤ、やめ―て。もう、やめて」
「気持ち良いって言え、葵」

 ぐい、と身体を更に奥へ押し付けられて、葵は声をあげる。

「ぅ…あっ」

 基は腰を抱いていた両手を胸へ移し、所在無く揺れるふくらみをゆっくりと舐めるようにもみしだく。それから片方の手を、ゆっくりと腹の方へ滑らせ、葵の足の間、接合部の前の突起へ到達させた。浸み出ている愛液で指を湿らせ、熱く膨張しているクリを押し潰すようにこねあげる。その刺激にがくがくと腕が震え、葵は崩れ落ちて顔がシーツに埋まる。

「ぁ、ぁ、あああっ、ぅ、ぅああっ」
「もっと鳴け」

 びくんびくんと葵の身体が痙攣する。その度に中がぎゅうぎゅう締め付けられ、基は、狂気の浮かんだ甘い笑みで何度か抜き差しを繰り返す。 

 変になる。
 鳴かされ続けながら、葵の意識は次第に白く霞んでくる。
 気が、狂いそう―。

「気持ち良いだろ? 葵」
「ぅ…」
「良いって言え。そうしたら、許してやる」

 葵はもう、何も考える力は残っていなかった。

「…気持ち、良い」
「何が良いのか、はっきり言え」
「…ぅ」
「基のおちんちんが気持ち良いって言いな」
「も―、もと…いの―気持ち、良い」
「もっと鳴かされたいだろ?」

 もう、声を出すことすら辛くなり、葵はこくんと頷いた。

「俺に抱かれたいだろ?」

 こくりと頷く。
 くく、と基の勝ち誇った笑い声が聞こえた。

 ゆっくりと基が身体を起こす気配がして、胸から手が離れた。そして、再度腰を固定されたことを感じる。基が激しく腰を動かし始め、もう反応出来ないかと思っていた葵の身体を、再度深い絶頂が貫く。そして、少し遅れて基が何度目かの放出を始めたことを感じ、葵はぐったりと全身の力が抜けた。



業火 姉弟 8 

業火 ~fell fire~(Rewrite編)(R-18)

 何度か目覚め、その現実に幾度も絶望を味わう。

 間近に眠る弟の顔をそっと見つめ、その強烈な光を放つ瞳が閉じられていると「ああ、似ている…」と葵は感じられた。鏡の中に見る自分自身を見るようではなく、個別の顔のつくりではなくて、どこかもっと深い部分で類似する面影を見つける。

 間違いではなく、気が狂った赤の他人などでもなく、これは血を分けた「きょうだい」なのだ。

 眠り続ける弟の長い睫毛を見つめ、不意に感じた生理現象にそっと身体を起こすと、基は微かに身じろぎをする。眠っている彼はまだどこかあどけない顔をしている。見覚えはないのに、記憶などないのに、どこか懐かしい気がして葵はちくりと胸が痛んだ。

 父の顔は知らないし、どんな人間なのかも分からない。しかし、母と、母の選んだ今の父を見ている限り、弟に宿るような狂気が形成される理由が分からなかった。

 狂っている。と、葵はぞくりと背筋が粟立つ。身体中に残る痛みに彼女はふるりと身を震わせ、この場から逃げ出したい衝動に駆られる。

「どこに行くの?」

 ベッドからそっと足を下ろした途端、背後から腕を掴まれる。

「ひゃっ」と声をあげて葵は身体が強張った。
「あ―、あの、トイレ…」
「俺も行くよ」

 基が身体を起こし、う~ん、と両手を上げて伸びをした。

「ついでに、ちょっとキッチンで何か飲み物を作ってこよう」

 それぞれ軽く上着を羽織って階下へ下りた。お湯を沸かしてコーヒーを淹れ始めた基を見て、そういうごく普通の日常の姿を葵は少し不思議な思いで見つめる。

 トイレを済ませて出てくると、キッチン中にコーヒーの良い香りが漂っていた。

「刺激物だけど、葵も飲む?」
「…うん」

 はい、と手渡されたカップの良い香りを吸い込みながら、「コーヒー、好きなの?」と思わず聞いていた。母はあまりコーヒーを飲まない。彼女は日本茶かたまに紅茶を飲むだけだ。父も由美も紅茶党だ。それなのに、葵はこの家でただ一人、コーヒーが好きだった。

「俺の家はいつもコーヒーばかりだよ」
「…そうなんだ」

 それは、基の、いや、葵の父のコーヒー好きな血なのかも知れない、と彼女はふと考えた。

「葵」と基はカップにふうふう息を吹きかけている彼女を見下ろす。「先に部屋に戻ってて」
「え」命令口調に戸惑ったものの、葵はやっと穏やかになった彼を怒らせたくはなかった。頷いてとぼとぼと階段を上り始める。それを目で追って確認し、基は洗面所へと向かった。
 

業火 姉弟 9 

業火 ~fell fire~(Rewrite編)(R-18)

 まだ日が高い。空腹感はほとんどないが、今はお昼頃だろうか。
 お互いの口の中がコーヒーの味だった。

「んっ…」

 執拗に舌を絡ませ、口の中を犯し続ける基に、葵は僅かな抵抗を示してその身体を押しのけようと腕を突っ張った。

「ん、ぅ、ぅ…ふぅ…っ、んん―」

 コーヒーの味はとっくに洗い流され、熱い液が喉の奥に流し込まれてくる。思わず飲み込みそうになって、葵は吐き出そうと暴れる。

「んん…くぅっ」

 ぐい、と顎を押さえ込まれ、苦しくなって彼女はその液体をごくりと喉を鳴らして飲み込んでしまった。

「ぅ、あっ」葵はげほげほと咳き込み、それを見下ろす基の目は冷たかった。
「いちいち俺に逆らおうとするなよ、葵」
「え」と涙目になって葵は弟を見上げる。
「俺に、逆らうな」
「…な、何、言って―」
「口答えもするな」

 また、だ。葵はぞくりと背筋が冷えた。この狂人のような瞳。

「優しくして欲しかったら言う通りにするんだよ」
「も―、もと…」

 くく、と基の目が細められた。

「そんな怯えた顔するなよ、葵。もっと追いつめたくなる」

 くらり、と目の前が奇妙に歪んだ。一瞬、薄闇に覆われた気がして葵ははっと目を見開く。びくん、と身体が反応していた。

「ぁ―」

 ぐい、と両脚を抱えられ、基が押し入ってくるのが分かる。「ぅ、ぅ」思わず身体をよじって抵抗すると、膝を開いたまま太ももをシーツに押し付けられた。難なく基が奥深くへと侵入してくる。痛みはもう感じなかった。代わりにむずむずするような熱い感触だけが断続的に続いている。

「ほら、奥へ届いたよ」

 そう目を細められた途端、じわりと彼を包み込んでいる膣壁から愛液が浸み出してくるのが感じられた。

「濡れてきたね」

 基が僅かに腰を揺らすとくちゅくちゅと水音が響く。その音を楽しむように、基は小刻みに腰を動かし続ける。何度も奥を突かれ、中をかきまわされて、葵は腰の辺りがざわざわとしてきた。

「や―、ぁ、ぁ」

 やがて最奥に留まったまま、基は彼女の腰を抱いてぴったりと身体を合わせた。そして、そのまま顔を近づけ、微かに喘ぎ声を上げている葵の唇に舌を這わせる。はっとして口を閉じたその唇を割って舌先をねじ込み、首を振って抵抗しようとした顎を手の平で押さえ込んだ。

「んくぅ…っ」

 喉の奥深くまで舌を差し込まれ、舌を吸い上げられて舐めまわされ、葵は頭の奥が白く霞んでくる。そして、次の瞬間、基がほとんど動いていないのに、身体の奥から痙攣が始まり、絶頂に達してしまった。不意に腕の中でぴくぴくと痙攣し出し、きゅううっと中を締め付けた葵に気付き、基は唇を離して彼女の顔を覗き込む。

「イッちゃったの?」

 葵の恍惚の表情を見下ろして、基はにやりと笑う。

「俺とひとつになれたことが、そんなに嬉しかった?」
「ち―違…」必死に首を振る葵の唇の端からつう、と唾液が流れ落ちる。
「可愛いね、葵。俺の身体がそんなに良かった?」

 基の表情がそれまでになく柔らかく優しかった。

「ほら、こんなにセックスの相性が良いんだ、俺たちは」

 そんなバカな、と葵は思う。そんなことがある筈はない。同じ血を分けた、同じ子宮で共に育った誰よりも近い存在なのに。

 葵の中で、基がゆっくりと膨張していくのが分かる。これ以上ないくらいいっぱいに満たされ、それに伴って熱い液がじわじわと浸み出してくる。もう、繋がった部分は蕩けそうに溶け切っている。

 そして、再度ふさがれた口も、甘い熱い液で満たされ溢れそうだ。ぴったりと隙間なく寄り添った肌が火照っている。鼻から抜ける喘ぎ声が、甘く高く響く小鳥のさえずりのようだった。

 こんな風に誰かと近く寄り添ったことはない。こんなに深く繋がったこともない。こんなに熱く蕩けあったことも。
 身体の奥がむずむずしてきた。動いて欲しいと葵は思った。もう少しでイケそうなのに。

 腰をもぞもぞと押し付けてくる葵の様子に気付いて、基は唇を離した。銀糸が二人の舌に絡みついたままやがてぷちんと切れて滴り落ちる。

「狂わせて欲しいの?」

 基の目は狂気に輝き、それでも優しく細められていた。葵の口は半開きのまま、瞳は虚ろに潤んだままで、首を振る気力もないようだ。

「イキたいんだろ?」くく、と喉の奥で基は笑う。
「イカせてやるよ、可愛い葵」

 揺らされながら、何度も絶頂に押し上げられながら、葵はもう身体が自分のものではないような変な錯覚を得ていた。基の動きで勝手に反応し、意図せず声が漏れ、つま先まで痙攣を繰り返す。硬直して真っ白くなった視界に閃光が走る。それは、彼女の意思とはまったく無関係に起こっていた。

 そして、身体の奥に熱い液が流し込まれるのをまるで他人事のように感じながら恍惚の海に漂い続けていた。



業火 motoi 10 

業火 ~fell fire~(Rewrite編)(R-18)

 定期的に同じ住所の同じ名前の人から封書が届く。父も義母もその封書にはまったく興味を示さず大抵そのまま放っておかれる。基は不思議に思ってその封筒を手に取り、光に透かしてみた。何か、固い紙のようなものが入っている感じだ。

 数日間、放置されたそれは、きっともう要らないものだろう、と基は思った。

 封を切ってみると、そこには写真が入っていた。女の子の写真だ。華やかさとか可憐さとかはなかったが、なんだか、可愛いと彼は思った。一緒に写っている両親と思われる男女と、母親と思われる女性の腕には赤ん坊も一緒に写っていた。

 それから、基はその封書が届くと、封を切って中の写真を確認するようになっていった。恐らく見つかっても父も義母も何も言わないだろうことは分かっていたし、彼はなんだかその写真を見るのが楽しみになっていたのだ。



業火 団欒 11 

業火 ~fell fire~(Rewrite編)(R-18)

 その日、家族は皆リビングに集まり、映画鑑賞をすることになっていた。
 時代劇が好きな葵の家族は、テレビのロードショーで時代劇が放映されると一緒にそれを観る習慣があった。

「俺は、そういうのはあんまり」と苦笑して部屋に引き上げる基は、去り際、他の家族には気付かれないように、葵に視線を送った。その意味を理解して葵は青ざめた。

 ここ10日ほど、両親や由美の不在の時間はなく、葵は怯えながらもほっとしていたのだ。

 基がこんなチャンスを逃す筈はなかった。ここで気付かない振りをするのは簡単だ。実際、葵も久しぶりに家族との楽しい時間を過ごしたかったし、観たい映画でもあった。

 僅かに躊躇い、一度は知らない振りをしようとしたが、後でどんな仕打ちを受けるかと考える方が怖い気がした。家族に、特に母に知られる訳にはいかない。基は、母の生んだ実子なのだ。

「…あ、私も…今日は、少し勉強する」

 唇を噛み締める思いで、葵はそう言った。

「ええっ、お姉ちゃんの好きな役者さん出てるのに!」由美が驚いたように姉を窺う。
「うん、また今度」葵は力なく微笑んだ。
「お姉ちゃん、風邪でもひいた?」
「え、風邪?」母が由美の言葉に反応して、葵の額に手を触れる。
「熱はないみたいだけど」
「だから、たまには勉強するだけだって」

 葵は優しい家族の気遣いに、笑顔で応えた。声が震えないように細心の注意を払って。じゃ、と廊下に出てふと階段の上に視線をやるとそこに基の姿を見つけて葵はぎくりと立ち止まる。階段の上で、手すりにもたれながら家族のやり取りの一部始終を聞いていた基は、皮肉な笑みを浮かべて葵を見下ろしていた。

「お前の家族はおめでたいな」
「そんな言い方―」

 思わず家族を庇いかけた葵は、基の暗い瞳にはっとして口をつぐむ。そこに宿っていた光は、憎悪とも嫉妬ともつかない黒い闇を宿していた。

 葵がのろのろと階段を上りきったところで、基は彼女の腕を掴んで有無を言わさず部屋の中に引きずり込む。

「も…っ」
「声を出すな」

 低い声で基は彼女を睨みつけながら後ろ手で扉を閉め、鍵を掛ける。

「もう、やめて、基。こ―こんなこと、絶対おかしい」
「うるさいよ」

 葵の腕を乱暴に掴んで背後から抱き寄せ、基は腕の中の獲物の服を外そうとする。

「基、お願いっ」
「うるさい」

 基の声は苛立った。暴れる葵の服を引き剥がすように脱がせ、怯えて彼を見上げる彼女をめちゃくちゃにしてやりたい衝動に駆られる。

「あとは自分で脱げよ」

 声のトーンがこれまでになく低く不穏だった。

「も…、もと―」
「脱げ」
「お願い…」
「聞こえなかったのか?」

 また、あの瞳だ。葵は怯えて立ち竦んだ。これ以上怒らせたらどうなるのか分からない。本気でそう思わせるような冷たい光が宿っている。震える指先で、葵は一枚一枚服を脱ぎ捨てていく。視線を合わせなくても、基がじっと彼女の動きを見据えていることが分かる。その痛いほど不躾で冷たい視線を感じ続けていた。

 最後に下着を外して顔をあげると、基の表情は幾分緩んでいた。

「おいで、葵」

 抱き寄せられ、唇を重ねると、葵はもう抵抗は無駄だと思い知る。頭では認めたくない。しかし、身体がきっちりと基の愛撫に反応する。火照った肌が、ちくりと疼く身体の奥が、基を求めていることが分かった。



業火 団欒 12 

業火 ~fell fire~(Rewrite編)(R-18)

 家族が2時間半のロードショーを楽しんでいる間、二人が何をしていたのか。上で勉強している筈の二人の邪魔をしないよう、防音のためしっかり扉を閉めていたリビングの家族には、葵の悲鳴も喘ぎ声もまったく届くことはなかった。

 横向きで上になった足を抱え上げられ、足を交差するように交わり、姿勢が変わったために以前と違う場所を抉られ、奥深くを突かれて、その痛みに、頭上へと突き抜けていく鋭い快感に何度か意識が飛んだ。気がつくと、いつの間にか正常位で基が彼女の身体に絡みついている。小さく揺らされる視界、熱い肌、熱い息遣い。一度達していることは明白だったが、基のそれはまだ膨張したままだった。

「ぅ、ぅう、ぁ、ぁぁ、ぁぁあ、ぁぁ」

 リズムを刻むように声が漏れ続け、一度去った熱が再びむくむくと湧きあがってくる。

「良い声だ、葵。もっと鳴け」
「ぁぁ、ぁぁぁ、ぁぁぁ」

 胎内に蓄積してくる熱がどんどんむず痒く疼いてくる。激しすぎて、熱くて、葵は言葉を紡ぐことも出来ない。

「も―、も…と」

 必死に首を振る。

「狂わせてやるよ、葵」
「ぅあああ、ああ、あああっ」

 おかしくなる。もう何も考えられないほど、頭の中が熱く溶けて、ただ身体全体が痙攣を繰り返す。刺激が止まないせいで絶頂に達しても達しても熱に引き戻されて炎の中に投げ込まれる。

「もっと狂えよ」細められた基の瞳には紛れもない狂気が光っている。
「ぅああ、ぁぁああ、ぁぁぁ、ぁあああっ」

 必死に理性を総動員しようとしても、かき集めた筈のカケラは熱に溶かされ、蒸発し、霧散する。

「や、ぁあああっ、うああ、あああ」

 頭の中が真っ白になって、身体の奥が熱く溶けた。流し込まれる基の熱を確かに感じ、それを恍惚感と共に味わう。今までにない深い絶頂に連れ去られ、葵は基の腕の中で何度もひくひくと痙攣を繰り返していた。

 基もうっすらと汗を浮かべ、はあはあと息があがっている。

 最後にぎゅっと奥を突き、びくん、と反応する葵の苦痛の表情を見下ろして、基はずるりと彼女の中から出て行った。そのまま葵の横にごろりと寝そべり、基はそのまま天井を睨みつける。

「平和なもんだな」

 吐き捨てるように呟いた基の言葉の意味を葵には理解出来なかった。そもそも、そのときの彼女にマトモな思考は巡ってはいなかったのだ。

 ぐったりと全身がだるく、葵は腕を動かすことすら億劫で、基がふわりと身体を起こした気配に気付いてはいても、視線を向けることすらしない。

「葵」名前を呼ばれて、彼女はゆっくりとその声の主を見上げた。
「まだ、足りない」
「―え」
「もっと徹底的に壊してやるよ、葵」

 これ以上ない極上の笑みを浮かべて、基は手の中の獲物を見下ろす。額にかかる一筋の髪の毛をさらりと撫でられて、葵の背筋は粟立った。

「な―に?」
「まだ、お前の目には正常な理性の光が強いね」くすりと基は笑う。「さすが、バカな他の女とは違う」
「え」
「ますます欲しくなったよ、葵」

 葵は言葉を失って愕然と弟を見つめる。

「まだ時間はたっぷりある。こんなのは序の口だよ」

 ふふ、と笑いながら、基は彼女の胸に子どものように顔を埋めた。どくん、と葵の心臓がはね、知らずに身体に戦慄が走る。
 基の舌が胸の谷間を這い、乳房を彼の手の平が鷲摑みするのを感じた。

「や―ぁっ」

 胸に鋭い刺激を感じて、葵の背中がびくんとはねる。基が乳首に軽く歯を立てていたのだ。

「ぃ…っ、イヤ、基…。もう、もう、やめて」

 葵の胸にむしゃぶりついている基の顔を引き剥がそうと、彼女の細い腕が必死にその頭を押している。

「許して―」
「うるさいよ、葵」

 しかし、もうほとんど力が残っていない葵の抵抗など、基はまったく意に介さない。舌全体を使って胸をなぶるように舐めまわし、次第にそれが腹の方におりてくる。ぞわぞわと背筋に悪寒が走り、葵は必死にその刺激に耐える。

「ぅ、ぅ、ぅぅ…っ」

 目を閉じて唇を噛み締め、葵はシーツを握りしめていた。不意に膝の下に手を入れて両脚を抱え上げられて、葵ははっと目を見開く。

「もと…い、も―う、イヤ。お願いっ」

 しかし、彼女が言い終わる前に、基はずい、と自身を彼女の中に沈めていた。

「ぅ―あ」
「今度はもっとゆっくりいこうか」

 柔らかく優しく、基は蕩けるような美しい笑顔を見せる。

「ほら、葵の身体も喜んでるよ」



業火 motoi 13 

業火 ~fell fire~(Rewrite編)(R-18)

 一緒に暮らす親が実の親かどうかなど基には分からないことで、更に本当の親がどんなものかなど彼には分からないくらい幼かったし、比べようもなかった。

 しかし、幼稚園へ通うようになると、他の園児の親と自分の親が明らかに違うことが次第に実感として分かるようになってくる。父親に関してはそれほど構って欲しいとか関心を持って欲しいとは感じなかった。しかし、母親に一度も抱きしめられたことがなく、手をつないでもらった記憶もない。そんな子どもは他にいなかった。

 それでも、基は両親と呼ぶ二人に気に入られるように必死に良い子で生きてきた。きっと、母親が優しくしてくれないのは自分が良い子じゃないからだと思い込んでいたからだ。

 基の父も、再婚相手の義母も、特に悪い人間ではなかったのかも知れない。ただ、彼らは子どもに関心がなかった。愛情もなければ家族だという意識も抱いていなかった。特にまだ若い義母にとっては、たまたま結婚した相手に子どもがいた。子どもを望まなかった彼女にとっては、基の存在は邪魔でうっとうしいだけのものだった、というだけだ。夫婦はよく二人で外食し、家を空けることが多かった。自宅に残る子どものことなど、恐らく忘れていたのだろう。

 お腹を空かせた基は、冷蔵庫や戸棚を漁って、とにかく食べられるものを探し、貪り食べた。スナック菓子や酒のつまみ、そんなもので辛うじて空腹を満たす日々だった。幼稚園で給食が食べられるから、基は最低限の栄養を補給出来ていたのだ。



業火 団欒 14 

業火 ~fell fire~(Rewrite編)(R-18)

 年末から年始にかけて、葵の家族は田舎にある父の実家へ泊まりに行く。それは家族にとっても毎年恒例の楽しみだった。受験生を二人抱える今年は、クリスマスもケーキを食べただけで終わっていたため、年末は田舎でゆっくりしようと葵も楽しみにしていた。

「今年は少し早めに出掛けようかと思うんだが」

 と、その晩の夕食の席で、父が皆に向かって提案する。食事を終えて、それぞれコーヒーやお茶をゆっくりと飲んでいるときだった。

「やったぁ」と由美が嬉しそうな声をあげる。彼女は、父の田舎にメールのやり取りをする親しい友人が出来ていた。葵も、父の両親、祖父母が好きだった。

 しかし、基は年が明けてすぐの試験のために家に残って勉強する、と言って同行を断る。

「俺一人だけが他人ですし、ご家族水入らずの邪魔をしたくはないですから」と。
「何を言うんだ。そんなことはないんだぞ、基くん。君は立派に家族の一員だ」

 むしろ、父が気を遣って慌てる。

「ああ、いえ」基は、失言でした、と苦笑する。「初対面の方々にお気遣いいただくとこちらも恐縮します。それに、やはり年明け早々に試験があると思うと、せっかくお邪魔しても、結局は勉強しているだけになりそうですから」
「勉強したいなら、あっちは部屋なんかいくらでもあるから、好きなだけ勉強してて良いんだぞ?」
「そうよ、基。おじいちゃんもおばあちゃんも、基に会えるのを楽しみにしているのよ? 帰りには私の実家にも寄るんだから」母が、飲み終わったカップを抱えて立ち上がりながら息子の顔を覗き込むように見つめる。
「ええ、ありがとうございます」にこり、と基は笑顔を浮かべる。「だけど、資料をすべて持っていく訳にもいきませんし、図書館で調べたいこともあると思うと―」
「…確かに、図書館なんて近くにはないが…」
「ネットで検索すれば良いじゃない?」

 由美が携帯をいじりながら顔をあげた。

「いや」すると、父が苦笑する。「おばあちゃんの家ではインターネットは繋がらない」
「マジで?」

 葵は、にこやかに父と会話を交わす基の横顔を見て、その真意を推し量れずに心臓がドキドキと音を立て始めていた。

「しかし」父は、流しに立って行った母の方へ視線を向ける。
「一人で家に置いても、食事の支度なんかは…なぁ?」
「基」母が振り返って聞いた。「料理なんかは出来るの?」
「そうですね」基は真剣な表情で答える。「カップ麺を作るときにお湯を沸かす程度なら」
「それくらいなら、私も出来るわ」

 由美が笑う。

「そんなんじゃあ、心配だわね」

 母が苦笑した。そして、ため息を吐いて、葵へ視線を移す。心なしか青ざめている葵の表情を怪訝に思いながら、母は言った。

「どうしたの、葵? 気分でも悪いの?」
「え」と葵は驚いて母を見上げた。
「あ、ううん」そして、基が一瞬ちらりと葵に向けた視線を感じて、思ってもいなかったことを口走ってしまう。
「私も残って勉強する」
「え?」

 と、父も母も由美も驚いて葵を見つめた。



「どういう風の吹き回しさ?」

 一緒に階段を上る途中で、先を歩く基は振り返らずに葵に聞いた。

「ど…どう、って―」自分でもよく分からない先ほどの言動を、葵にも説明なんか出来ない。ただ、そうしなければ、と感じてしまったのだ。だいたい、どこか脅すような視線を投げたくせに、何を言ってるんだろう? と葵はむしろ恨みがましい目で基を見上げる。



業火 団欒 15 

業火 ~fell fire~(Rewrite編)(R-18)

「どうして、葵まで、そんなことを言うの?」

 母に問い詰められて、葵は「ええと」と俯く。

「受験勉強なんてほとんど必要ないでしょ?」と由美。
「何か行きたくない理由でのあるのか?」と父。

 基の視線を感じる。どういう目をしているのか、彼女には分からなかったが、彼の方を向く気にはなれない。

「ううん、そうじゃなくて」と何も考えていなかった葵はしどろもどろで必死に答えを探す。
「その、基だけ残して行くのはなんか可哀想だし…」

 瞬間、家族の視線が基に集まる。そして、皆、黙り込んでしまった。

「俺のことは気にしないでください」

 苦笑、という声で基は笑う。

「いや、そういう訳にはやはりいかないよ」と、父。
「そうね―、せっかくの機会だけど、実家に行くなら受験が終わって落ち着いてからでも良いわね」と、母。
「ええ~、二人とも来ないなんてつまんない!」と由美。

 それで、なんとなく、今年の年末は双子だけが家に残るという風な流れに落ち着いてしまった。



「俺が可哀想だって?」

 ふふん、という目で基が振り返った。

「え」葵ははっとする。それは、彼に対しては侮辱と映ったのではないか、と。「う―、ええと、そ、そうじゃなくて…」
「そうだね」基の瞳が暗い光を帯びた。「言葉では尽くせないくらいさ」
「…な、何のこと?」

 基は、無言でふいと背中を見せると、そのまま部屋の扉を開けて中に消えていった。



業火 yami 16 

業火 ~fell fire~(Rewrite編)(R-18)

 その夜、なんとなく寝付かれずに何度も寝返りをうっていた葵は、真夜中を過ぎてからとろりとし、不意に人の気配を感じて目を開けた。他には誰もいない筈の空間に、ベッドに眠る彼女を見下ろすふたつの目が光っていた。

「ひゃ…っ」

 思わず声をあげてはみたものの、途中でそれが基だと分かった。

「な―、何…基? ど、どうしたの?」

 ゆらりとその影が揺れ、基は彼女に触れることも声を掛けることもせずにそのまま扉に向かい、そして、パタンとドアの閉まる音が響いた。

「基…?」

 やがて、基の部屋の扉が、開いて、閉まった。言いようのない瞳の色だった。そこに宿っていたものは、いったい何だったのか。葵はそっと身体を起こして扉を見つめ、そして、ベッドを下りた。廊下に出るとひやりとした冬の澄んだ空気が足元を通り抜けていく。彼の部屋の扉の前に立ち、葵はそっとドアを叩く。

「基?」囁くように呼びかける。

 返事はない。

「…基?」僅かに声を出してみた。
「も―」再度、呼びかけようとした途端、不意に扉が開いた。
「なんだよ」不機嫌な様子の基が顔を出した。パジャマの上に部屋着を羽織り、もう眠っていたような顔だった。
「あ―」と葵は言葉を無くして背の高い彼を見上げる。「ご、ごめんなさい」
「えと、おやすみ」と踵を返そうとした彼女の腕を、基が、ぐい、と引き戻した。
「え、―あの」

 そのまま部屋の中に引き込まれる。

「もと…ん、んっ」

 扉に背を押し付けられて口をふさがれた。慌てて腕を突っ張ってみるが、基の腕の中から逃れることは出来ない。基の身体は冷たかった。唇も、抱きしめている腕も、ひんやりと夜の冷気にさらされて冷えていた。つまり、彼は少なくとも、身体が冷え切ってしまう程度の時間をベッドから出ていたのだ。

「何しにきたのさ」

 やがて、唇を離して、基は彼女を見下ろした。

「え、だ…って、基が」
「俺が何だよ?」
「私の部屋にいたりするから」
「だから、自分から抱かれに来たのか?」

 基の瞳に、いつもの冷たい光が宿った。

「ち、違っ…し、心配だったからっ」
「じゃ、確かめてみれば?」
「…え、な、何を―」

 ひょい、と葵を抱え上げて、基はベッドへ向かう。

「ちょ…、ちょっと待って!」
「今更何言ってんの? 自分から来たんでしょ」
「だ…だだだ、だって! ちょっと待ってよ」

 どさりと葵をベッドに下ろして、しー、と基は唇に指を当てる。

「聞こえるよ、葵。特に由美ちゃんはさっき眠ったばっかりだ」

 慌てて葵は口を閉じる。

「ちょっとさ」と基は葵の頭を胸に抱きながら言った。「君を殺してみたら、どうなるかな、って思っただけさ」
 


業火 yami 17 

業火 ~fell fire~(Rewrite編)(R-18)

「葵」と、頭の上で声が聞こえた。
「葵」今度は耳元に吐息が掛かる。
「ん…」と葵は、目を開けた。
「いい加減、起きて部屋へ帰りな。由美ちゃんが目を覚ます前に」

 呆れた顔で葵を見下ろす男の顔に、「え」と葵は状況を理解出来ずに固まった。

「も…とい?」
「そうだよ」

 窓の外はまだ薄明るい夜明けの時間だ。しかし、基はもうシャワーを浴びて服を着替え、ベッドに座っていた。

「え―、あれ、なんで私…」辺りを見回して、そこが基の部屋だと気付く。
「なんで?」くく、と基は笑った。「夕べ遅くに、君が夜這いに来たんだろ?」
「なっ…」

 そして、思い出した。真夜中過ぎから未明までのことを。
 毛布をすっぽりと被ったまま、熱く抱き合った密度の濃い時間を。



「や…っ、やだ、違う、基っ、やめ―て!」声を殺しながらも必死に葵は訴えた。
「こんな、こと…ダメ」
「何を言ってるのさ」基は目を細めた。「自分からやって来たくせに」

 暴れる葵の腕を捕えて、もう片方の手で器用にパジャマを脱がせ、基はあっという間に葵の中に入ってきた。

「ぅ…、ぁ、あ!」

 バカだった、と葵は後悔する。なんで、放っておけなかったんだろう? 考えてみれば、そんなに切羽詰った空気があった訳ではなかった。ただ、あの瞳の色が気になったのだ。冷たい光の中に、何故かこの上ない悲しい色が潜んでいるように見えて。

 あっという間に身体を繋いで、基はそれからゆっくりとパジャマを脱ぎ捨てている。

「ぅ、ぅ…っ」

 何度挿入されても、最初の瞬間の緊張感は消えない。しかも、禁断の相手だと思うと拒絶する心が最後まで置き去りにされる。

「ふ…あぁ」
「ほら、こんなに濡れて締め付けてるよ、葵」

 一気に奥へ到達し、基は微笑む。異物感を抱きしめたまま、それでも葵の身体がその刺激を心地良く受け止めていることを感じる。

「まるでナカの粘膜の壁がぴったりと吸い付いてくるようだよ、俺が欲しかったんだろ?」

 言葉にならない喘ぎの中で、葵は必死に首を振る。

「い―や、イヤ」
「イヤだんて思ってないくせに」基の瞳が再度細められ、怪しい光がきらりと葵の心臓を射抜く。
「俺が、欲しいだろ?」

 知らずに、吸い寄せられるように彼の唇を見つめてしまう。

「気持ちが良いんだろ?」

 虚ろな瞳で、その動きを追ってしまう。

「狂わせて欲しいだろ? 葵」
「ぅ…」
「壊して欲しいんだろ?」

 基の声がまるで頭の中から響いてくるよう二重にだぶって聞こえる。

‘壊シテ、欲シイ―’

 はっと葵は目を見開く。

 今のは、誰の声?

「満たされたいんだろ?」

 耳元に唇を寄せて、基はささやく。冷えていた彼の身体はいつの間にか熱く火照り、ぴったりと合わせた肌がしっとりと汗ばんでいた。ぎゅっと引き寄せるように腰を抱かれ、奥を突かれた刺激に葵の身体はぴくりと痙攣する。

 葵の首筋に唇を押しつけ、基は、すう、と匂いを嗅いだ。

「メスの匂いがするよ、葵」

 意味も分からずに、葵は羞恥でかああっと頬が熱くなる。

「良い匂いだ」べろりと舌全体で喉から鎖骨までを舐める。びくんと葵の背中がはねた。腰を抱いていた基の手が胸へと滑り、ふくらみをぎゅっと掴む。

「ぁ…っ」
 小さく悲鳴をあげた葵の切ない表情を見下ろして、基は喉を鳴らして笑う。そして、胸をもみほぐすように柔らかく愛撫しながら、基はおもむろに腰を動かし始めた。次第に激しく大きく前後する動きに、葵は一気に絶頂へと押し上げられる。

「ぅ、ぁぁぁっ、ぁぁ、ぁぁぁ、ぁぁぁぁあっ」
 必死に声を押し殺そうと、葵は首を振り、基の腕にしがみ付く。容赦なく続く激しい責めに、葵は大きく痙攣し、頭の中を閃光が走る抜ける。

「ぁ、ぁ、ぁ、ぁあ」
 いきなり、ぴたりと動きを止め、基は掴んでいた胸を離して彼女の頭を抱き寄せ、熱い息遣いと共に唇をふさぎ、その口の中に舌をねじ込んできた。

「んん、ん…っ、んぅ…」
 身体の奥がまだ熱く波打っている。中にいる彼はまだ熱く膨張したまま、びくんびくんと蠢き、はち切れそうになっていた。それに呼応するように激しく基の舌が葵の中で暴れ回る。何度も出し入れされる舌先がどんどんと熱い液を流し込んでくる。

「ぅ、ぅ―」
 口の中に溢れそうな唾液を飲み込み、葵は朦朧としたまま彼女の中の基を感じていた。口の中も身体の奥も、深く繋がったまま静止しているようだ。

「まだまだ足りない、って顔をしてるよ、葵」

 唇を軽く離して基は葵の目を覗きこんだ。

「なかなか躾け甲斐がありそうで、楽しみだよ」

 反論し掛けた葵の口を再度ふさいで、基はゆっくりと腰を揺らす。動きに合わせて葵のナカは基を絡みつくようにしっかりと抱きしめている。

「んん…、く、ふぅ…っ」
 身体の奥が熱く疼く。もう、逆らう気力はなく、荒々しくも安らかに温かい海原に抱かれ、このまま漂っていたいと葵は思った。どんな背徳をも、倫理的にも道徳的にも許されない絆をも受け入れて。

 そして、次の瞬間にはぞくりと背筋が凍る。
 イヤだ、私はまだ恋もしていないのに。

「ぅ、ぅ…」
 葵は基の腕の中で小さくもがく。

 こんな、…こんなこと、ダメ。弟なのに。お母さんが知ったら―。お父さんに知られたりしたら―。
 ぴったりと寄り添った熱い肌が吸い付くように絡みついてくる。繋がった下半身が、基の動きに合わせてくちゅくちゅと水音を響かせ、後ろの穴に伝い落ちてくる。そこに羞恥を感じる余裕はなく、葵は朦朧とする意識を必死に手繰り寄せ、理性を留めようとしていた。

「葵」舌先が唇に触れそうなほど近くで、基はささやく。「君の中は気持ち良いよ」

 葵の半開きの唇をそっとなぞるように舌が撫でる。

「こんなに溶けてとろとろだよ」

 腰をゆっくりと前後に揺らしながら、くすりと基は笑う。

「ほら、思い出すだろう? 俺たちがひとつだったときのことを―」

 二卵性双生児なのに、ごく普通の姉弟と変わりはないのに、そんな風に言われると、葵は思わず錯覚してしまう。基と溶け合ってひとつでいた時代があったんじゃないかと。母の子宮の中で互いに身体を持ち、二つに分かれた過程があったんじゃないかと。

「ずっと、愛し合っていたんだ。こんな風に」

 一言、何かを口にする度に、葵の唇を舐め、唇を割って舌先を差し入れてくる。ゆるくゆるく腰が揺れ続け、胎内に熱がこもる。疼く熱さに翻弄されて、葵は思考を形成する機会を失い続ける。

「葵、お前は俺のものだ」

 繰り返される暗示のように、すう、とその言葉は葵の胸に下りて留まった。

 ダメ―。
 こんな、こと…、ダメ。

 うわ言のように、意味のない暗記の文言のように繰り返される理性としての縛りの言葉は次第にその意味を失っていく。

「ん…っ、ぁ、ぁっ、も…と、い」

 思わず縋りつくように弟の首に腕をまわしたことを、葵は気付いていなかった。

「や―ぁ」

 基の動きに操られるように、葵は、彼の頭を抱く。

「言えよ、葵。気持ち良いんだろ?」
「ぅ…、ィヤ―ぁ」
「言えよ」

 虚ろな瞳で葵は訳も分からず必死に首を振る。しかし彼女に抵抗しようという反応は一切なく、むしろ彼の動きに合わせて腰を揺らしていた。

 くく、と基は笑いを噛み殺す。

「気持ち良いって身体が答えてるよ」

 ぺろりと耳たぶを舐められ、葵は身体を震わす。中がきゅっと締まり、基は僅かに声を漏らす。

「今夜はさ、じっくり追いつめてやるよ。時間を掛けて―ね」

 甘い声で耳元に熱い吐息をかける。ぴくり、と葵の身体が悦びを表した。



業火 futari 19 

業火 ~fell fire~(Rewrite編)(R-18)

「じゃ、お土産買ってくるから、留守番よろしくね」

 どこか心配そうな色を浮かべたまま、父と母、由美は御用納めの夕方、一週間の予定で父の田舎に出掛けて行った。

「いってらっしゃい」と手を振ったその瞬間から、いや、家族がいそいそと荷造りを開始する辺りから、葵はすでに後悔と不安とではち切れそうになっていた。

「やっぱり私も行く」と何度もそこまで出掛かり、基の視線を感じて言葉を飲み込むことが幾度もあった。
「気をつけて」そう言って爽やかに玄関で家族の車を見送る基が恨めしかった。

 車が道を曲がって見えなくなると、葵は「ええと」と基のことを見ないようにして、家の中に滑り込む。

「私、部屋の片付けするわ」
「この間の大掃除でやってなかった?」
「…ちょ、ちょっと中途半端だったから」
「ふうん」

 葵の後から階段を上り始めた基は、特に急ぐ風もなく、淡々と彼女の後を追う。

「な、なによ、基は何するの?」
「俺が何をするのかって?」
「…い、良い、聞かない。私の邪魔だけはしないで」

 基の声色が不穏で、葵は慌てて階段を駆け上がり、部屋の扉に飛び込んだ。しかし、この部屋には鍵がない。彼が入ろうと思えば、それを遮る手段がないのだ。葵は、半分泣きそうになりながら、どうして、鍵付きの扉にしてくれなかったのよ! と今まで感じたことのない理不尽さを思う。

「手伝おうか?」

 扉の外で、楽しそうな基の声が聞こえる。

「良い! 要らない! 自分でやるから!」
「あっそう」

 恐ろしく潔く基は引き下がったようだ。

「じゃ、俺は勉強でもしてるよ」

 本当だろうか? だいたい、基は葵と違ってバカみたいに成績が良いらしかった。俗に言う一流大学を狙えるのに、何故か葵の行く短大に近いかなり安全圏の大学を彼は希望しているらしい。もう、受かったも同然なのに、今更勉強なんてする必要があるとは思えなかった。

「あとで、コーヒーでも淹れてくれる?」

 基の言葉に、葵は、「分かった」と答える。それくらいならやってあげても良いだろう。どうせ、自分もその内飲みたくなるだろうし、と。


業火 futari 20 

業火 ~fell fire~(Rewrite編)(R-18)

「イタタ」

 と、声を漏らし、その声が自分のものだと気付いたときには、葵は天井を見つめていた。

「ぅ…頭、痛い。…なんで?」
「薬のせいだろうな」

 呟いた彼女に答える声が上から降ってきて、葵は、「え?」とその声の方を見た。

「基?」
「薬なんて、使ったことないんだろうね、君。だから、こんなによく効く訳だ」
「な…何のこと? ぅ、イタタ…」

 必死に身体を起こしてみると内側から頭がぐらりと揺れた。辺りを見回すと、そこは見慣れた基の部屋のベッドの上。窓の外はまだ明るく、目に映った壁掛け時計が10時過ぎを指しているのが確認される。

「あれ、私…? なんで眠ってたの?」
「だから、薬のせいだって」

 ベッドに腰かけて葵を見下ろしていた基が、すう、と手の平を彼女の顎にかける。身体に掛かっていた毛布がずれて葵はふと胸に風を感じた。

「え?―な、なん…っ」

 なんで? と叫ぼうとした声は基の口の中に吸い込まれ、葵はそのまま押し倒されるようにベッドに沈んだ。

「んん~っ」

 暴れる腕を難なく捕らわれ、葵はじたばたと必死に身体をよじった。

「暴れるとまた頭痛がするよ」

 唇を離してくすくすと基が笑う。両腕を押さえ込まれ、いつの間にかすっかり服を剥ぎ取られ、裸にされていた葵は、悲鳴に近い声をあげた。

「な―、何? どういうことよっ?」
「どういうことも、君が俺の前で眠ってしまったんじゃないか」
「そ、そんな訳…」言いかけて、先ほどから繰り返される単語にようやく気がつく。「薬、って何?」
「眠剤だよ、もちろん。麻薬とか覚醒剤とかじゃないから安心して?」
「あ…、安心出来ないよ! なんで基がそんなモン持ってるのよ?」
「眠れないからに決まってるじゃないか」

 ふと真顔になって基は言った。それで、葵は口を開きかけたまま言葉を失ってしまった。

「え」暴れるのをやめて、弟の顔をじっと見つめる。「眠れない、って―」
「不眠症って言えば良いかい?」

 愕然、とした。

「な…なんで?」
「さあね」

 葵の腕を解放して、基は暗い笑みを浮かべた。


業火 futari 21 

業火 ~fell fire~(Rewrite編)(R-18)

 コーヒー入ったよ、と葵が基の部屋を訪れたのは、9時前くらいだった、筈だ。片道3時間ほどかかる道のりのため、途中でお土産も買いたいからと、家族が7時には出掛けて行った。その後、本気で片付けを始めたら、意外に時間が経過していて、葵は喉の渇きに我に返ったのが8時半頃。

「コーヒー、淹れてやるか」うん、私も飲みたいし、と葵は静かな基の部屋の扉をちらりと見つめて階下のキッチンへ向かった。

 コーヒーを二人分淹れて戻ってきても、基の部屋は静かなままだった。ノックをすると、「開いてるよ」と基の声。警戒しながら中へ入ってみると、彼は何をしていたのか定かではなかったが、机に向かっていた。というのは、教科書の類はまったく開いていなくて、持ち込んだノートパソコンで何か文章を打っていたのだ。

「コーヒー入ったよ」
「ありがとう」と基は振り返り、カップをひとつ置いて出て行こうとする葵を引き止めた。
「なんだよ、一緒に飲んでいかないの?」
「こんなところで飲んだら危なくて」
「コーヒー飲むくらい良いじゃないか。一人で飲んだって寂しいだけだよ」

 その純情そうな声と表情にすっかり騙された。彼の口から「寂しい」なんて出ると、本当にそうなのかと思ってしまう。

「じゃ…じゃあ、コーヒー飲むだけ」

 葵はカップを抱えてそっと床に座り込み、基のベッドに寄りかかった。両親に話があるときも、彼女はよくこうやってこの部屋を訪ねて、ここにもたれ掛っていたものだ。

「ああ、葵、君、これどう思う?」

 渡されたカップを片手に、基がパソコンの画面を操作して、何か写真のようなものを映し出した。

「え―何?」

 やや警戒しながら、葵はそっと彼の傍に寄る。そして、その画面を見て、「あら」と感嘆の声をあげた。そこに映っていたのはプロの写真家が撮影したと思われる美しい自然の風景写真や野生動物の写真だった。思わず、食い入るようにスライドショーを見つめていた彼女の脇で、基が何か小さな物を取り出していた…ような気は、確かにしていた。しかし、それを彼女の背後から腕をまわして葵のカップに入れたとは、まったく想像していなかったのだ。

「どう?」
「うん、素敵。誰の写真なの?」
「さあね」

 あまり気のなさそうな基の反応に、葵は、微かな違和感をおぼえたのは確かだ。じゃあ、なんで見せたの? それがよく分からなかった。

「葵、君、お湯の温度どれくらいで淹れてる?」

 口にしたコーヒーにちょっと肩をすくめて、基は聞く。

「え、95度くらい…だと思うけど。沸騰してから水を足してるから」
「へえ、不思議な淹れ方するんだね」

 多少ムッとして葵は言う。

「不味かったら飲まなくて良いよ」
「マズイなんて言ってないよ」

 基は涼しい顔をして、カップを傾ける。葵はバカにされた気がして一気に残っていたコーヒーを飲み干し、あれ? と微かに眉をひそめた。なんか苦味が増した気がしたのだ。

「確かに不味いかも」
「そんなこと言ってないよ」

 基は笑い、葵は「じゃ」と扉へ向かう。

「俺も今飲み終わるから待って」
「なんで―」と文句を言おうとしたが、そのとき、身体がふわりと揺れたような気がして、ちょっと休もうかと定位置に戻ってみた。ベッドに寄りかかり、基がパソコンを操作しながらコーヒーを飲む背中を眺める。なんか、珍しく片付けに専念したせいか少し眠くなった気がするなぁ、と葵は欠伸をする。

 そして、その後の記憶がなかった。
 


業火 futari 22 

業火 ~fell fire~(Rewrite編)(R-18)

「も…基、私の服を―返して」

 必死に辺りを見回してみても、葵がそれまで着ていた筈のセーターもスカートもどこにも見当たらない。

「なんで?」
「なんで、って」葵は次第に不穏になる基の瞳の色に怯える。「…カ、カップを片付けてくる」

 基は涼しい表情でパソコンの電源を落とす。それまでやっていた作業を終えたのだろうか。

「俺がやっといたよ。っていうか、もう薬効は切れたのかなぁ?」
「そ、そういうことじゃなくて」いや、確かに頭痛はもう大分治まった。
「良いんだよ」

 そして、つかつかと再度ベッドに歩み寄ってくる。思わず後ずさりながら葵は毛布を抱き寄せた。

「よ…良くないって。私、部屋に戻って片付けの続きを―」
「時間は呆れるくらいたっぷりあるんだから、今からそんなに頑張んなくたって大丈夫だよ」
「ちょ…ちょっと待っ―ひゃああっ」

 ぐい、と毛布を引き剥がされて、葵は意図せず大仰な悲鳴を上げる。真っ昼間で、あまりに明るかったせいもあるだろう。羞恥に耳まで真っ赤になって、彼女は何度目かの虚しい後悔の念に苛まれる。

 なんで私って学習能力ないんだろう? 家族が誰もいない今、細心の注意を払っても足りないくらいなのに!

「葵、今更だよ。もう君の身体なんて隅々まで知ってるよ」

 慌てて胸を抱えて縮こまる葵を見下ろして、基は本気で呆れた声を出す。

「な…、ななな、何言ってんのよっ」耳をふさいで葵は叫ぶ。
「だって、本当のことじゃないか」葵が必死に耳をふさいでいる手を捕えて基はその顔をわざわざ覗き込む。
「やめてよっ」
「だって、葵、本当は分かってるんだろ?」

 極上の笑みを浮かべて、基はベッドの端に腰を掛けた。この顔にいったい何人の女が騙されたんだろう? こいつはこれ以上ない鬼畜だっていうのに。

「な、何を」聞いたところで、きっとマトモな答えが返ってくる筈はないことは百も承知だ。
 ふん、と基は斜め上から姉を見下ろしてペロリと唇を舐める。

「この間はもう少しだったんだけどな」
「な…、何が」
「君を堕とすまで」

 ぞくりとその瞳の光に背筋が粟立つ。

「今日は趣向を変えてみようか」
「何のハナシよっ」葵の声は悲鳴に近くなっていた。


業火 futari 23 

業火 ~fell fire~(Rewrite編)(R-18)

 暴れる葵を散々陵辱した後、基はぐったりと彼の腕に崩れた彼女の身体を抱き起こした。額にかかる乱れた髪をかき上げて、基は葵を抱いたままベッドから足を下ろして腰掛ける。

「葵、俺の上に座れよ」
「や…っ、な、何―」

「だから」ぐい、とその身体を抱え上げて床に立たせ、葵の背を抱いて膝を開かせた。「ほら、こうやって」葵の腰を支えながら彼のそそり立ったままの肉棒の上にゆっくりと下ろしていく。

「ぁ―」小さく声を漏らし、基の胸に背を預けたまま、葵はふらふらとそれを深く咥え込んでいった。
「ん、ぅく…ぅぅ」いつもと感触が違って、葵は苦しそうに息を詰める。

「ほら、奥までいっただろ?」

 ぐい、と葵の腰を押し付けて、基は満足そうに笑う。とん、と子宮の入り口を突かれたことがリアルに分かる。その途端、頭上に突き抜けるような快感が襲ってきた。

「ぅ…も、基」
「なんだよ。気持ち良いだろ?」
「ぁ…、ぁ、ダメ、ぅ…動かないで」

 すでに一度イっているせいで、感覚が軽く麻痺していた。それなのに突き上げる熱さと痛みは強烈に感じる。このままではほんの少し動かれただけでまたイってしまいそうだった。

「ほら、見てご覧、葵」

 必死に腰を浮かそうと下を向いていた葵の顎を、基は手の平でくいと上げてみせる。思わず正面に視線を向けてそれを見た葵は、そのおぞましくも恥ずかしい光景に口を開けたまま声が出なかった。

 ベッドの真横の壁には母が使っていた大きな姿見が移動してあり、そこに映っていたのは、下半身を繋いだまま男の膝に座り、虚ろにこちらを見る女の姿だった。軽く開いた基の膝の上に、更に大きく足を広げて座っているせいで、彼の黒く青筋の立ったグロテスクな肉棒が、葵の膣にしっかりと咥えられて入り込んでいるのが遠目でも確認出来る。

「や…っ、ぁっ」

 思わず腰を浮かし、膝を閉じようともがいてみたが、基の腕がしっかりと腰を抱いていて身動きなど取れなかった。

「ほら、自分がイク瞬間なんて滅多に見られないんだから、よく見ておけよ」

 言うが早いか、基は腰を抱いていた左手で葵の胸を掴みあげ、右手が繋がった穴の前、すでに真っ赤に膨張し、てらてら光っているクリを探り当てて押し潰す。

「いやぁぁっ」

 びくんと背中がはね、葵は顔を背けながら必死に基の腕を引き剥がそうと彼の腕にすがりついた。

「葵、ちゃんと鏡を見てろ」
「いやぁ、いやぁぁっ」

 くるくると右手の指先は葵の一番敏感な部分を執拗に刺激し、同時に大きな手の平で両胸を交互にもみしだいていく。身体から力が抜け、思うように動けない葵は、見るまいと思っても思わず目の前の鏡に視線が行ってしまう。まるで別の生き物のようにうねり、悶え続ける彼女の乳房、そして、だらしなく半開きの口から喘ぎ声が漏れ、腰が小さく痙攣している雌の姿がそこには映し出されている。

 虚ろに、淫らに、男の手で狂わされるその姿は目を塞ぎたいほど醜悪で卑猥で淫乱に見えた。

「葵の中はもうぐちゃぐちゃだよ」

 くく、と耳元で基がささやく。

「ほら、溶け出した愛液が俺の足をこんなに濡らしてるよ」ぺろりと耳たぶを舐められ、熱い息を吹きかけられ、葵の理性は消し飛んでしまった。
「いやぁ、やめ―」
「何言ってるのさ、こんなに自分で腰を動かしてるのに」

 かああっと羞恥に頬を染める葵を鏡越しにじっと見つめながら、基は激しく指を動かしていく。

「ぁぁ、ぁぁあああ、ぁぁああっ、ぅああ、ああああ、あああっ」

 葵の身体を知り尽くしている基の手は、絶妙に彼女の感じる部分を愛撫する。気が遠くなるような激しい官能に、葵はがくがくと腰が痙攣していた。しがみついていた基の腕に必死にすがりつき、葵は何度も突き抜ける電流に声をあげ続け、遂に足のつま先までびくびくと痙攣が走った。

 やっと刺激が止み、一気に脱力した葵の身体を抱きとめて、基もうっすらと汗を浮かべていた。両腕でしっかりと葵の胸を抱き、基は鏡の彼女に向かって笑う。

「なかなか良い表情(かお)をしてたよ、葵。今度は別の角度から見せてあげようか」

 もう、身体が動かないのに、と葵は声を出すことすら億劫で、僅かに懇願するような目を鏡に向ける。しかし、基はただ嬉しそうににやりと微笑を返しただけで、汗ばんだ葵のうなじに唇を寄せて舌を這わせた。

「ほら、葵。しっかり腕を突っ張って」

 やがて、基は、ゆっくりと葵の腰を抱いたままベッドの上にあがり、一旦身体を離すと彼女を四つん這いにさせた。顔は鏡を見るように指示し、彼は再び葵の中に自身を沈めていく。もう、反応する力のなかった葵は、僅かに顔を歪めた程度だった。もう、とろとろと溶け出したままの彼女の中は受け入れる準備が出来上がっていて、葵自身にすら、それをどうすることも出来ない。

「ほら、気持ち良いだろ? 葵」

 つん、と奥を突かれて、きんと快感が走る。

「ぅ…」
「気持ちが良いだろ?」

 基は、屈みこんで葵の背中を抱き、ぎゅっと胸を掴む。すると葵の身体は勝手に反応して、ぴくんと背中がのけ反った。

「ぅ、あっ」
「気持ち良いって言えよ、葵」
「ぁ、…い…良い」

 はぁはぁと呼吸をするのが精一杯で、今にも腕から力が抜けそうで、葵はとにかく言われたことをそのまま繰り返す。

「俺が欲しいだろ?」
「ぅ―」もう、声を出すことすら切なくて、葵はこくんと頷く。聞かれている内容など、彼女にはもう理解出来ていない。頭の中は白く霞み始め、思考を紡ぐ力など残ってはいなかった。
「もっと、俺の腕の中で狂いたいだろ?」

 こくり。

「中にいっぱい欲しいんだろ?」

 こくり。

「良いよ、葵。望み通り、今日は気が狂うまで抱いてやる」

 背中にキスを落としながら、基はしっかりと葵の腰を抱く。そして、ゆっくりとなぶるように、或いは激しく早く大きく、緩急をつけて葵の身体を貪っていった。まるで満たされなかった渇望を、狂った欲望を、自らと、身体を繋ぐ相手とを貶めることで杯を満たしていこうとするかのように。

 顔をあげる余裕などなくて、葵は鏡を見てはいなかった。それでも、時々ちらりと視線の端に捕えられるその絵は、幸福を与え合うような愛の行為ではなかった。媒介するものが欲望なのか、或いは憎しみや怒りや恐れ、支配と服従といった歪んだ、しかし壮絶で妖艶なる美しさがそこには在った。

 腕が身体を支え切れずに崩れ落ちて、葵の喘ぎ声はシーツの中に埋まる。すると、基は荒い息遣いのまま一旦動きだけを留めて、葵の身体を器用にくるりと横向きにする。中をぐるりと抉られて、葵は声をあげ、ほとんど閉じられていた目を見開く。胸がふるふると揺れてしっとりと全身が汗ばんでいることを感じた。

「ほら、見えるだろ?」

 基は鏡を指さす。髪を振り乱したまま、葵は片足を基に抱え上げられ、恍惚の表情を浮かべていた。もう、何もかもがどうでも良いと、例え父に知られても、母を悲しませても構わないような気になり掛けていた。二匹の裸の獣が交尾をしている。激しく交わりあって、生殖行為を営み、そして子孫を―。

 はっと我に返る。

「ぁ…っ、ダ―メ、もと…い。お願い、中に、出さないで」

 搾り出すように、震える声で葵は懇願する。

「お願い―」

 僅かに動く腕をあげて、基を見上げ、手を差し伸べ、彼に触れようとした。

「イヤだよ」その手を掴んで基は、ふん、と冷笑する。「正気に返っちゃったのか」

 葵の小さな手をぐいと掴み直し、基はその指を舐めて言った。

「どうしたのさ、今日は危ない日?」

 葵は、小さく頷いたように見えた。すると基はにやりとほくそ笑む。

「良いよ、今度は正気に返れないくらい、気持ち良く壊してやる」

 突然の小刻みに鋭い揺れに、葵は一気に頭の中が白く光った。

「ぁぁ、ぁぁぁっ、ぅあああ、ああああっ、ああ、あああ、あああ、ああああっ」

 身体の奥が痙攣する。何度も背筋がぞわぞわと電流が走り、葵は首を振り、シーツにしがみつき、切なく喘ぎ声をあげ続ける。そして、ようやく基も頂を上り詰め、葵の最奥に突き刺さって留まる。カッと根元が熱くたぎり、溜まりにたまった熱が勢い良く吐き出されていった。どくんどくんと後から後から押し寄せるように。

 しばらくそのまま静止していた二人は、呪縛が解かれたようにゆっくりと解けて離れた。

 ふと見上げると時計の針は12時を過ぎていて、窓の外は明るい日差しでいっぱいだった。汗だくになって、基は暖房の設定温度を少し下げる。そして、そのまま葵の横に倒れこんでしばしの休息を貪った

 一日は長く、日暮れまではまだたっぷり時間があった。


業火 futari 24 

業火 ~fell fire~(Rewrite編)(R-18)

「ん…っ」

 何か甘いものを口に中に感じて、無意識にごくりと飲み下し、葵は、うっすらと目を開けた。

「やっと目を開けた」

 基の顔がごく近くに見えた。彼の唇が濡れて光っている。

「もっと飲むかい?」

 聞かれた意味が分からなくて、葵は茫然と彼の唇だけを見つめていた。口の形だけは母に似ているなぁ、と思いながら。グラスからゆっくりと何かの液体を口に含んだ基は、そのまま口移して葵の口にそれを流し込んできた。

「ぇ?―、んぅ…っ」

 口の中に満たされていくその味を、ようやく思い出した。スポーツドリンクだ。妙に甘く感じるのはどうしてだろう? 特に何も考えられず、喉の渇きを感じて葵はそれをこくこくと飲み続けた。
 最後の一滴を飲み干しても、基は唇を離さなかった。そのまま、舌を差し入れてくると、ゆっくりと中をかき回し始める。葵はごく自然にそれを受け入れながら再び目を閉じる。基の舌先が口の中をくすぐり、ときに激しく吸い上げられて葵の舌は彼の口の中で弄ばれる。

「ん―ふぅ…ん」

 気持ち良い、と葵はとろりとする意識の下で思う。基の舌は、気持ち良い。

「葵」不意に唇を離して基は指先で葵の口の端を伝う涎をぬぐった。「そんな顔をすると、また襲いたくなるよ」

 ふと気が付くと、辺りはうっすらと夕闇が下り始めているようだ。部屋が明るいのはもう電気を点けていたからなのだと知る。蛍光灯を背にしている基の表情は少し分かりづらい。

「もう5時を過ぎたよ。そろそろ夕飯くらい食べた方が良いんじゃないか?」
「ぁ…」

 そうだ、朝食を皆で食べた後、昼食も取らずに二人は一日中身体を繋ぎ合っていたのだ。

「え、5時過ぎ?」

 基の言葉がようやく脳に届き、葵は身体を起こした。ずっしりと重く気だるく、身体全体に疲労が漂っている。いつの間にか、基はもう服を着てスポーツドリンクをごくごく飲んでいた。時計を見ると確かにもう5時半近くだった。

「ご―、ごめん。何か、作る…?」葵は、はっとしてベッドから足を下ろす。そういえば、そのために私は残ったんだった。
「もう出来てるよ」
「え」言われた意味が理解出来なくて、葵はきょとんと彼を見上げた。
「出前でも取ったの?」
「違うよ」
「何か買ってきてくれたの?」
「違うよ」
「…え?」
「俺が作った。まぁ、材料は君の母上が大量に買い置きしていってくれたしね」
「え、えええっ?」
「それより、早く何か着ろよ。それとも、食事の前にもう一回運動する?」

 人差し指で葵の顎をくいと上に向けて、基は怪しい笑みを浮かべる。それがとても冗談には思えなくて、葵は慌てて周囲を見回し、いつの間に置かれていたのか、布団の上の彼女の服を見つめてかき集める。

「い、今、着るからっ」


業火 futari 25 

業火 ~fell fire~(Rewrite編)(R-18)

 料理なんてまったく出来ない筈の基の作った夕食はびっくりするくらい上手だった。

「え―、これ、お母さんに習ったの?」二人きりで食卓を囲み、数種類の見事なディッシュに葵は本気で目を丸くした。
「まさか」基は淡々と答える。「一人で覚えたんだよ。本とか、テレビとかでね」
「独学?」
「まぁ、そういうことになるのか」
「す…すごい!」
「自分で作らないと、ウチは食べるものがなかったからね」

 半分冗談だろうと思いながら、葵は頷く。

「そうかぁ。ウチはお母さんがお料理上手だから私もあんまり必要性を感じないのかもね」
「そういうことさ」

 特に感慨もなさそうに基は味噌汁をすすった。

「俺は、お金を渡されて家に置かれ、親は二人揃って外食。そんなのは日常茶飯事。お金さえ与えておけば子どもは育つと思ってたみたいだからね」

 さすがに葵は絶句する。

「そんな親なんて、いないでしょ?」
「まぁ、いないんだろうな」

 基は、彼の家族の話をするときには、まったくと言って良いほど、感情のない瞳をしていた。

「好き嫌いなんて、なさそうね」
「俺? あんまりないね。葵は葱と玉ねぎとか食えないもんな」
「なっ…なんで知ってるのよ?」
「そりゃ、隣で見ていればね」

 いつも基は、隣で黙々と食事を進めている。食事に関しては、彼は一度も文句を言ったことがないし、食べられないものもないようだった。そして、必ず、母においしかったとお礼を言う。母は、そんな基を、嬉しそうというよりはむしろ心配そうな微笑で見守っているように見えた。

「あれ、そういえばこれって玉ねぎ?」
「そうだよ。正体のないくらい炒めてしまえば食べられるだろ?」
「…ほ、ほんとだ」

 葵のために、わざとそういう調理法にしたのだという事実を知り、彼女は僅かに動揺する。優しいのか、冷たいのかさっぱり分からない。でも、とりあえず、お礼は言っておいた方が良いだろう。

「ありがとう」
「どういたしまして」

 葵の考えなど見透かしているように、基は皮肉な笑みを浮かべた。



業火 futari 26 

業火 ~fell fire~(Rewrite編)(R-18)

 真夜中近く、熟睡の域に達しようとしていた頃、葵の部屋にそっと基が忍び込んできた。すうすうと寝息を立てる姉をしばらく見下ろしていた基は、するりと彼女のベッドに潜り込み、その気配に驚いて、葵は目を開けた。

「も―とい? 何…どうしたの?」

 寝ぼけたまま、葵はぼんやりと彼を見つめる。

「眠れなくてね」彼の目は確かに冴えているようだった。
「…私はもう眠いんだけど」
「良いよ、眠ってて」

 基の言葉に、葵は「あ、そう」と本当に眠りに落ち込みそうになる。

「俺が勝手に抱くから」
「な、何言って―」

 それでも、睡魔は容赦なく葵に襲い掛かってくる。

「大丈夫、今日はもうしないよ。葵は眠ってて良いよ」

 基の言葉をすでに半分夢の中で聞く。基の手が器用に葵のパジャマの中に忍び込んできて、更にそれを脱がせようとしている、と感じたときには意識は半分以上なかった。夢の中で、基の指先が、舌先が、葵の身体を静かに愛撫しているのを感じ続けていた。

 やがて、身体が熱くなって、それが尋常ではない域に達して、はっと葵は目を開けた。真っ暗闇に基の息遣いだけが響き、身体の中が熱く溶けているのが分かる。

「ぅ…ぁあ、な―に」

 何も見えなくて、初めは何が起こっているのか分からなかった。しかし、両足は大きく広げられて折り曲げられ、ナカを往復する異物感があり、痙攣が腰からつま先まで、そして頭上まで突き抜けていく。

「も…っ、基っ…ちょ―、ちょっと待って。もう、しないって言っ―、ん、んんぅぅっ」

 文句を言うとそのまま口をふさがれて、その激しく熱い口づけに意識は暗転しそうになる。

「んぅ、ぅ、ぅ…」

 口をふさいだまま、基は奥へ突き刺さり、彼の熱を葵の身体の奥へと送り込んで止まった。
 さすがに、基も息があがっていた。
 基がゆっくりと口を離すと、身体の奥の熱はまだ萎えることなく燃え盛っているのが感じられたが、葵はもう身体を動かすことはおろか、文句を言う気力も残っていなかった。

 あれだけセックス漬けの一日だったのに、まだ足りなかったのか? と葵は茫然としてしまう。

「…も、もと、い…、もう、―どいてよ」なかなか葵の中から出て行かず、彼女の身体を抱きしめたままその身体の上で呼吸を整えている基の下で葵は微かにもがいた。

「イヤだよ」
「―え」
「このまま繋がっていれば、俺、眠れそうだもん」
「な―、何言って…っ、そんなのダメ! もう、どいてよ」
「イヤだ」
「い…っ、イヤじゃないよ、基のバカ! こんなの無理に決まってるっ」
「無理かどうか、試してみる?」

 基の目が怪しく揺れる。

「ダメ、絶対ダメ、お願い、やめて!」
「イヤ」
「も、もといっ」

 さすがに本気で目が覚めて、今にも泣きそうな葵の声に、基は「ふうん」と冷たい視線を送る。

「じゃ、交換条件だよ」
「な…何が」文句を言いかけて、身体を人質に取られていることを思い出す。どれだけ泣き叫ぼうと暴れようと、基は決して葵を可哀想に思って許してくれはしない、と断言出来る。スポーツマンの基に敵う体力なんてないし、力では絶対に敵わないこともよく分かっている。

「これから一週間、俺に絶対に逆らわないこと」
「…な、何よ、それ」
「つまり、俺の奴隷になれ、ってことだよ」
「い…っ」イヤよ! と叫びかけて、葵は辛うじて口を閉じる。
「い?」
「いっ…週間だけ、ね?」
「そうだよ」

 基の言葉の真意はいつも捉えどころがない。だけど、今までの言動からすれば、葵の身体を好きにしたいという意味だろう、と背筋の寒くなる思いで考える。彼女の合意があろうとなかろうと、どうせ基は初めからそのつもりなんだから、約束したところで変わりはしないのではないか、と葵は計算した。

 いずれ必要になるし、ネットでピルを購入すれば―、と。

「分かった。分かったから、早く、どいて―」
「奴隷が生意気な口をきくんじゃないよ」

 特に不機嫌な声ではなかったが、突然のその声のトーンの低さに、葵はぎくりと身体が強張った。

「これで、奴隷契約を結んだことになるからね、葵。一週間かけて、きっちり従順な奴隷に躾けてやるよ」

 それは、今まで聞いたことのないぞっとするような低い声で、冷たい目で、葵は初めて本気で恐怖を抱いた。これは、本当に私の弟なんだろうか? 本当に、母の息子で、私と血が繋がっているんだろうか?

「葵」不意に基が腕を立てて彼女を見下ろした。
「そういう怯えた顔ってね」くすりと彼は笑う。「俺の嗜虐心をこれ以上ないくらいそそるよ」
「な…に?」
「ほら」葵のナカの彼がむくむくと膨張するのが分かった。「もう一回出さないと収まらなくなってきたよ?」

 葵は訳も分からずこくこくと頷く。

「良い子だね、葵。よく分かってるじゃないか」

 ぐい、と一旦腰を押し付けてナカをかき回してから、基はゆっくりと動き始める。恐怖に固まっていても、身体はきっちり彼の愛撫に反応を示して、とろとろと蜜が浸み出している。

「良い身体だよ、葵。最高だ」

 まるで狂人のような光を宿した瞳で基は冷たく微笑む。

「ぅ、ぁ、…ぁ、ぁ」
「ちゃんと奥まで届けてやるよ」

 大きく腰を揺らし、何度も打ち付けるように奥を突く。葵がその強烈な刺激に悲鳴をあげるのもお構いなしで、基は組み敷いた獲物を貪った。ようやく基が二度目の放出を終える頃には、葵の身体はもう反応が出来なくなるくらい、疲れ果て、疲労困憊していた。


業火 futari 27 

業火 ~fell fire~(Rewrite編)(R-18)

 翌日は、二人で遅い朝食を食べた後、さすがに基も部屋から出て来なかったし、葵もリビングで借りてきた映画のビデオを観てぐったりと一日を過ごした。昼食は飛ばして、少し早めの夕食を終えた後、母から電話がある。

「大丈夫? ちゃんと食べてる?」
「うん、適当に作って食べてるから大丈夫。おじいちゃん達は元気?」
「元気よ。でも、やっぱり葵に会えなくて寂しがってるよ。それに、基にも会うのを楽しみにしてたみたいだから」
「そ、そっか…」
「何か他に必要な物とかあったら―」
「ないない、何もないよ。だって、たった一週間のことだし」

 たった一週間の、しかし、まだ二日目なのだ、ということに葵は話しながらずっしりとしてしまった。今日は平和に過ごせたけど、あと5日間も残っているのだ。

「そうね。じゃ、基と仲良くね」
「分かってるって」

 内心、ぎくりとしながら、葵は笑ってみせた。

 仲良く―。仲良くなんて出来るのか? あんな鬼畜の弟と。そもそも、似てる部分があるなんて思ったのは錯覚だったのではないかと葵は思い始めている。本当に血が繋がっているんだろうか? と。

 しかし、同時に確かにあれは弟だと、葵の深い部分では分かっている。決して血を交えてはいけない相手だと。そして、食事のときに見せたような妙にちぐはぐな優しさ。葵が作った食事が、慣れない味付けに多少失敗しても、水加減を間違えて煮物が汁物に近くなったりしても、基は一切文句を言ったりしない。淡々と食事を進め、最後に「ありがとう」と微笑む。そういう部分に、葵は胸がきゅんとなるような感動をおぼえてしまうのも本当だった。

 基は、日常の中では、ごく普通の男の子に見えなくもない。
 だけど、葵だけが感じていた違和感。そして、その正体―。


業火 futari 28 

業火 ~fell fire~(Rewrite編)(R-18)

 その夜、お風呂上りに部屋に戻ったところを、恐らく待っていたのだろう、不意に扉が開いて基に腕を掴まれ、部屋の中に引き込まれた。

「ひゃ…っ」
「随分ゆっくりだったじゃないか」
「そ、そんな、私が何時間お風呂に入ろうが」言いかけて、葵ははっと口をつぐむ。
「関係ないだろ? って?」
「ぅ…言ってないじゃない」

 ふん、と基は鼻を鳴らす。

「まぁ、今の分は良いことにするよ。その分は身体にきっちり教え込んでやるよ」
「ちょ―、ちょっと待っ」
「口答えをするな、葵」

 背後から抱きすくめられ、パジャマの上下を一気に引き剥がされ、葵は必死に抵抗を示す。

「もっ…もとっ…お願いっ」
「なんだよ、うるさい」

 苛立ったような声に葵は僅かに身が竦んだ。

「お、お願い、基。言うことは聞くから。だから、避妊だけはして。コンドーム使ってよ」
「イヤだよ、あんな窮屈なもん」取り付く島もなく一蹴される。「だいたい、俺に合うサイズのが滅多にないんだよ」
「そ、そんな」と言いながらも、他に男を知らない葵でさえ、基のは大きいのかも知れない、とこっそり思う。
「じゃ、…その、せめて中で出さないで」
「おい」と基は斜め上から葵を見下ろす。「奴隷が生意気な口をきくんじゃないよ」

 前の晩と同じセリフを吐いて、基はふん、と鼻で笑う。

「だ―って、だって、基だって、困るじゃない…」
「なんで、俺が?」
「だって、もし、子どもが出来てしまったりしたら―」
「しまったら?」
「…ぅ、ええと、困る」

 じゃ、堕ろせば? と言われそうで、葵は僅かに身構えた。分かってはいても、やはり男の口からそのセリフを聞くのは辛い。

「出来たのか?」

 すると、意外にもそんな問いが返ってくる。

「へ? …で、出来てないよ。そんなことになったら、この家にいられないよ」

 生理は3週間前。だから、あと一週間で来なければ、実はマズイという時期でもある。ふうん、と基は勝手に納得し、立ったまま、葵の身体を撫で回す。壁に背中を押し付けられ、あっという間に膝を割られて足を閉じることが出来ない。基の手が迷いもせずにクリを探り当てて、そこを舐り始めた。

「や…っ、やめ―イヤ」

 基の肩を押し戻そうと葵はすがりつくような姿勢で力を込める。腰の辺りが熱く疼いてくるのを感じながら、更に頭の芯がくらりとして、慌てて頭を振る。次第に腕から力が抜けて小刻みに震えてくるのが分かり、葵は必死に基の肩にしがみついた。膣口がひくひくと痙攣している。次第にがくがくと足から力が抜けてきた。

「ぁ、ぁ…ぅ、ぅぅ」

 花びらと先端のぷっくり膨れた突起とを舐っていた基の指先がとろりとした蜜をすくい、それを花びらの内側全体に塗りつけていく。

「やぁ…っ、ぅく…」

 身体に力が入らなくなって、葵は、目の前の男の広い胸にもたれかかるように顔を埋め、はぁはぁと肩で息を吐いた。

「入れて欲しくなっただろ?」

 耳元で悪魔がささやく。小さく首を振りながらも、葵はまったく身体が言うことをきかない、という事実だけをそこに感じている。片足を抱えるように足を開かされ、ひくついている膣に熱いものを押し当てられたことを感じた。

「入れて欲しいかい? 葵」

 じらすように先端を軽く触れながら、基はそれに蜜を塗りつけている。

「ぅ…ぅ、ぁ」

 葵のナカが小さく痙攣する。膣壁からじわじわと蜜が浸み出して溢れてくる。

「俺が欲しいだろ?」

 頷いたら終わりだというように、葵は必死に唇を噛み締める。しかし、身体のナカはますます火照ってざわざわとしてくる。基の熱い固いものが欲しい、と訴えてくる。

「ぁ―、ぁ、もと、い…」堪えきれなくなって葵は懇願する。
「なんだよ」基は素っ気なく聞き返した。

 彼の胸に顔を伏せている葵は、その声を内側から聞いているように感じる。

「―っ、ぅ、ぅ…っ」
「言ってみな、葵」

 耳の下をべろりと舐められ、ぞくぞくと背筋に小さな電流が走りぬける。

「ぃ…」
「ちゃんと言え」
「入れて」

 くっくっく、と基が喉を鳴らして笑った。

「良いよ、葵、入れてやる。だからしっかり顔をあげて俺を見ろ。お前が誰のものなのか、しっかり刻み付けておけよ」

 ぐい、と髪の毛を後ろから引っ張られ、葵は苦痛の表情で顔をあげた。そして、次の瞬間には、立ったまま奥までを一気に貫かれ、頭に突き抜けるような鋭い官能が身体を突き抜けた。

「はぁぁぁああぁっ」

 大きな吐息とも悲鳴ともつかない息を吐き出し、葵は身体を震わせる。

 そのまま、基はゆっくりと大きく腰を動かし、その度に葵は背中を壁に打ちつけられる。片足を抱え上げられ、更に、基の方が背が高いお陰で、床についている足はほぼ爪先立ちになり、今にもつりそうになっていた。

 不安定にふらつく葵の様子に気付き、基は、葵の背中を壁に押し付けたまま彼女の両脚を抱きかかえた。

「ひゃあっ」

 すっかり宙に浮いた形になった葵は悲鳴をあげ、慌てて基の首に抱きつく。そして、次の瞬間には、下半身が繋がったまま基に抱き上げられた。

「良い格好だね、葵」くすりと基は笑う。
「鏡が見えないのが残念だ」
「や…っ、イヤ、基…、おろして、お、おろしてよぉ」

 落ちそうになって、ぎゅっと基の腕が葵の腰を抱き寄せると、深い部分を抉られてのけ反るような刺激が身体の奥を貫いていく。

「ぅ、ぁぁぁっ」

 基の肩に必死に顔を埋めて、葵は少しでも腰を浮かそうと彼の腕にしがみつく。基は壁を離れてゆっくりベッドへ向かって歩き始めた。

「しっかり捕まって、葵」
「ぅ、あ、あ、ぁぁああっ」

 歩く度に身体が揺れ、ずんずんと奥を突かれる。絡みつくように必死に基の身体にしがみつくしかない。ようやくベッドにたどり着き、基が腰を下ろすと、葵はがくがくと彼の胸に崩れ落ちた。


業火 futari 29 

業火 ~fell fire~(Rewrite編)(R-18)

「葵、俺の子を生めよ」

 くぐもったような基の声を、葵は初めぼんやりと聞き流し、ようやく心に言葉が届いたのは大分経ってからだった。
「え―」それでも、その意味を理解するのには数秒を要する。

 そのとき基は、葵に覆いかぶさるように、いや、まるで子どものようにその胸に顔を埋めてすがりつくように彼女の身体を抱きしめていた。

「な―、なに、言ってるの?」

 基は答えなかった。いつもなら間髪入れずに皮肉や命令が口から飛び出す彼が、何も言わずに、ただしっかりと葵の胸に顔を埋めていた。

「も…基?」

 聞き違いか、或いは脅しのようなもの? からかっているだけ? それとも何か別のことを比喩的に口にしてみただけ、とか?
 混乱を極めて、葵の心は波立つ。

 避妊する気がない。ということはなんとなく感じていたし、それが単に面倒だとか、中出しの方が気持ち良いだとかそんな理由でもないことを、今夜改めて思い知った。だけど、危険性を考慮していない浅はかさではなく、目的があるのだということを突きつけられるのは想像を絶する恐怖だ。

 顔をあげて、青ざめて言葉もない葵を見据え、基は、ふん、と笑った。

「時間の問題だよ、葵。一年間、特に狙わなくたって、ヒットすることはあるからね」
「待っ…、待ってよ」
「君の家族は」葵はぎくりと強張る。不意に両親の顔が浮かんだ。「君が妊娠したって知ったら、どうするだろうね?」

 その笑みがぞっとするほど冷たかった。

「実の弟に陵辱されて、呪われた子を身篭ったと知ったら―」
「え」

 その言葉ではなく、その声色と瞳に葵は恐怖を―いや、衝撃を受けた。何故だろう、泣きそうになった。

「ど、どうして…」何故、そんな言い方をするのか、と葵は思った。しかし、基にはそうは聞こえなかったらしい。
「どうして? どうしてなのか、聞きたいのはこっちさ。こうやって俺たちの親も勝手に俺たちを作っておいて、そして、離婚だ、親権だと騒ぎ立てて、何もかもをズタズタに壊しておいて。…挙句、この有りさまさ」

 吐き捨てるような口調だった。

「俺は、ずっと待っていたんだよ。こうやって―、葵、お前とお前の家族をめちゃくちゃにしてやる瞬間をね」

 叫んでいる訳ではないのに、何故か葵には悲鳴が聞こえるような気がした。血を流し続け、膿んで腐り果てている大きな傷が見えるような。

「基」思わず抱きしめようと伸ばした手を、基は乱暴に掴んでシーツに押し付ける。
「逃がしはしないよ、葵」

 冷たい声だった。

「基」
「俺の名を呼ぶな!」

 葵の頬を伝う涙に、基は僅かに心が揺れた。

「俺の名を、呼ぶな」

 溜まった息を吐き出すような、苦しげな声だった。


業火 futari 30 

業火 ~fell fire~(Rewrite編)(R-18)

 基、と名前を呼ばれたことが、彼はなかった。母親も父親も、「おい」とか「お前」と彼に話しかけた。名前の持つ意味を、基は知らなかった。

 だから、幼稚園や学校で点呼を取られるのが、彼は好きだった。名前を呼ばれる瞬間、彼は自分がここに存在していることを確認出来た気がして安堵する。ここにいても良いのだ、と。わざと素っ気なく返事をして煩わしそうな表情を浮かべては見せても、彼の心は躍っていた。名前を呼ばれるとは、彼にとっては愛情を示されることだった。

 しかし、次第に基の心は身体から遊離していく。傷つかないようにするには、心を麻痺させるしかない。幾重にもバリアを張って、内側に踏み込まれないようにしなければならない。望みを悟られてはいけない。絶望を見せてはいけない。

 親に名前を呼んでもらえないとは、自分の存在が日々薄くなり、消えていってしまうことだった。

「会いたかったわ、基! ああ、大きくなったのね。顔をよく見せて? 基ってば、本当にあなたのお父さんによく似てきたわね」

 母親に再会した途端、彼女は泣きそうな愛情溢れる目をして、彼の名前を何度も呼んだ。しかし、そのときにはもう彼の心は内側からしっかりと鍵が掛かっていた。誰もその開け方を知らない、彼自身ですら鍵の在り処を覚えていない程頑丈な鍵だった。

 葵、という名の姉がいると知って、父宛に送られてくるその成長記録を見つめ続け、一緒に写っている家族を眺め、基は内側から湧き起こってくるバケモノのような感情を制御する術を見失っていく。その正体が何なのかも知らずに、幸せそうな家族をズタズタに切り裂く夢をみる。

 どうすれば、この写真の家族が一番深い切望を味わい、嘆き苦しむのか、それを考えるときだけ、基は孤独を忘れ、怒りや憎しみを忘れることが出来た。知らなければ、きっと憎むことも呪うこともなかった。他の「家族」が本当はどんなものかを知っても、基は羨望と孤独を知っただけで、きっと呪うのは我が身だけであっただろう。

 しかし、姉が、いた。同じ日に生まれ、同じ祝福を受け、同じ愛情を受けて母親に抱かれた筈の、双子の片割れが。引き裂かれた双子が、まったく逆の人生を辿ってそこに、いる。

 葵が彼の腕の中で苦しげに喘ぐ姿を、羞恥に身を震わせ、彼に許しを請う切ない顔を見るとき、心の底からぞくぞくとした快感が湧き起こり、それまで彼が味わった地獄の時間が帳消しになっていく、―筈だった。

 初めの内はそうだった。いや、今でもそれは味わえる快楽であり嗜虐欲でもあった。
 しかし、葵の目が、彼の心に小さな楔を打ち続ける。
 不幸など何も知らない筈の姉の目が、どれだけ虐げられ、貶められても、彼女の目の光は彼に何かを訴え続けていた。

「基」と彼女の口が彼の名を呼ぶ。
「基」その唇の動きで、彼の心の氷が不意に氷解を始める気配がする。
「俺の名を、呼ぶな」

 あれほど呼んで欲しかったのに。家族に名前を呼ばれることが彼の夢であったのに、基は、混乱して呻いた。そんな目で俺を、見るな。

 何を、望んでいるのか。
 本当に望んでいることが何なのか。
 自らの闇も、心の叫びにも聞く術を持たず、彼は彷徨い続ける。


Index ~作品もくじ~



 

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